異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百六十九話 開けるか壊すか

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「アンタ、最近見かける連中とは違うみたいだね」

「帝国の人間では無いな。此処には偶然立ち寄ったのさ」

イズミは人魚に簡単ながら自己紹介をすると、人魚側も警戒しつつ名を名乗った。

「アタシはホリー、マーメイド族よ」

「ではホリーさん。私に声をかけた理由をお聞かせ願いたい」

ホリーは水門の方を見ると、自分達の現状を説明してくれた。

「アタシの娘がね、この水門の向こうに居るのさ。少し前に娘が『上流に生えている薬草を探しに行く』と言ったっきり帰って来なくてね、心配になって夫と此処まで来たのさ。そしたら、こんな壁が出来てて」

「娘さんが上流に向かったのは、何時くらいです?」

「一月も行かない位だね」

「では、タイミングが悪かったようですね。向こう側の娘さんとは会話出来てます?」

「…出来てないね。何かあったら深く潜って静かにしておく事って教えてるから、無事だとは思うけど。親としては心配なのよ」

「魔法通信は繋がらない?」

「原因は分からないけど、繋がらないね」

ここまで聞くとホリーさんの娘さんが心配である。
帝国兵に酷い目に遭わされてないと思いたいが、そんな言葉は口には出さない。
下手に不安になり兼ねない発言は避けるのが吉である。

「私が向こうに戻って娘さんに声をかけたとしても、返事はしてくれないですよね」

「知らない人からの声に返事はしないように教えてるから、まず返って来ないね」

「だったら、ホリーさんを向こう側にお連れするのが手っ取り早いですね」

それを聞いたホリーの後ろから男性の人魚が姿を見せ、イズミに向かい戦闘体勢を取ってきた。

「アンタ!まだ会話の途中よ、邪魔はしないで頂戴」

「でもホリー、初対面の人間族相手に」

「今は緊急事態よ!この前姿を見せた男なんて、私達を見たらいきなり弓を射って来たのよ!それと比べてこのイズミって人間はまだ会話が出来てるじゃない」

「分かってる!だが人間族は危険で信用ならない存在なのは、ホリーも知ってるだろう」

「ちょっとアンタ…」

夫婦で言い争っているうちに、マーメイド族における人間族に対する価値観が見えて来た。
少し気まずそうな表情のホリーが、イズミに向けて謝罪をした。

「済まないね。マーメイド族は過去に人間族と争いがあって、そこからは関係をほとんど絶っているのさ」

「それで良いと思いますよ」

「え?」

「過去に起きた事実からの教訓として人間族との関係を絶っていたなら、危険で信用ならないと言う当時の評価のままの判断が妥当でしょう。時が流れて世代が変わったとて、人間族が何か大きく変わっている訳では無いですから、寧ろしっかりと警戒しておくのが正解です。例え自分達は違うとか言う連中が居たとしても、種族単位で括ってしまえば国が違っても同じ人間族…過去から引き継がれている評価を覆す事は困難を極めます」

イズミは岩場にて座り込むと、軽く息を吐いた。

「とは言え今はホリーさん達の緊急事態、これも何かの縁ですからね…お手伝いしますよ?」

イズミの言葉を聞いたホリーは、一度夫の方へと顔を向けて相談を始めた。
その結果、ホリーを貯水池まで運ぶ事になった。

「イズミとやら。ホリーと娘に何かあったら、その身を海の生物達の餌にしてやるからな」

「そうならないように、尽力しますよ」

イズミはホリーを抱きかかえると、重い足取りで来た道を戻りだした。
やはりマスタングと一緒に来るべきだったと、強く後悔をしながら。

明日は全身筋肉痛に襲われる事が確定した所で、どうにかホリーを貯水池まで運び出せた。
道中に魔獣の姿をチラホラと見かけたが、ホリーが睨みつけると逃げるようにして去っていったのだ。
お陰で戦闘をせずに水門の所まで無事に戻って来れたのである。

「…ありがとうね。重かっただろうに」

「お気になさらず。早く娘さんを探しに行って下さい」

「分かったよ」

ホリーが貯水池に潜って行くのを見送ったイズミは、念の為にマスタングに連絡を取った。

「マスタング、偵察部隊だろう連中の様子は?」

「間違い無く、今のやり取りを観測されてます」

「やれやれ…参ったねぇ。でだ、ホリーさんの娘さんが無事だったとして、どうやって下流へ帰すのか」

もう一度下流まで運ぶのは肉体的にも体力的にも厳しいので、別の手段が欲しい所だ。

「水門を開けるのが良いかもしれませんが、マスター単身では厳しいかと」

「だろうな。この大きさの水門を操作するのに、只の人間1人は現実的じゃない。ベリアと一緒でも厳しいよな」

「ほぼ不可能です。かなりの重量物ですので」

とは言え水門を派手に破壊するのも危険となれば、現時点では打つ手無しと言う事になる。
雨も弱まり真っ黒だった雲も一部が灰色に変わっている空を見ていると、ホリーが娘と一緒に水面に姿を現した。

「無事…みたいですね」

「ここ何日もまともな食事を取れてないから体力は減ってるけど、ちゃんと無事だったよ」

「それは何よりです」

「でも、このままではこの貯水池も駄目だね」

「それはどうして?」

ホリーは娘さんを優しく抱きしめながら、水面を指さして話を続ける。

「あの水門はまともに動かないのさ。軽く見てきたけど、今以上には開きそうにないね」

「そうすると」

「もっと水が貯まったら、限界が来て水門が崩壊する」

「それは…よろしくないな」

貯まりに貯まった水が一気に下流へと流れれば、一体どうなってしまうのか。
下流にて生活する人々からすると正に、未曾有の危機に直面である。

「マスター。メガネをホリー様に渡して、水門の状態を確認してもらう事は出来ますか?」

「水門自体をスキャンするのか…聞いてみるよ」

イズミは水面まで近付いてホリーに相談をする。

「ホリーさん。コレを使って、水中から水門を見て欲しいのですが」

「なんだいコレは」

「人間族が使ったりする、メガネと言う道具です。このメガネは特別製でして、コレで水門を見れば状況を把握出来るようになるんです」

「不思議な魔道具だね…貸して、見てくるよ」

ホリーは娘と共に潜ると、10分程で戻って来た。

「はい、返すよ」

「ありがとうございます…マスタング、どうだ?」

メガネを受け取ったイズミがマスタングに確認すると、スキャンの結果報告が始まった。

「話になりません、水門とは名ばかりの放水口です。手動での調整機能は無く、必要に応じて土魔法で放水口の大きさをその都度調整する、極めてシンプルな構成です」

「なんだそりゃ?」

「いずれは作り直す計画だったのかもしれませんが、現状の我々の力では調整出来ません」

どうも現時点では単なる放水口でしか無く、何の機能も備わっていないらしい。
帝国兵の突貫工事では、そんな技術は積み込みきれなかったのだろう。

そうなると水門を開けると言う選択が消えてしまい、破壊以外の選択肢がイズミの頭から無くなってしまう。
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