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第二十七章 サンダーブレード作戦
第五百七十一話 ブラックドラゴンの来訪
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幸運な事にイズミは偵察部隊と遭遇する事無く、無事にマスタングの元まで到着した。
「流石に疲れた」
「お疲れ~」
マスタングの助手席にて寛いでいたベリアがビッショリと全身が濡れたイズミに驚くと、マスタングに予備の服とタオルを実体化させて身体を拭くように促した。
「イズミ、そんなじゃ風邪引いちまうぞ」
「そうは言うが、偵察部隊とやらが近付いて来てるんだろ」
イズミは急いでずぶ濡れの服を脱ぎ身体を拭き、替えの服を着てからマスタングに乗り込むと、戦闘を終えた帝国兵の拠点跡地まで移動する。
帰る前に改めて確認がてらの索敵とスキャンをマスタングに頼むと、脅威は確認出来ないとの回答だった。
空を覆う雲は相変わらず灰色だが、雨が止むとイズミはマスタングから降りて身体を伸ばした。
つい先程まで戦場だったこの地は、完全に帝国兵の手から離れたのだ。
「マスタング、今は何時だ?」
「現在14時07分です」
「そろそろ帰る時間だな」
イズミはトランクから水筒を取り出すと、グイッと一気に飲み干した。
全身に水分が行き渡るような感覚がイズミを包み込む。
これがドワーフ酒や好みのカクテルだったりビールだったら最高なのだが、それはもう少し我慢する必要がある。
せめてヒュミトールに戻ってからだ。
「じゃあ、アタイはフラウリアさんに頼んで、先にヒュミトールに戻るわ」
「そうだな。戻ったら監視者達に姿を見せてやって、アリバイ作りをよろしく頼む」
フラウリアと連絡を繋ぎベリアが転移魔法で帰った後で、イズミは1人で残骸だけとなった帝国兵の拠点をぼんやりと眺める。
「気が滅入るな」
「理由はどうであれ、殺し自体は褒められたものではありません」
「殺し合わずに解決するなら、誰も苦労はしないだろうさ」
イズミが大きくため息をついていると、マスタングが1本の葉巻と魔道具のライターを実体化した。
「マスター。健康には良くありませんが、一服をして気を安らげて下さい」
「…すまないな」
「精神的負担が多くかかっています、気分転換が必須です」
手に取った葉巻は小振りかつ細身であり、一般的な煙草と大差無いサイズだった。
僅かに震える手でライターを着火し葉巻に火を点けると、イズミはふかしで葉巻の香りを確かめるように吸う。
この異世界では初めての喫煙で慣れていないからか、初手でむせてしまった。
気を取り直してゆっくりと葉巻を味わっていると、マスタングから連絡が入った。
「マスター、巨大な魔法反応が高速で接近中です」
「何処からだ?」
「もう到着します」
イズミは周囲を確認するも、巨大な魔物等の存在は一切見当たらない。
ショルダーバッグから武器を取り出そうとした所で、上空から巨大な咆哮が聞こえてきた。
分厚い雲を抜けてイズミ達の上空に姿を現したのは、漆黒のドラゴンだった。
ドラゴンは帝国兵の拠点跡地を確認するように3週すると、イズミとマスタングの行く手を阻むような形で舞い降りて来たのだ。
全長は何十メートルあるのか分からない程の巨大なブラックドラゴンは、その目でイズミとマスタングをしっかりと認識し、品定めをするように観察を始めた。
イズミは自分でも気付かぬ内に愛用の44マグナムをショルダーバッグから取り出してはいたが、全く歯が立ちそうもない事は明白だった。
左手で葉巻を摘むと、静かに煙を吐き出して現状を把握すべく脳みそをフル回転させる。
「人間、いや異世界人よ。我の声は認識出来るか?」
ブラックドラゴンはイズミの脳内に直接意思を伝達して来たので、思わず身体をビクつかせながら返事をする。
「…今出来ました」
「そうか、ならば話は早い。害虫共の駆除、人間にしては良くやった」
「それはどうも」
「手緩い駆除であれば我が直接燃やし尽くしてやろうと思ったのだがな、残念だ」
ブラックドラゴンの顔がイズミへ近付くと、その口元で妖しく蠢く黒紫色の炎がチラつく。
「ゲヘナ様、余りこの異世界人を怖がらせないで頂きたい」
