異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

閑話 教会の立ち位置

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イズミ達を見送ったロレッタとデュークは、リーベルトに話をする前に2人だけで今日の出来事を思い返す。

「ロレッタ、我々はとんでもない領域に踏み込んでしまったようだ」

「そうみたいですね…イズミさんに関わってからと言うもの、教会の常識が砕かれてばかりです」

「うむ。本来であればイズミを教会に引き込みたい所ではあるが、私は女神様より直接釘を差されてしまった。コレだけはリーベルト様にも報告が必要だ」

デュークは会食の対応をしている時、初めて直接お会いした火の女神ヘスティアから警告されたのだ。

「デュークよ、お主の口から教会の上の者達に伝えるのだ。あの男イズミと深く関わってはならないと。あの男は我々女神よりも上位者たる存在の所有物だ。組織に縛り付けるような事をすれば、上位者の怒りを買い直ぐに滅ぼされるだろう」

「ヘスティア様、彼は独力で女神様をお呼びする事が出来る実力者とお見受けします。そのような逸材に目を瞑れと申されますか」

「あの男はお主が思う様な逸材ではない、特別では無く特殊なだけだ。特殊な出自故に我々と関われるが、その特殊さ故に我々からの祝福や加護を一切授かれない…この意味が分かるだろう?」

全ての人は生まれた時から女神達の祝福…主に魔法が使えるようになる…を授かり、一部の限られた者が加護を授かれる。
人と表現するが亜人や獣人に魔族に魔獣と、その身に僅かでも魔力を保有しているのであれば祝福を授かれるのだ。
そして魔力を持たない人間は存在しない、魔力は魂と密接に関係しており魔力が無ければ魂が肉体に宿らない。
少なくとも光の教会では、そう言い伝えられている。

ではイズミと言う男はどうだろうか。
魔力はあれど魔法が使えず、女神が自ら祝福も加護も与えられないと明言された男。

特別ではなく、特殊。
この言葉の意味を理解し飲み込むべく、デュークは険しい表情で考え込む。

その間にヘスティアはお酒コーナーに置かれたあるドワーフ酒を指定してグラスに注いで貰うと、見る者が息を呑む程に美しい動きで口をつける。

「ではラミア族はどうして」

「グラテミアが上手く立ち回っている。人間組織が絡むと厄介だがラミア族は魔族、女神とも他の魔族とも繋がりがあり、尚且つ魔界とも交友関係がある。魔王夫妻が来てアヤと言うラミアと会話をしていただろう、ラミア族はイズミの動向を見守る役割を一番最初に買って出ており、定期的に女神と魔王に報告をしている。自分達の探究心をそこそこに満たしつつ、イズミがもたらす知識もラミア族が鋭意研究中だから何れ世に出回る…役得と言う奴だな」

ラミア族は監視役を買って出て利を得る権利を手にし、冒険者ギルドはベリアを通じてイズミの動向をある程度把握出来る。
光の教会としては現時点では繋がりが薄く、何かにつけて後手に回りがちな状態だ。

「案ずるな。光の教会として取るべき動きなど簡単だろう…相談を受けたら対応する、それ以外では静観の立場を取る。これだけだ」

「しかしそれでは、我々の動きが周囲より遅くなります」

「それで良いのだ。あの男は自由気ままに動き、行く先々にて起こる物事を独力にて決着を付けるだろう。後処理は冒険者ギルドや領主、稀に国が行なう事になるだろうが奴等にも限界がある。其処で教会が支援を買って出れば良い」

早めに知ってしまえば事前準備が出来るが、それはその土地の管理者や冒険者ギルドに任せてしまい、教会は敢えて後手に回る事で各所に恩を売りながら対応が出来る。
その為の段取りさえ、教会内で作れていれば。

「この程度の判断なら、教会の大司教達でも辿り着くだろう。辿り着かねば奴等の目は節穴だ」

「どうして私に、そのような話をして下さるのですか?」

デュークはお菓子コーナーで対応をしているロレッタに目をやってから、ヘスティアに尋ねた。

「妾は信仰をしてくれる者には優しいのだ…礼は毎月初めの祈りの時に、酒や果実のジュースや菓子を捧げてくれれば良いぞ。お主も見ていて分かるだろうが、他の女神達も精霊達も喜んでおる。温野菜やじゃがバター?は土の精霊が大層喜んでおったし、果実のジュースは水の精霊が幸せそうに飲んでおった。祈りの時に捧げれば、精霊達も活力が漲る事だろう」

何と言う事だ!
今日の会食で出された料理は確かに試食した際に美味であったのは確認していたが、あの料理達を作る事が出来れば僻地にて活動する教会の者達からの陳情にも応えられるかもしれない、その土地の大きな飛躍への一歩に成り得る事の証明の場になっていたのだ。

その発見をしたデュークは、会食のサポートをしながら懸命に記憶した。
どの精霊がどんな料理を好んで食べていたのか、どの女神様がどのドワーフ酒を好んで飲んでいたのか。
自分の持てる知識の限りを尽くして、今日この場で繰り広げられている物事を頭に詰め込んでゆく。

この会食の場にあるのは間違い無く、より良い未来に咲く大輪の花の種なのだ。

「デューク様。私、実はオブリビアでイズミさんから何かお礼をさせて欲しいと言われてまして」

「お礼、ですか」

「左腕の治療や鑑定のお手伝いをしたのがきっかけなのですが」

「あの件か」

そう言ったロレッタの表情を見て、デュークは少し頭を抱える。
勤勉な男と評価されいずれは大司教にも成れる男と言われたシュナイダーが起こした暴挙に、光の教会の大司教以上の役職の者達は衝撃を受けていた。

オルド=リン氏が迅速な対応をしたので一旦は落ち着いた話だが、現在も教会内においてその処遇について気を揉んでいるのだ。
これも梅雨明け一番には決断をして、イズミには報告と共に正式な謝罪をするべき事案だ。
女神様が特殊と明言する男だ、下手な手を打つと酷い結果になるだろう。

「私は教会に拾われる前まで、ずっと食べる物に苦労していました。戦争で故郷を追われ、逃げ延びた先の荒れ果てた地で何とか生き長らえていたんです」

「知っている。帝国の領土拡大政策の影響だな」

「はい。女神様も精霊様達も笑顔に出来るあの料理は、きっと荒れ果てた地で生きる人達の糧になる筈」

デュークとロレッタはリーベルトの元へ歩き出す。
デュークは今後の光の教会の為に、ロレッタは自分の夢とその先に待つ少しでも明るい未来の為に。
各々が決意を固めてリーベルトが居る執務室の扉を叩くのだった。
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