異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
584 / 624
第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百七十話 さらばナビゲーター(2回目)

しおりを挟む
イズミは水門もとい放水口の拡大をする為に、何か良い方法は無いかと考え始めた。

グレネードランチャーやロケットランチャーで攻撃すれば簡単に破壊出来るかもしれないが、それで放水口どころかダムのように堰き止めをしている外壁が駄目になったら大問題なのだ。
マスタングのミサイルも同様の理由で使い難いし、何処かの偵察部隊にマスタングの攻撃を見られるのも良い気分では無い。

「綺麗に破壊するってのが、一番難しいんだよな…そう言えばホリーさんの娘さんは、どうしてこの放水口から下流へ出なかったんですか?」

「それが単なる穴じゃ無かったのさ。魚だったら通れるけどマーメイド族の身体では通過出来なくて」

イズミはメガネに放水口の情報を表示させると、放水口は網目状に作られておりギリギリ通れないサイズ感だったのだ。
コレではマーメイド族の通過は不可能だ。

「妙な所で凝ってる作りだな、この貯水池は」

大きなため息をついたイズミは、腕時計で現在時刻を確認する。
13時40分を過ぎた所だった。
そろそろヒュミトールへ戻る段取りを始めたい所だが、目の前の問題も解決しておきたい。

「…マスタング。この腕時計のアラーム機能の精度はどの位だ?」

「腕時計を中心に最大半径10m、完全球体状の爆発破壊が可能です。必要であれば爆発力の調整も出来ます」

「つまり放水口の真ん中辺りにセット出来れば、今以上の大穴も開けられるのか…」

「現在の放水口のサイズは縦横共に約1m以下です。現在は水を貯える事に重きを置いてあるようです」

「この広い貯水池で放水口がそれじゃ、確かにいずれ満水になって壊れそうだな」

「外壁の造りも良くはなく、お世辞にも強固とは言い難いです」

「水を扱うってのは、難儀なものだな。アラーム機能は水中でも使えるのか?」

「当然です」

「なら現時点で必要だと思われる放水口の大きさにまで出来る、そんなアラームに調整をしてくれ」

「かしこまりました。腕時計をメガネに近付けて下さい」

イズミは腕時計を外してメガネと一緒に地面に置くと、一分程で調整が終わった。

「調整が完了しました。此方であれば貯水池の管理者が決まり本格的な管理が始まる迄は、問題無く運用が出来るはずです」

「よし、ではチャッチャと終わらせますかね」

イズミはホリー達にこれからの作業内容を説明すると同時に、作業への協力を依頼した。

「ホリーさん。これから放水口をピンポイントで破壊するので、手助けをお願いしたいのですが」

「どんなです?」

「私を放水口の所まで運び、私がある魔道具を放水口に固定したら、離れた所にまで退避させるって感じなのですが」

「…その魔道具ってのは」

「コレです」

イズミは腕時計をホリーに見せると、興味深げに観察される。

「この魔道具には爆発魔法が付与されてましてね、その魔法で放水口を破壊しつつ大きくしてやろう、って寸法です」

「それをアンタが仕掛けると」

「私の魔道具ですから、私が仕掛けるのが道理でしょう。私も一応泳げはしますが、ホリーさんのお力を借りた方がスムーズに移動…もとい避難が出来ると思いまして」

「だろうね。アンタ、水中で呼吸は出来ないよね」

「勿論出来ません」

「息はどの位止められるんだい?」

「…頑張って、一分とか?」

「一分以内に放水口まで行って、その魔道具を仕掛けて、離れた所まで退避するのかい」

「それしか思い付きませんね」

イズミは身に付けている装備をショルダーバッグに収納すると、腕時計の回転ベゼルのポインターをデイト表示のある場所まで回す。
すると何時もは黒塗りで何の表示もないデイト表示が切り替わり、白背景に30と表示される。
後は竜頭を引き抜けばカウントダウンが始まる。

