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第二十八章 梅雨が明けるまで
第五百七十八話 思わぬ買い物
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「そうじゃ、面白い酒が入荷したのだが買わぬか?」
酒盛り当日。
早朝から酒屋の馬車がイズミの賃貸へとやって来て大量のお酒を運び込んでいると、店長であるドワーフが別途で入荷した新商品をテーブルに並べる。
魔石ランタンを点けて確認すると、今までに見てきたドワーフ酒とは違う色合いである事が透明な瓶から伺える。
「これが南に拠点を構える同業者が最近見つけた酒で、何でも南の地方で作る砂糖の原料とかの余りってのを、どうにか有効活用しようとしたら偶然出来た酒らしい」
「原材料は?」
「なんつってたか…確か、キービだ」
「キービ、ねぇ」
イズミの知識として浮かんで来るのは、サトウキビだ。
サトウキビから砂糖を精製する過程で出てくる、砂糖の結晶にならず使えない液体を活用したラム酒に近いものではないだろうか。
「他には?」
「コイツは…元々はワインだったのだが」
「だった」
ドワーフ店長は少し口を濁しつつ、ラム酒とは分けるようにして酒の説明を始めた。
「お主はワインに関する法を知ってるか?」
「いいえ、全く知らないですね」
「簡単に言うなら、混ぜ物厳禁!産地偽装厳禁!指定の製造方法意外で製造したワインは、ワインと呼ぶ事禁止!他にもあるがこれが分かれば大丈夫だ」
「成る程、それなら分かりやすい」
「でだ…知り合いのワイン農家がドワーフ酒の製造方法を学び、自らが作ったワインを原料にしてドワーフ酒を作ったんだ。考え自体は面白いが、ワインとしては売れない訳だな」
「指定の製造方法からは逸脱すると」
「昔から極小規模に作られていた酒とか言っていたが、今回本気で作ってみたそうだ」
どの世界でも興味のある事に挑戦する心を持った者は居るようだ。
まさか異世界産のブランデーかもしれない酒が、目の前にあるのだ。
「新商品だがワインと名乗れず、新たなドワーフ酒として売るにも…ちょっとなぁ」
「ちょっと?」
「味が微妙なんだ。ちと試飲してみるか」
店長は別でミニボトルを取り出すと、試飲する前提で用意をしていたグラスに注いでイズミに渡した。
透明なグラスには極々淡い色をした液体が揺れている。
あまり熟成されていないワインがベースなのかもしれない。
「…何と言いますか、色々な味わいが好き勝手してる感じですね」
「ワイン農家としては一流なのだが、今回のコレは失敗と言わざるをえないな」
イズミが素直な感想を口にすると、店長も小さく頷いた。
ベリアとオリヴィアにも試飲をしてもらったが、2人とも顔をしかめてしまった。
口に合わなかったようだ。
「コレ、どの位寝かせました?」
「寝かせるとは」
「樽でどれだけ熟成させたかって事です。ワインでもするでしょ」
「ほとんどしないな。出来たワインは樽単位で売買されて、半年も経たずに飲まれるだけだ。地域によってはワインは水代わりの飲料だからな」
「あぁ…」
「もしその熟成とやらをするとなれば、余程の貴族か長命なエルフ族くらいだろう」
「ドワーフ酒は熟成させないのか?」
「やっても1年だ、それも沈殿物が樽や瓶の底で完全に落ち着くのを待つくらいさ。何年も寝かせて完成なんて酒は、道楽者意外は作る余裕が無い」
「そうですか。でもこの酒なら…樽で3年とか6年とか、試しに7から10年程寝かせてみるのが良いかもしれませんが」
「10年!?」
店長は素っ頓狂な声を上げると、イズミと酒の入った瓶とを交互に見つめる。
「それだけ寝かせればわんぱくな子供も大人へ成長するように、酒も大人びた味わいになる…かもしれません」
「なんだ?妙に説得力がある言い方だな」
「押して駄目なら引くように、若さが悪目立ちするなら大人になるまで待つ。発想の転換ですかね」
「若く荒削りな技術を、歳を重ねる中で円熟させる。それを酒にも当てはめるとはな…そうなると、かなり値が張る代物になるな」
「時間を費やしたのですから、其れだけの価格に反映させるのは当然の事…美味しければの話ですがね。最初は献上品とかで少数を出してみて、相手方の様子を伺うのが良いですかね」
「お主は寝かせれば化けると考えているが、何処でその根拠や自信を持ったのだ?経験の無い言い方には聞こえなかったが」
店長の疑問に答えようとするも、下手に話をすると厄介な事になりかねない。
イズミは悟られないように注意しつつ、魔法通信でマスタングに連絡を取った。
「マスタング…ブランデー、コニャック辺りを1本用意出来るか?」
「当然です。一連の会話は聞いておりましたので、直ぐに実体化出来ます」
