異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
554 / 624
第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百四十一話 偵察結果の共有

しおりを挟む
翌日。
朝イチでフラウリアから連絡が入ったのでグラテミアの屋敷へ向かうと、エルフ族のジーンとヨルヌークが案内された部屋に居た。

「どうも」

「早速ですが、我々がルンカルテ川上流からゼーレラント王国方面の調査を行いましたので、結果を共有したく」

帝国絡みの話である。
光の教会でも帝国兵が移動してるとか言っていたのを思い出したイズミは、椅子に座り話を聞く体勢になる。

「まず確認出来た兵の数は昨日の時点で凡そ2000人、問題は帝国兵は主に人間族の筈なのですが…」

「ごちゃ混ぜですか」

「よくご存知で」

「少し前に戦いましてね」

ヨルヌークはイズミの返答に戸惑いつつも、もう少し詳しく教えてくれた。

「帝国兵の装備はマチマチですね。急拵えなのか分かりませんが、一貫性が無いんです。まるで傭兵上がりみたいな格好だったり、酷い奴は戦場で遺体から装備を剥ぎ取ったのかみたいな格好でした」

「それ程に装備が違うのなら、帝国兵では無い可能性もあるのでは?」

「それに関しては何とも言えませんが、帝国兵の配下に居る事は確かです。そして、帝国兵の特徴でもある赤黒い目をしているのをジーンが確認しています」

「赤黒い目?」

「帝国の魔術兵による支配の印です」

説明をヨルヌークからジーンが引き継ぐようにして、話を進める。

「帝国の侵攻速度は異常です。その異常さを促進しているのが支配魔法なんです。これは邪法に分類される禁忌魔法の1つで、支配魔法を受けると自我の殆どを奪われ強制的に術者の配下になってしまうのです」

「その魔法を解除したらどうなります?」

「支配魔法の侵食具合にもよりますが…1ヶ月も続けば手遅れ、術者の思い通りに動く奴隷兵士の完成ですね」

「それは恐ろしい」

「ただ、それだけでは肉体的な変異の説明が出来ません。これに関しては調査を続けようと思います」

「その必要は無いですね」

イズミはジーンの話を途中で止めると、自分の手元にある情報を伝える。

「過去に帝国兵とやり合った時に入手した物がありまして、彼等は強制変異薬を飲んでいます。これは光の教会に調査を依頼してまして、鑑定も済んでいます」

「強制変異薬ですか…これはまた愚かな代物を」

イズミの話を聞いたグラテミアは苛立ちを隠すように姿勢を変えて窓の外を見つめる。

「他にも薬を併用していて、無理矢理だろうと意地で変異をさせるようです。完成度が低いのか、人間に個体差があるように変異にも差異があるのが現状のようです」

「その薬はイズミさんの手元に?」

「ありますが…厳重保管を教会から依頼されてます。ジェヴェドール王国にて光の教会の担当者と合流し、確実な処分をする予定で動いています」

「廃棄処分の方向で動くのは良いですが、イズミ様が所持を?」

「いえ、アーティファクトであるマスタングにて保管しています。マスタングであれば私以外の人間の指示で薬を取り出す事は不可能ですので」

保管状態を聞いたグラテミアは安心したようだが、フラウリアは少し気になるようだ。

「私達でも薬の成分や効果を調べた方が良いのでは?」

「…この薬の件については、余りラミア族として触れない方が良いわね」

「有らぬ誤解を招く可能性があると?」

「光の教会が調査をしているなら、魔術師協会も協力している筈。我々の労力を使う必要性は少ない、頼まれたら対応するで大丈夫だと思うわ」

「分かりました、今の所はノータッチにしておきます」

グラテミア達の話も纏まった所で、イズミにとっての本題に入る。

「その帝国兵の拠点を攻め入るとして、大まかな地図を作って欲しいのですが」

「え…攻めるのですか?」

ヨルヌークは驚きの声を上げながら、イズミの顔を見つめる。

「下手に帝国兵と戦闘をすれば、後でどんな報復を受けるか」

「ヨルヌークさん達は情報提供だけで大丈夫です、組織的な戦闘行動に見せるつもりは無いので」

「単独行動は自殺行為ですよ」

イズミの言い方が気になったのか、グラテミアが会話に割って入って来た。

「イズミさん、帝国軍の拠点を攻撃するとなると、ベリアさんの協力を得るのは難しいですよ。冒険者ギルドに所属する人間が一国の軍隊に戦闘を仕掛けたとなれば、冒険者ギルドが報復対象になる可能性が非常に高い」