腕時計のベルトでは放水口の網目とやらに巻き付けられない可能性を考慮し、近くにあった木の枝を活用して即席の固定具を作った。

「ホリーさん、此方は準備出来ました」

「此方も準備は出来てるけど、夫にも一声かけといてくれないかい?やっぱり魔法通信が繋がらなくて」

「分かりました」

イズミは下流にて待っているホリーの旦那さんへ向けて、大声で退避を促した。

「ホリーさんの旦那さん!今から放水口を広げますので、其処から離れて下さい!」

旦那さんは両手でイズミに手を振ると、すいすいと川を下ってゆくのが見えた。
これで準備完了だ。

「旦那さんも退避してくれました」

「じゃあ、放水口まで運ぶよ」

イズミは貯水池に入って身体を慣らし何度も息を整えると、ホリーのエスコートで放水口の近くまで移動をする。

「潜るよ」

大きく深呼吸をしたイズミが息を止めると、ホリーはイズミを一気に放水口の網目の場所まで運んだ。

イズミは水中で何とか目を開き、腕時計がズレないように木の枝で網目に固定をすると、竜頭を引き抜いてカウントダウンが開始したのを確認する。

ホリーに合図を送ると、イズミの身体を掴んで放水口から離れた所にまでイズミを運び始める。
その途中で勢い余ってメガネが紛失したり息が苦しくなったものの、興味本位で同行して来たホリーの娘さんが機転を利かせて、イズミに1回分の呼吸が出来る大きさの気泡を口元に作ってくれたので助かったのだ。

イズミがしっかりと地面に立てる程の場所まで移動をすると、倒れ込むようにして身体を休ませる。

「マスター、腕時計の爆発を確認しました」

「そうか?何も聞こえなかったが」

「水中で発動したからでしょう」

大きく荒い呼吸をしながら、イズミは身体が落ち着くのを待つ。
一方のホリー達は爆発を察知出来たようで、早く戻りたそうにしていた。

「イズミだったね、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。お礼の言葉は受け取っておくが、これからも引き続き人間族には注意と警戒をした方が良いぞ」

「そうするよ…アンタみたいな変な魔力の人間なんて、そうは居ないだろうし」

ホリーはイズミの身体を掴んだ時に、イズミと他の人間族のの魔力の違いに気付いたようだ。

「お母さん!帰るよ!」

「はいはい…改めてありがとう、縁があればまた何処かで」

「そうだな…縁があれば、また何処かで」

イズミは身体を起こすと、離れてゆくホリーと娘さんに手を振って見送った。

「…しまった、メガネを無くしちまったんだった」

「マスター、メガネであれば再実体化が可能です」

「それは良いけど、もし誰かにあのメガネを拾われて、悪用されたら困るだろ?」

「…問題ありません。必要であれば消滅させますので」

マスタングはそう言い切った。
そんな便利な機能があるとは思っていなかったが、マスタングが大丈夫と判断するのであれば、自分がこれ以上気にするのは野暮なのかもしれない。

「マスター、魔法反応が4つ接近中です」

「どこぞの偵察部隊のか?少しは休ませて欲しいもんだ」

イズミは重たい身体で立ち上がると、マスタングを駐車した場所まで移動を開始する。



場所は変わって。
ホリー達は一家全員が無事に合流すると、水門の様子を一応確認してから海へと帰る事にした。

「ホリー、今後はあんな危険な事はしないでくれよ?俺は気が気じゃなかったぞ」

「アナタ、時には大きな決断をする必要もあるのよ。娘の一大事だったんですから」

「それは、そうだけれども。次は俺がやるからな」

放水量が増えて川の流れも徐々に安定し始めた頃、ホリーの娘が川底で何かを見つけたのかホリーに見せて来た。

「お母さん、こんなのを拾ったんだけど」

「こらルーシー、またそうやって勝手に…これは。あの人間が持ってた魔道具だね。返してあげたいけど、もう貯水池へは戻れないし、困ったね」

ホリーの娘であるルーシーはメガネを興味本位で掛けると、両親へと顔を向ける。

「似合ってるかな?」

「こら、人様の魔道具を勝手に着けちゃ駄目じゃない」

「はーい、ごめんなさい…ん?」

ルーシーは突然メガネに表示された情報に目を凝らす。

「過去の戦闘情報をロック、既存魔法通信情報をロック、スキャン能力ロック、現在位置特定機能の停止、自己消滅機能の保留が完了。新規着用者の設定開始、新規情報のスキャン完了」

「なに…これ」

「一部能力の限定解除…完了。初めましてルーシー様、私は簡易的な意思疎通と限定的なスキャン能力が使用可能な眼鏡型魔道具です」

「う~ん?お母さん、なんか分からないけど、私の魔道具になったみたい…何が出来るのかしら?」

「ルーシー様の保有スキルである、治癒に関する技術的サポートが出来ます」

イズミの全く知らない所で、紛失したメガネが新たな活躍の場を手にする事になったのだが、イズミがそれを知る時は暫く来ないのであった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...