そんな声がマスタングの方から聞こえてきたので振り返ると、マスタングのボンネット上で一匹の狼が座っていた。
イズミも何度かお会いしている、あの漆黒の狼だ。
「おぉ、久しいな。また後始末か」
「肉体と魂を処理しなければなりませんので」
「不味くて食えたものじゃ無かろうに」
「これも我の役割だ」
「お主も相変わらずの堅物だな」
ブラックドラゴンは尻尾の先端で器用に狼の頭を撫でると、大きな欠伸をしながら自らに魔法をかけた。
「あの姿では会話もしにくかろう」
ドラゴンは変化魔法を使い、人間の姿へと変わりイズミの前に立つ。
身長はイズミよりも頭1つ小さく、尻まで届く長い黒髪と恐ろしい程に蒼白い素肌、整った美顔と見る者を吸い込むような黒紫色の瞳。
その肉体はスレンダーそのものだ。
「そんなに見惚れて、この姿が気に入ったか?」
「いや…変化魔法は質量保存の法則を超越するものなのだなと」
「質量、保存?異世界では何かと制約でもあるようだの。この姿は遥か昔、人間の身でありながら最強の魔女と呼ばれた、ある女の幼少期の姿に似せたのだ。我も割と気に入っている」
「そんな凄い実力者が居たのですね」
「その実力故に母国の王族が恐れ女の家族を人質に取り、魔法でも解毒出来ぬほどの猛毒を死ぬ迄飲まされ続けた、悲しき女だった」
「…酷い事をする」
「女が死んだ事を確認した王族は同じような存在が再び生まれぬようにと言って、家族を皆殺しにした」
「何故私にそんな話を?」
「その国は既に滅んだが、今の帝国の原型となった国だ。その恐ろしい血は未だに、帝国人の身体に流れている…我が一度滅ぼした筈だったのだが、生き残りが居たようでな」
イズミは44マグナムをショルダーバッグに仕舞うと、葉巻の煙を静かに吐き出す。
「帝国への怒りの感情は持ったか?」
「いいえ、全く。私にとって帝国…特に帝国兵ってのは『自ら探すような真似はしないが、見つけたら殺す』その程度の対象ってだけです。もう特に感情はありませんよ」
「ならば、何故気に病んでおる?」
恐ろしい迄に特徴的な瞳がイズミの目を凝視すると、イズミは思わず身体の動きが止まった。
何らかの魔法かとも考えたが腕時計の魔法返しも呪い返しも反応が無い…と考えた所で、現在は腕時計を身に着けていない事を思い出した。
ドラゴンはイズミが左手に持っていた葉巻を魔法で奪い取ると、口元へ運んでゆっくりと吸い込む。
「この様な煙を吸っておるようでは、まだ心に弱さと迷いがあるようだな…それでは困るのだ。お主には更なる活躍を期待しておるのでな」
ドラゴンは葉巻を黒い炎で灰にしてしまうと、その美しい顔をイズミの鼻の先にまで近付けて瞳を凝視するように覗き込んだ。
「…お主の目にはあの魔王の細工があるな。我も追加で細工をさせてもらったぞ」
「唐突ですね」
「案ずるな。お主の目を見れば例え怒りに狂った魔族であっても、一度は刃を持つ手が止まり冷静さを取り戻すだろう」
「何かの加護ですか?」
「魔族の実力者で我を知らぬ者は居らぬ。その目に我が宿した黒き焔の揺らめきを見れば、我の知り合いと認識する…それだけだ。それ以外は何の効果も無いが、人によっては恐れをなして逃げ出すかもしれぬな」
それと、戦闘中や日常生活も暇潰しに覗き見出来るようにした、とも告げられた。
「どうしてそんな悪趣味な事を」
「我が本来の姿で空を飛ぶだけで、人間共はこの世の終わりだとか国が滅ぼされるだとか言って、勝手に悲観するではないか。何の気なしにただ気持ち良く空を飛んでいるだけでだぞ?小煩くて仕方が無い!我にも時間潰しや暇潰しが出来る何かが欲しい訳だ。期待しておるぞ」
ドラゴンは本来の姿へと戻ると再び空へ飛び立ち、分厚い雲の向こうへと去ってゆく。
「お主もそろそろ家に帰るが良い、雑魚が4体程近付いてきておるぞ」
そんな声がイズミの脳内に響くと同時に、何処からか無くしたイヤリングがイズミに向かって飛んできた。
「それと、分かりやすい証拠を残すのは悪手ぞ」
ブラックドラゴンの粋な計らいなのかもしれないが、戦闘中に紛失したイヤリングが手元に戻って来たので、軽く泥を落としてから左耳に装着する。
「ベリア、聞こえるか?」
「聞こえるぞ…イヤリング見つけたのか」
「あぁ…ちょいと時間はかかったが何とか。これから戻るよ」
「分かった、此方は久し振りの晴れ間が見えてて、良い感じだ…それと、無理はするなよ」
