異世界無宿

ゆきねる

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第二十七章 サンダーブレード作戦

第五百七十二話 疲労困憊

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イズミがヒュミトールに到着したのは、日没の少し前の事だった。
門に向かうと衛兵隊が完全武装にて待機をしており、思わず44マグナムを膝の上に用意した程である。

「おや、日没迄に戻れたようですね」

「何とか戻れましたよ。何か騒ぎでも?」

「それがですね…巨竜の目撃情報がありまして」

「あぁ~、ドラゴン」

「我々は巨大な魔物関係…特に空から現れる魔物を確認したら、問答無用で呼び出されますので」

イズミは気まずそうな表情で返事をすると、つい先程までの出来事を思い出す。
それはヒュミトールに急いで戻る為に、マスタングを飛行モードに切り替えて直ぐの事だった。



「飛行モードに切り替え完了しました」

「じゃあ帰るか。到着予定時刻は?」

「16時20分頃になります」

イズミが未だに慣れない操作系統に手間取りながらもマスタングを上昇させていると、先程雲の上へと去って行った筈のブラックドラゴンが再び姿を現したのだ。

「なんじゃお主、そのアーティファクトで空を飛べるのか?」

「そうやって此処まで来たのですが」

何かしら察知しているものだと思っていたが、そんな事も無かったようだ。

「あの派手な爆発が起きるまでは、女神と駄弁っては寝てを繰り返しておってな…」

イズミがマスタングをヒュミトール方向へ向かわせようとすると、ブラックドラゴンが行く手を遮るようにしてその身体で邪魔をする。

「まぁ待て、まだ時間はあるだろうに。我の仕事を手伝ってたもう」

「仕事の手伝い…内容は?」

「近くに来ている帝国兵の排除、その数は4万と極少数じゃ」

「いや多いだろ!」

「我のみでも容易に始末出来るが、それではつまらんのだ。刺激が足りぬ」

このブラックドラゴンは何かと刺激や道楽に飢えているのか、今は退屈を殺せそうな何かを欲しがちらしい。
それが自分達との戦闘では無いことには感謝しつつ、断ったら後々大変な事になりそうなのでマスタングとの相談の上、やむを得ずブラックドラゴンの仕事に付き合う事にしたのだ。

「まったく、我儘なドラゴンだぜ」

「他者を慮るばかりの人生など、つまらぬぞ?雄雌問わず、時にはちぃと強引なアプローチも必要なのだ」

ブラックドラゴンの案内で帝国兵の拠点へ移動するが、何故かブラックドラゴンはマスタングの高速移動モードの速度ギリギリで飛んでいる。

「…アーティファクトよ。もう少し速く飛べぬのか?」

「飛べますが、魔力消費との兼ね合いでこの速度にしております」

「つまり、魔力が多量に有れば更に速く飛べるのだな?」

「理論上はそうなります」

マスタングの回答を聞いたブラックドラゴンは、大喜びでマスタングへ近付くとルーフに尻尾をピトリと押し当てた。
ゴトゴトと物音がしたのでモニターを確認すると、画面の右上に謎のカウンターが表示され目まぐるしい速度でカウントアップしてゆく。

「魔力を直接注ぎ込むのは契約干渉になりかねんからな、魔力のたんまり籠った魔石をやろう。それを使うが良い」

カウンターの表示は2849となっており、マスタングの車体全体が一瞬光に包まれる。
これでマスタングはブラックドラゴンから貰った全ての魔石を吸収したのだ。

「マスタング、調子はどうだ?」

「頂いた魔石で魔力タンクの拡張及び予備タンクの拡張が完了、魔力消費の効率化も達成しました」

「それで、速度はどの位出せるようになった」

「高速巡航モードで約800km/hを達成、最高速度はマッハ2.0、時速計算で約2450km/hを達成しました。高速移動時の空気抵抗は風魔法のシールドを展開する事で解決しております。これで私はF-104スターファイター並みのスピードを手に入れました」

「成る程スターファイターね…って、ジェット戦闘機じゃねぇか!」

そんなスピードで移動しようものなら、どう考えても身体にかかるG(重力加速度)に耐えられる自信は無い。
気絶したり嘔吐したりするのが関の山だ。

「耐Gスーツ無しでは無茶だろ」

「試してみましょう」

「何故そうなる?」

イズミの疑問にマスタングは答えず、高速巡航モードに自動で切り替わり加速を始める。
身体がシートに押し付けられながらも何とか操縦桿を握り締めていると、窓の外からブラックドラゴンの大きな目が此方を覗き込んでいる事に気が付いた。