イズミは少し席を外すと言ってマスタングの元へ向かうと、トランクにてブランデーが1本鎮座している。
その隣には小瓶があり、試飲用のブランデーが入っているようだった。
「ヘネシーのV.S.O.P.です」
「助かる」
「魔王様より伝言を受信しました【そちらで作られた未熟成のブランデーも面白そうなので飲んでみたい】だそうです」
「面白そう…確かに、話のネタにはなりそうだ」
イズミは受け取ったブランデーを手にして戻ると、ドワーフ店長の元へ向かいブランデーの瓶をテーブルに置いた。
「これは?」
「昔あるエルフ族から頂いたお酒です。そのエルフは酒、特にワインが好きでしたが余り酔えず、ドワーフ酒を作る工程を真似した酒を一樽分作ったが事あったそうです」
「ふむ、それは知り合いと似ているな」
「度数が上がり酔う事は出来たとその時は満足したらしいですが、その後そのワインが入った樽の存在を忘れていて…」
「話が読めたぞ。その酒を飲んだ事があるんだな」
「そんな所です」
イズミは小瓶に入ったブランデーをグラスに注いでやると、かなり興味を持っているベリアとオリヴィアの分も用意する。
理想を言えばグラスの形状にもこだわりたい所だが、流石にそこまではしないでおこう。
いつかこの世界でもブランデーが有名になり、より香りや味わいを楽しもうとする酒好きが専用グラスを生み出す未来もあるかもしれないのだから。
「…香りも口当たりも良い。ドワーフ酒のような酒精、雑味は消え去って落ち着いている。熟練者の見せる余裕にも思える深み、これは美味い」
「このワインは何本持って来てます?」
「4本だが」
「此方に試飲した酒を瓶詰めした1本あります。その4本と交換しませんか?キービを使った酒は別で購入します」
イズミの提案に皆が驚いたが、ドワーフ店長の決断は早かった。
「交換か…それで構わん!ちなみに、この酒は何年忘れられていたのか、聞いているか?」
「確か10年位だったかと」
「10年か…待つことの辛さとも戦う事になりそうだな」
その後ドワーフ店長からラム酒を1本につき金貨2枚と言われ、イズミはそれを3本購入した。
店長が帰って行った後でベリアは冒険者ギルドへ向かい一仕事、イズミはオリヴィアの服を受け取る準備をする。
メーレルが酒盛りの荷物を持ってやって来たらオリヴィアの事を紹介し、事情を説明してから服を受け取りにむかった。
イズミ達の出発を見送るメーレルの右肩付近に、野良猫が飛び乗って何かしているのがバックミラー越しに確認出来るが、今は確認を諦めてマスタングを走らせる。
酒盛り当日。
早朝から酒屋の馬車がイズミの賃貸へとやって来て大量のお酒を運び込んでいると、店長であるドワーフが別途で入荷した新商品をテーブルに並べる。
魔石ランタンを点けて確認すると、今までに見てきたドワーフ酒とは違う色合いである事が透明な瓶から伺える。
「これが南に拠点を構える同業者が最近見つけた酒で、何でも南の地方で作る砂糖の原料とかの余りってのを、どうにか有効活用しようとしたら偶然出来た酒らしい」
「原材料は?」
「なんつってたか…確か、キービだ」
「キービ、ねぇ」
イズミの知識として浮かんで来るのは、サトウキビだ。
サトウキビから砂糖を精製する過程で出てくる、砂糖の結晶にならず使えない液体を活用したラム酒に近いものではないだろうか。
「他には?」
「コイツは…元々はワインだったのだが」
「だった」
ドワーフ店長は少し口を濁しつつ、ラム酒とは分けるようにして酒の説明を始めた。
「お主はワインに関する法を知ってるか?」
「いいえ、全く知らないですね」
「簡単に言うなら、混ぜ物厳禁!産地偽装厳禁!指定の製造方法意外で製造したワインは、ワインと呼ぶ事禁止!他にもあるがこれが分かれば大丈夫だ」
「成る程、それなら分かりやすい」
「でだ…知り合いのワイン農家がドワーフ酒の製造方法を学び、自らが作ったワインを原料にしてドワーフ酒を作ったんだ。考え自体は面白いが、ワインとしては売れない訳だな」
「指定の製造方法からは逸脱すると」
「昔から極小規模に作られていた酒とか言っていたが、今回本気で作ってみたそうだ」
どの世界でも興味のある事に挑戦する心を持った者は居るようだ。
まさか異世界産のブランデーかもしれない酒が、目の前にあるのだ。
「新商品だがワインと名乗れず、新たなドワーフ酒として売るにも…ちょっとなぁ」
「ちょっと?」
「味が微妙なんだ。ちと試飲してみるか」
店長は別でミニボトルを取り出すと、試飲する前提で用意をしていたグラスに注いでイズミに渡した。
透明なグラスには極々淡い色をした液体が揺れている。
あまり熟成されていないワインがベースなのかもしれない。
「…何と言いますか、色々な味わいが好き勝手してる感じですね」
「ワイン農家としては一流なのだが、今回のコレは失敗と言わざるをえないな」
イズミが素直な感想を口にすると、店長も小さく頷いた。