「そうする」
イズミはマスタングに乗り込むと偵察部隊が追い付けない速度で移動を開始して、ヒュミトールへと帰る道を走り出したのだった。
「流石に疲れた」
「お疲れ~」
マスタングの助手席にて寛いでいたベリアがビッショリと全身が濡れたイズミに驚くと、マスタングに予備の服とタオルを実体化させて身体を拭くように促した。
「イズミ、そんなじゃ風邪引いちまうぞ」
「そうは言うが、偵察部隊とやらが近付いて来てるんだろ」
イズミは急いでずぶ濡れの服を脱ぎ身体を拭き、替えの服を着てからマスタングに乗り込むと、戦闘を終えた帝国兵の拠点跡地まで移動する。
帰る前に改めて確認がてらの索敵とスキャンをマスタングに頼むと、脅威は確認出来ないとの回答だった。
空を覆う雲は相変わらず灰色だが、雨が止むとイズミはマスタングから降りて身体を伸ばした。
つい先程まで戦場だったこの地は、完全に帝国兵の手から離れたのだ。
「マスタング、今は何時だ?」
「現在14時07分です」
「そろそろ帰る時間だな」
イズミはトランクから水筒を取り出すと、グイッと一気に飲み干した。
全身に水分が行き渡るような感覚がイズミを包み込む。
これがドワーフ酒や好みのカクテルだったりビールだったら最高なのだが、それはもう少し我慢する必要がある。
せめてヒュミトールに戻ってからだ。
「じゃあ、アタイはフラウリアさんに頼んで、先にヒュミトールに戻るわ」
「そうだな。戻ったら監視者達に姿を見せてやって、アリバイ作りをよろしく頼む」
フラウリアと連絡を繋ぎベリアが転移魔法で帰った後で、イズミは1人で残骸だけとなった帝国兵の拠点をぼんやりと眺める。
「気が滅入るな」
「理由はどうであれ、殺し自体は褒められたものではありません」
「殺し合わずに解決するなら、誰も苦労はしないだろうさ」
イズミが大きくため息をついていると、マスタングが1本の葉巻と魔道具のライターを実体化した。
「マスター。健康には良くありませんが、一服をして気を安らげて下さい」
「…すまないな」
「精神的負担が多くかかっています、気分転換が必須です」
手に取った葉巻は小振りかつ細身であり、一般的な煙草と大差無いサイズだった。
僅かに震える手でライターを着火し葉巻に火を点けると、イズミはふかしで葉巻の香りを確かめるように吸う。
この異世界では初めての喫煙で慣れていないからか、初手でむせてしまった。
気を取り直してゆっくりと葉巻を味わっていると、マスタングから連絡が入った。
「マスター、巨大な魔法反応が高速で接近中です」
「何処からだ?」
「もう到着します」
イズミは周囲を確認するも、巨大な魔物等の存在は一切見当たらない。
ショルダーバッグから武器を取り出そうとした所で、上空から巨大な咆哮が聞こえてきた。
分厚い雲を抜けてイズミ達の上空に姿を現したのは、漆黒のドラゴンだった。
ドラゴンは帝国兵の拠点跡地を確認するように3週すると、イズミとマスタングの行く手を阻むような形で舞い降りて来たのだ。
全長は何十メートルあるのか分からない程の巨大なブラックドラゴンは、その目でイズミとマスタングをしっかりと認識し、品定めをするように観察を始めた。
イズミは自分でも気付かぬ内に愛用の44マグナムをショルダーバッグから取り出してはいたが、全く歯が立ちそうもない事は明白だった。
左手で葉巻を摘むと、静かに煙を吐き出して現状を把握すべく脳みそをフル回転させる。
「人間、いや異世界人よ。我の声は認識出来るか?」
ブラックドラゴンはイズミの脳内に直接意思を伝達して来たので、思わず身体をビクつかせながら返事をする。
「…今出来ました」
「そうか、ならば話は早い。害虫共の駆除、人間にしては良くやった」
「それはどうも」
「手緩い駆除であれば我が直接燃やし尽くしてやろうと思ったのだがな、残念だ」
ブラックドラゴンの顔がイズミへ近付くと、その口元で妖しく蠢く黒紫色の炎がチラつく。
「ゲヘナ様、余りこの異世界人を怖がらせないで頂きたい」
そんな声がマスタングの方から聞こえてきたので振り返ると、マスタングのボンネット上で一匹の狼が座っていた。
イズミも何度かお会いしている、あの漆黒の狼だ。
「おぉ、久しいな。また後始末か」
「肉体と魂を処理しなければなりませんので」
「不味くて食えたものじゃ無かろうに」
「これも我の役割だ」