「良いぞアーティファクトよ!面白くなってきたではないか」

必死な表情のイズミとは対照的に、上機嫌のブラックドラゴンとマスタングは徐々にその速度を上げてゆく。
マッハ1を突破した時にはドラゴンは大層愉快そうに笑いながら、帝国兵の拠点付近で降下を始めた。

「気持ち悪い、ミサイル攻撃は任せても良いか?」

「かしこまりました。ではオートモードで戦闘を開始します」

昼食を取っていたら確実に戻していたかもしれないと思いながら、イズミは辛うじて意識を保っていた。

ブラックドラゴンが天地を揺るがすような咆哮と共に帝国兵へ向けて火球を放つのと合わせて、マスタングは何発ものミサイルを発射して敵兵の拠点を爆破した。
言うまでもないが、メインは燃料気化爆弾だ。
攻撃は帝国兵が緊急で張った防御魔法を安々と貫通しては、帝国兵諸共その場を焦土と変えてゆく。

帝国兵4万人は、僅か5分で全滅した。
骨の1本も残すこと無く、その地に残ったのはごく僅かの甲冑や武器の残骸だけだ。
全滅を確認したブラックドラゴンは不満げに言った。

物足りない、と。

ついでと言わんばかりに、少し離れた土地で侵攻作戦の為に移動中の帝国兵3万人も処理してしまおうと言い出し始めた。
流石に付き合ってられないと断ろうとしたのだが、そんなに遠くは無いと言われるしドラゴンが駄々をこね始めたので、今日だけ特別と条件を付けて援護をする事になってしまった。

遠くは無いと言われたが巡航速度800km/hでキッチリ30分、つまり約400kmも移動した事に関しては、ブラックドラゴンとイズミの距離感に対する価値観の違いを浮き彫りにするものだった。

久し振りに暴れる事が出来て満足はしたが、ブラックドラゴンは最後にヒュミトールに戻るイズミ達の道中を同行すると言い出して、ヒュミトールの近くまで付いてきた。
これは単純にブラックドラゴンがマスタングと最高速度対決がしたかったかららしいが、まさかブラックドラゴンもマッハ2で飛行出来るとは思わなかった。

Gに耐えながらブラックドラゴンに聞いてみると、マスタングの風魔法シールを一目見て自分にも扱えると判断し、即席で展開したそうだ。
最初は翼を広げて飛んでいたが、マスタングがブラックドラゴンへ魔石のお礼に情報を提供したら、大きな翼をたたみ風魔法のみでマッハ2のスピードに到達したのだ。

ヒュミトールが地平線ギリギリに見えた位の所でマスタングは地上へと減速しながら下降し、人の居ない場所に降りて通常運転モードに切り替わる。

「中々に愉快だったぞ、また会おう」

満足気に雄叫びを上げるとブラックドラゴンは優雅に翼を広げて空を飛び、雲の上へと去ってしまった。

「マスタング、俺は物凄く疲れた」

「やはり服装に耐Gスーツの性能付与が必要そうですね。ヒュミトールはすぐそこです」

現在の時刻は17時18分。
日没までは若干の余裕があるが、安全運転でまったりとヒュミトールに向けて走り出した。



完全武装の衛兵に対して、イズミは疲れた表情で話をする。

「あのドラゴン、単に空を散歩でもしてたんじゃないですかね?」

「散歩?ドラゴンが飛ぶのは狩りの時と、どの国でも教わるのだが」

「でも何か被害にあってはいないでしょう。何処かで狩りをしていたのかもしれませんが、少なくともヒュミトールにドラゴンの直接的な被害は出て無いはず」

「それはそうだが」

「それにドラゴンは飛び去っている訳ですし、夜になったら警戒を解除して大丈夫だと思いますけどね」

イズミはブラックドラゴンの目撃情報の為に緊急で動いた衛兵隊を労う為に、自分用のドワーフ酒…未開封の新品…を10本程寄付しておいた。

「ドラゴンから民を守る為に命を掛ける覚悟ある衛兵の皆様に、私から心ばかりのお礼を」

「これは!」

「警戒が解除されたら飲んでください」

対応をしてくれた衛兵には別で金貨を握らせると、イズミはヒュミトールに入りマスタングを徐行運転で走らせる。
そんなマスタングへ向けて衛兵隊が敬礼をしていた事に、疲労困憊のイズミは気付かなかった。
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