ベリアとオリヴィアにも試飲をしてもらったが、2人とも顔をしかめてしまった。
口に合わなかったようだ。
「コレ、どの位寝かせました?」
「寝かせるとは」
「樽でどれだけ熟成させたかって事です。ワインでもするでしょ」
「ほとんどしないな。出来たワインは樽単位で売買されて、半年も経たずに飲まれるだけだ。地域によってはワインは水代わりの飲料だからな」
「あぁ…」
「もしその熟成とやらをするとなれば、余程の貴族か長命なエルフ族くらいだろう」
「ドワーフ酒は熟成させないのか?」
「やっても1年だ、それも沈殿物が樽や瓶の底で完全に落ち着くのを待つくらいさ。何年も寝かせて完成なんて酒は、道楽者意外は作る余裕が無い」
「そうですか。でもこの酒なら…樽で3年とか6年とか、試しに7から10年程寝かせてみるのが良いかもしれませんが」
「10年!?」
店長は素っ頓狂な声を上げると、イズミと酒の入った瓶とを交互に見つめる。
「それだけ寝かせればわんぱくな子供も大人へ成長するように、酒も大人びた味わいになる…かもしれません」
「なんだ?妙に説得力がある言い方だな」
「押して駄目なら引くように、若さが悪目立ちするなら大人になるまで待つ。発想の転換ですかね」
「若く荒削りな技術を、歳を重ねる中で円熟させる。それを酒にも当てはめるとはな…そうなると、かなり値が張る代物になるな」
「時間を費やしたのですから、其れだけの価格に反映させるのは当然の事…美味しければの話ですがね。最初は献上品とかで少数を出してみて、相手方の様子を伺うのが良いですかね」
「お主は寝かせれば化けると考えているが、何処でその根拠や自信を持ったのだ?経験の無い言い方には聞こえなかったが」
店長の疑問に答えようとするも、下手に話をすると厄介な事になりかねない。
イズミは悟られないように注意しつつ、魔法通信でマスタングに連絡を取った。
「マスタング…ブランデー、コニャック辺りを1本用意出来るか?」
「当然です。一連の会話は聞いておりましたので、直ぐに実体化出来ます」
イズミは少し席を外すと言ってマスタングの元へ向かうと、トランクにてブランデーが1本鎮座している。
その隣には小瓶があり、試飲用のブランデーが入っているようだった。
「ヘネシーのV.S.O.P.です」
「助かる」
「魔王様より伝言を受信しました【そちらで作られた未熟成のブランデーも面白そうなので飲んでみたい】だそうです」
「面白そう…確かに、話のネタにはなりそうだ」
イズミは受け取ったブランデーを手にして戻ると、ドワーフ店長の元へ向かいブランデーの瓶をテーブルに置いた。
「これは?」
「昔あるエルフ族から頂いたお酒です。そのエルフは酒、特にワインが好きでしたが余り酔えず、ドワーフ酒を作る工程を真似した酒を一樽分作ったが事あったそうです」
「ふむ、それは知り合いと似ているな」
「度数が上がり酔う事は出来たとその時は満足したらしいですが、その後そのワインが入った樽の存在を忘れていて…」
「話が読めたぞ。その酒を飲んだ事があるんだな」
「そんな所です」
イズミは小瓶に入ったブランデーをグラスに注いでやると、かなり興味を持っているベリアとオリヴィアの分も用意する。
理想を言えばグラスの形状にもこだわりたい所だが、流石にそこまではしないでおこう。
いつかこの世界でもブランデーが有名になり、より香りや味わいを楽しもうとする酒好きが専用グラスを生み出す未来もあるかもしれないのだから。
「…香りも口当たりも良い。ドワーフ酒のような酒精、雑味は消え去って落ち着いている。熟練者の見せる余裕にも思える深み、これは美味い」
「このワインは何本持って来てます?」
「4本だが」
「此方に試飲した酒を瓶詰めした1本あります。その4本と交換しませんか?キービを使った酒は別で購入します」
イズミの提案に皆が驚いたが、ドワーフ店長の決断は早かった。
「交換か…それで構わん!ちなみに、この酒は何年忘れられていたのか、聞いているか?」
「確か10年位だったかと」
「10年か…待つことの辛さとも戦う事になりそうだな」
その後ドワーフ店長からラム酒を1本につき金貨2枚と言われ、イズミはそれを3本購入した。
店長が帰って行った後でベリアは冒険者ギルドへ向かい一仕事、イズミはオリヴィアの服を受け取る準備をする。
メーレルが酒盛りの荷物を持ってやって来たらオリヴィアの事を紹介し、事情を説明してから服を受け取りにむかった。
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※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
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