異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百三十四話 酒呑みは静かに来る

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酒盛り当日。
イズミは朝イチで酒盛りの部屋の掃除に取り掛かり、雑巾でテーブルや椅子を綺麗に拭いてゆく。
レンタル品は昨日の内に届いているので、酒を並べた棚とは別の所に置いている。
掃除が終わったら一度グラスを磨いておく予定だ。

掃除を一通り終えたイズミが腕時計を確認するとまだ10時30分をまわった所だったので、小休止がてら外へ出て分厚い灰色の雲に包まれている空を見あげた。

「今日も降りそうだな」

小さくため息をついて振り返ると、魔石ランタンで明るくなっている部屋を眺める。
悪くは無いが、少し物足りなさを感じる。
イズミはカクテルセットを置いている長テーブルにジュークボックスのような魔道具を設置し、蓋を開けてから銀貨を1枚投入する。
静寂に包まれていた部屋にピアノのような楽器を使った音楽が流れ始め、先程よりもバーのような雰囲気が出たような気がした。

部屋に戻りドワーフ酒の瓶やグラス類を拭いてから二階へ上がり身体を拭いて綺麗サッパリさせた後で、一階の裏手口から出て頭も軽く洗う。
より身綺麗にするのであれば、やはり温泉に行きたい所である。

濡れた髪をタオルで拭きながら馬車置き場に向かいマスタングに魔力補給をしていると、あの野良猫と黒い狼がマスタングの側で寛いでいた。

「…お二方が同時に居るのを見るのは初めてのような」

「そうか?互いに女神達から様々な仕事を任されておるが、梅雨の時期は暇が多いので寛ぎに来たのだ。ご飯くれ」

「はいはい、何時もので?」

「そうだな、菓子も出してくれると嬉しい」

「分かりましたよ…狼さんはどうします」

身体を伸ばして食事を始める準備をする野良猫とは違い、狼は丸まったまま欠伸をした後で答える。

「そうさな…女神達の会食で出されたと言う、バウムクーヘンを食してみたい」

「バウムクーヘンね」

女神やその眷属達の情報網は強靭であり、瞬く間に広まってゆくようである。

「お主は我を恐れていないのか?」

「初対面がアレでしたので、恐れていないと言えば嘘になりますね」

イズミは狼の問に素直に答える。
嘘をつく必要は全く無いのだ。

「そうは言っても敵では無いのですから、仲良くした方が面白いかなと」

「…不思議な男よ、異世界の男は皆そうなのか?」

「いいえ、私のような変人は少数派ですかね。私のような人間が沢山いたら、確実に世の中が円滑に回らないでしょう」

マスタングで実体化したバウムクーヘンを狼の元に置くと、狼は後ろ足で胡座をかき前足で器用にバウムクーヘンを口元に運んで食べた。

「器用に食べますね」

「ハッハッハ!この姿は仮初のものぞ?」

面白い反応だったのか、狼は大層愉快そうに笑った。
笑う口元からオレンジ色の炎が少し溢れているが、周囲にある物に影響は感じられなかった。

「マスター。我々の居た世界の酒を実体化しましたので、酒盛りにてご活用下さい」

「何から何まで助かる」

実体化されていたのはジンやウォッカがそれぞれ数本、ウィスキーやリキュールもある。
瓶のデザインから銘柄が特定出来るのもあったが、残念ながらラベルは貼られていなかった。
そのうちの1本を手に取り、キャップを外して香りを確かめる。

「こいつはウィスキーだが…」

「ジャパニーズウィスキーの12年です。マスターは飲んだ事がおありで?」

「いや、12年は無いかな。日本のウィスキーだとフロムザバレルが好きだったな。グラスに注ぎ難かったけど」

酒瓶をショルダーバッグに収納し終えたイズミは、野良猫と狼に挨拶をしてから建物に戻る。
異世界産の酒を棚に並べてから椅子に座り、腕時計の竜頭を巻きながら入口の扉を見つめる。

巻き終えた腕時計を左手に着け、思い出したかのように酒盛りの合図である金色の飾り…確か意味の無くなった紋章らしい…をショルダーバッグから取り出してマジマジと眺めた。

「…どう飾れば良いんだ?」

イズミは建物のドアに引っ掛けようと考えたが、看板を引っ掛けるような釘はついていなかった筈だ。
下手に打ち付けても悪いと思い、今日は椅子を一つ外に置いて、その上に紋章を飾る事にする。

水を飲んでまったりとしていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
お昼になったのだ。
この鐘の音を合図にして、メーレルと物資がこの建物へと移動を始める。

「今日の酒盛りが終わったら、ズボンを受け取りに言って商人ギルドに確認をして、温泉に行ってみるか」

ぼんやりと数日分の予定を頭の中で組み立てながら、メーレルの到着を待った。
1時間程でメーレルがやって来たので、早速レイアウトの確認と荷物の運び込みを始める。
乾き物に飲み物、そして氷の入ったアイテムボックスも運び込むと馬車は一旦屋敷へと戻ってゆく。
今回は終わりの時間が曖昧な為、初回のみ帰りはマスタングでの送迎にすると今日の今日で決めたのだ。

「イズミさん、準備が整いましたよ」

「そうしましたら、少し気を落ち着けてから始めるとしますか」

2人は椅子に座り流れている音楽に耳を傾けていると、ベリアが帰って来て扉を開けた。

「イズミ、確か今日だっけ?」

「そう、これからだ」

「なら用意だけしておくか…ギルドの連中がイズミの行動を気にしてたぞ?お店でも開くつもりかって」

「やってるのは神々の宅飲みだけどな。お陰で俺の自由に使えるお金がバンバン飛んでゆく」

「特級のドワーフ酒は高いもんな。5回分も足りるのか?」

「分からん。今日の減り方を見てからの判断かな」

ベリアは扉を閉め装備を外しながら二階へ登る。
ベリアの準備が出来た所で、椅子を外に置き飾りを立て掛けた。
これで受け入れ準備完了だ。

「ようやく始めるのか」

野良猫が何処からかやって来ると、椅子の上に飛び乗り丸くなった。

「取り敢えずは、ですけど」

「なら家に入り銅貨を1枚魔道具に入れると良い。直ぐに来るぞ」

「銅貨ね」

イズミは家に入りジュークボックス型の魔道具に銅貨を1枚入れた。
すると流れていたピアノソロから、ジャズのような音楽に切り替わる。

「…待ちくたびれたぞ、異世界人よ」

そんな言葉が聞こえた方へ顔を向けると、テーブル席に座るローマ人のような服装をしたダンディな男が当然のように座っていた。
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