異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百三十二話 酒盛りの予定

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雨の降るヒュミトールの大通りは梅雨前と比較すると人気が少なく見えるが、活気が無くなった訳では無く食料品や消耗品の購入をする客や梅雨でも仕事のある冒険者達で賑わっている。

そんな大通りを横目にイズミはマスタングを賃貸物件へと走らせていると、建物の前に見慣れない人影が居たので徐行にて接近する。

「どちらさんです?」

「光の教会から頼まれて来たのです。この手紙を直接渡して欲しいとの事でして」

「…分かりました、少々お待ちを」

ローブを雨に濡らした男だった。
イズミは建物隣の馬車置き場にマスタングを駐車すると、軽く索敵をさせてから男の元へ向かう。

「お待たせしました。手紙とやらを受け取りましょう」

「此方です」

男が胸元からゆっくりとした動作で手紙を取り出す。
素早い動作をしないのは有り難い。
何かを渡すと言って接近し、素早くナイフを抜いて刺す…なんて事も出来る距離での超至近距離でのやりとりだからだ。

「差出人は?」

「ロレッタ様です、内容は大まかに報告と個人的なお願いとだけ伺っております」

「返事は直ぐに欲しいのか」

「出来れば数日以内に」

「数日ね…なら入ってくれ。読んでから直ぐに回答しよう」

イズミは建物の扉を開けると、なるべく男に背中を見せないように意識しつつ近くの椅子に座る。
魔石ランタンを取り出してからメガネを掛け、手紙の内容をメガネで翻訳しながら確認する。
書いてある事はオルドリン達の報告を受けての教会としての対応と、ロレッタに伝えていたお礼の回答だった。

シュナイダーは出自が有力な貴族と言う事も鑑みた結果、最北にある教会本部への異動とする事になったそうだ。
実質的な左遷人事であり、原則としては死ぬ迄教会から外には出さない幽閉みたいな処分になる。
因みにだが、失った男の自尊心は教会の力を持ってしても完全な再生は叶わず、出来ても竿無しの片玉のみになると言う。
考えただけでも恐ろしい話であるが、直接的な原因が自分かつ互いに自己責任の突発的戦闘の結果なので文句は言えまい。

ロレッタに鑑定を依頼した薬は教会としても再度鑑定をした結果、人間や亜人や獣人が飲むと強制的に肉体を変化させる劇薬だと確定した。
この劇薬は帝国の前身たる王国時代の産物を改良した薬であり、光の教会としても魔術師協会としても禁忌の代物であると結論付けたと書かれている。

「この劇薬を保管している者は、迅速かつ確実な処分を行なうようにお願いするものである…ですか。教会に渡すのも有りですか?」

「はい、問題ありません。その場合は廃棄処理に詳しい者を紹介させて頂いて、廃棄場所と細かな日程調整をしてと数回は打ち合わせが必要になりますが」

「それも悪くないが、今後の予定としては梅雨が明けたらジェヴェドール王国に向かう事になっていてね。王国にて渡す想定での調整は可能ですか」

「勿論です」

「ではそれで考えて頂きたい。相棒のベリアがSランク冒険者の授与式の為に王国に行きますので、授与式の前後数日の間にでも渡せるようにして下さると助かります」

「分かりました、そのように調整に入らせて頂きます」

更に内容を読み進めていくと、ロレッタのお願いの事が書かれている所に辿り着く。
ロレッタがお礼に求めたのは、農産物を使った料理のレシピと調理方法のレクチャーだった。

「農産物と言っても多種多様だからな…ヒヤリングが必要だな」

「マスター。レシピ本と調理道具一式をお渡しして、体験形式で技術習得して頂くのが良いかと」

「俺は料理が苦手なのだが」

「マスターの料理練習にもなるので、丁度良いかと」

少し考えたイズミは、梅雨の間だけの限定にはなるがと前提を設けた上で、料理のレクチャーを引き受ける事に決めた。

話をまとめたので男に告げると、男は静かに頷いて自前の羊皮紙に話の結果を書いてゆく。

「ご協力感謝致します…私はこれにて」

「どうも。料理のレクチャーは私が直接光の教会に向かって行いますので、その時にでも改めて調整しましょう」

「かしこまりました」

男が綺麗なお辞儀をして家から出てゆくのを見送ると、一人になった家にて魔石ランタンを取り出し並べてゆく。
テーブルの上や天井吊り下げ用の金具にランタンを設置してゆくと、これだけでもかなり雰囲気のあるバーに見えなくもない。
少し薄暗くも感じるが、その辺は魔石ランタンの出力調整でどうにかなるだろう。

「そろそろ酒盛りを始めるのか?」

「…段取りはしているので、3日後の夜には出来そうです」

「そうか…から我からそう伝えておくとしよう」

何処からか姿を見せた野良猫が椅子の上に飛び乗りながらそう言うと、のんびりと毛繕いを始めた。


今日はこの家で寝ようと支度をしていると、フラウリアから魔法通信が来たので連絡を取る。

「イズミさん、今度行なう予定の酒盛りですが、ウチのメーレルが手伝いたいと申し出ているのですが」

「それは有り難いですが、フラウリアさん側からしたらどうなんです?」

「そうですね…メーレルへの報酬とは別に、屋敷へ派遣料を支払う事で正式な仕事として扱うのが良いかもしれません。メーレルとしては善意での提案ですが、今後何者かにその善意を悪用される可能性もありますので」

前回の会食でもそうだが報酬をしっかりと支払う事で、その仕事に責任であったり役割を与える事になる。
無償の奉仕と言えば聞こえは良いが、この異世界でそれをするのは光の教会だけで十分なのである。
少なくとも、一個人レベルでするものではない。

「そうしましょう。支払い金額はフラウリアさん側で決めて頂けますか?私には相場が分からないので」

「分かりました。イズミ様は特別なお客様ですので、サービスしますよ」

フラウリアが提示して来た金額は、メーレルさん1回の出勤につき金貨2枚、派遣料は全5回で合わせて金貨2枚の合計金貨12枚だった。
その内訳には酒盛り中の出来事はグラテミアとフラウリア以外には口外しない事や、出勤に伴う移動中の安全保障も入っているし、何より魅力的なのは追加でお金を支払えば他の土地で生活するラミア族に材料の特徴を伝えれば、入手可能である場合に限り取り寄せてくれるのだ。
勿論入手出来た場合のみ支払いが発生する。

「普通の人間から頼まれたら、最低でも10倍の価格で提示しますよ」

「それはちょっと高額ですね」

「魔族に頼ると言う事がどのような意味を持つのか、普通の人間に分かってもらう為でもありますので」

「では大金持ちが相手であれば?」

「そのような方は魔族に頼み事をしませんよ、魔族に弱みを握られたら困る事ばかりの人種ですから」

「詳しくは聞かない事にしますね」

「賢明な判断です」

ラミア族とて色々と苦労をしているようである。
イズミは明日の日中帯に屋敷に顔を出す約束をすると魔法通信を切り、魔石ランタンの調整を始める。
悪くない明るさになったのを確認すると、1つを手に持って二階へと登り簡素ながら頑丈なベッドに横たわる。

どんどんと考える事が増えてきているが、あくまで一時的なものなので楽しむ方向で考えるように意識しつつ、イズミは目を閉じて雨音を聞きながら眠りについた。
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