「お主も相変わらずの堅物だな」
ブラックドラゴンは尻尾の先端で器用に狼の頭を撫でると、大きな欠伸をしながら自らに魔法をかけた。
「あの姿では会話もしにくかろう」
ドラゴンは変化魔法を使い、人間の姿へと変わりイズミの前に立つ。
身長はイズミよりも頭1つ小さく、尻まで届く長い黒髪と恐ろしい程に蒼白い素肌、整った美顔と見る者を吸い込むような黒紫色の瞳。
その肉体はスレンダーそのものだ。
「そんなに見惚れて、この姿が気に入ったか?」
「いや…変化魔法は質量保存の法則を超越するものなのだなと」
「質量、保存?異世界では何かと制約でもあるようだの。この姿は遥か昔、人間の身でありながら最強の魔女と呼ばれた、ある女の幼少期の姿に似せたのだ。我も割と気に入っている」
「そんな凄い実力者が居たのですね」
「その実力故に母国の王族が恐れ女の家族を人質に取り、魔法でも解毒出来ぬほどの猛毒を死ぬ迄飲まされ続けた、悲しき女だった」
「…酷い事をする」
「女が死んだ事を確認した王族は同じような存在が再び生まれぬようにと言って、家族を皆殺しにした」
「何故私にそんな話を?」
「その国は既に滅んだが、今の帝国の原型となった国だ。その恐ろしい血は未だに、帝国人の身体に流れている…我が一度滅ぼした筈だったのだが、生き残りが居たようでな」
イズミは44マグナムをショルダーバッグに仕舞うと、葉巻の煙を静かに吐き出す。
「帝国への怒りの感情は持ったか?」
「いいえ、全く。私にとって帝国…特に帝国兵ってのは『自ら探すような真似はしないが、見つけたら殺す』その程度の対象ってだけです。もう特に感情はありませんよ」
「ならば、何故気に病んでおる?」
恐ろしい迄に特徴的な瞳がイズミの目を凝視すると、イズミは思わず身体の動きが止まった。
何らかの魔法かとも考えたが腕時計の魔法返しも呪い返しも反応が無い…と考えた所で、現在は腕時計を身に着けていない事を思い出した。
ドラゴンはイズミが左手に持っていた葉巻を魔法で奪い取ると、口元へ運んでゆっくりと吸い込む。
「この様な煙を吸っておるようでは、まだ心に弱さと迷いがあるようだな…それでは困るのだ。お主には更なる活躍を期待しておるのでな」
ドラゴンは葉巻を黒い炎で灰にしてしまうと、その美しい顔をイズミの鼻の先にまで近付けて瞳を凝視するように覗き込んだ。
「…お主の目にはあの魔王の細工があるな。我も追加で細工をさせてもらったぞ」
「唐突ですね」
「案ずるな。お主の目を見れば例え怒りに狂った魔族であっても、一度は刃を持つ手が止まり冷静さを取り戻すだろう」
「何かの加護ですか?」
「魔族の実力者で我を知らぬ者は居らぬ。その目に我が宿した黒き焔の揺らめきを見れば、我の知り合いと認識する…それだけだ。それ以外は何の効果も無いが、人によっては恐れをなして逃げ出すかもしれぬな」
それと、戦闘中や日常生活も暇潰しに覗き見出来るようにした、とも告げられた。
「どうしてそんな悪趣味な事を」
「我が本来の姿で空を飛ぶだけで、人間共はこの世の終わりだとか国が滅ぼされるだとか言って、勝手に悲観するではないか。何の気なしにただ気持ち良く空を飛んでいるだけでだぞ?小煩くて仕方が無い!我にも時間潰しや暇潰しが出来る何かが欲しい訳だ。期待しておるぞ」
ドラゴンは本来の姿へと戻ると再び空へ飛び立ち、分厚い雲の向こうへと去ってゆく。
「お主もそろそろ家に帰るが良い、雑魚が4体程近付いてきておるぞ」
そんな声がイズミの脳内に響くと同時に、何処からか無くしたイヤリングがイズミに向かって飛んできた。
「それと、分かりやすい証拠を残すのは悪手ぞ」
ブラックドラゴンの粋な計らいなのかもしれないが、戦闘中に紛失したイヤリングが手元に戻って来たので、軽く泥を落としてから左耳に装着する。
「ベリア、聞こえるか?」
「聞こえるぞ…イヤリング見つけたのか」
「あぁ…ちょいと時間はかかったが何とか。これから戻るよ」
「分かった、此方は久し振りの晴れ間が見えてて、良い感じだ…それと、無理はするなよ」
「そうする」
イズミはマスタングに乗り込むと偵察部隊が追い付けない速度で移動を開始して、ヒュミトールへと帰る道を走り出したのだった。
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