「そうなると、グラテミアさん達の協力も得られないと」

「情報提供は出来ますが、戦闘には参加出来ないと考えて頂ければ…ラミア族が1人戦闘に加勢したと知られれば、無関係なラミア族の同胞が無差別に襲われる可能性があるのです」

「それはマズいですね。とは言っても、帝国兵は葬り去りたいですね」

少し考えながら、イズミはグラテミアが持っている地図を眺める。
帝国兵の拠点までは直線距離で凡そ800km、マスタングの飛行モードなら3時間程度で到着出来る距離だ。

「マスタング、ベリアやグラテミアさん達の協力無しで帝国兵の拠点の完全破壊と、帝国兵の無力化は可能だと思うか?」

「可能です。初手でミサイルを撃ち込み戦力をある程度削ぎ落とし、その後虱潰しに処理をすれば半日で完了します」

「2000人を半日でか?」

「50000人でも半日で可能です」

マスタングからの回答を聞いたイズミは、再度地図を確認する。

「だとすると、より敵拠点の詳細なレイアウトが欲しいか」

「本当に攻撃するのですか」

「そうですね…悪天候時か寝込みを襲います。戦闘を始める前に連絡します、帝国兵の拠点からある程度は距離を取って欲しいので」

「分かりました。既に避難準備はしてますので、何か攻撃に関する決定がありましたら教えて下さい。敵拠点のレイアウトについては、少しお時間を下さると助かります」

打ち合わせを終えたエルフ族の2人が転移魔法で帰ると、早速フラウリアから別件の質問が飛んできた。

「イズミさん話は変わるのですが、水虫ってどんな事象なよでしょうか?」

「水虫…治療クリームのレシピでも見つけたのですか」

「そうです!クリーム系のレシピに新たな1ページが追加されたので確認してみたら、水虫の治療に適したクリームと記載されてましたので」

「水虫ってのは厄介な代物でしてね、兎に角痒いんですよ」

水虫に関する説明をしていると、フラウリアの興味が段々と薄れていっているのが分かる。

「…このクリーム、売れるんですか?」

「確実に売れますね。特に冒険者や兵士には必需品にまでなるかもしれません」

「水虫治療クリームが?」

「長時間靴を履いていると菌が繁殖しやすい環境になるので、水虫になりやすくなるんですよ。痒いと仕事も手につかないし、夜も眠れなくなったりと厄介なんです」

「人間族って大変なんですね」

ラミア族には縁のない病なのか、そこまで熱が入らないようだ。

「試しにある程度の個数を作って、ヒュミトールの衛兵とかに売ってみるのが良いかと。悩んでいる人は必ず居ると思うので」

「…分かりました」

少しつまらなそうなフラウリアだったが、渋々クリームを作りに研究室へ戻ってゆく。
イズミはその後グラテミアとまったりとお茶を楽しみながら、男神様達との酒盛りの話をするのであった。


時は少し流れて。
フラウリアはイズミに言われた通りに水虫治療クリームを生産し、ヒュミトールの衛兵隊に軽く売り込みをかけた。
その結果、クリームは飛ぶように売れた。
売れ過ぎて緊急で増産していると、噂を聞き付けた冒険者ギルドや商人ギルドまで水虫治療クリームを求めて来たのだ。

美容クリームは女性の間では話題沸騰で必需品の1つとまで呼ばれるようになったが、水虫治療クリームはヒュミトール発祥の旅の必需品として末永く衛兵や騎士、そして冒険者達の足を守ってゆく事になるのであった。

あくる日、フラウリアは水虫治療クリームを入手して泣くほどに喜ぶ冒険者に尋ねた。

「このクリーム、そんなに喜ぶ程なのでしょうか?」

「勿論です!終わりの見えない痒みで眠れぬ日々からの脱出、苦悩からの解放ですよ!安眠出来る幸せたるやもう!」

「…はぁ。そんな大変なんですね、水虫って」

最後まで水虫治療クリームの有用性を理解しきれていない、そんなフラウリアなのであった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...