異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
601 / 624
第二十八章 梅雨が明けるまで

第五百八十七話 また呼び出される

しおりを挟む
山分けにした品物を布袋に分けてしまっていると、部屋の扉を誰かがノックして来た。

「グラテミア様、アヤです。ガーネディアン公爵家から文書が届きました」

「公式?それとも非公式?」

「公式です」

グラテミアがアヤから文書を受け取ると、その場で内容を確認し始める。

「…イズミ様、賃貸で生活中に監視されてましたよね。何か対応しましたか?」

「いいえ、完全に無視してましたよ。何をしているのかを嗅ぎ回ってる奴が居るってのは、ドワーフ工房に顔を出してる時に聞きましたが」

「嗅ぎ回って調べた結果、彼等では納得出来る答えが出せなかったようね…ガーネディアン公爵家から正式な依頼よ」

グラテミアが手にしていた文書を手渡すと、イズミはメガネを掛けて内容をマスタングに翻訳してもらう。

「ええと…【貴殿がヒュミトールにて賃貸物件にて生活している事は把握している。そこに関しては問題無いが、貴殿の行動について以下の疑念があると報告を受けている。真偽を直接確かめたく当屋敷へ来て頂きたく】うわ面倒くさ」

文書に書かれていた疑念は、大量購入した酒の密売だった。
文書には購入した店舗及び金額、そして何回に分けて賃貸へ運び込んだかまで記載されている。

「ここまで分かってるなら、酒瓶を返却してる事も分かっているだろうに」

「普通に考えれば、大量の酒を短期間で消費出来るとは思えないですからね…常時監視されているなら人を招待しても分かりますが、今回招待した相手が相手ですからね。だからこそ酒を詰め替えて密売していると思われたと考えれば」

「そういう事?何度かヒュミトールの外へ行った時に売り捌いてると思われたと」

「だとしても5回目の酒は売っていない認識はあり、酒瓶は回収されてますので、大量の酒を別の瓶に入れ替えて所有しているかを直接確かめたいって所でしょう。確か公爵家にはお抱えの魔術師に、真偽を判定する事が出来る者が居た筈」

「グラテミアさん、酒盛りの事を素直に説明したとして、信じてもらえますかね?」

「魔族ならまだしも、人間族では難しいかもしれませんね。例え魔法で真偽を確かめたとしても、自分達に都合が悪ければ見ていない事にする悪癖が有りますから…ガーネディアン公爵家はそこまで酷い貴族ではありませんが、全てを信じてくれるかは何とも」

「…身の潔白の証人として魔王様をお呼び出しするとかは?」

「イズミ様からの頼みであれば、魔王様なら笑って証言してくれるかもしれませんが…それはそれでイズミ様が大変な立場になりますよ。魔王様と酒を飲み交わした人間である事実、友好関係を構築している実績、気軽に呼び出せる間柄だと分かれば間違い無く、魔王様を危険視する国からは危険人物として指名手配されかねません」

「そんなに」

「魔王が姿を現す時、世界を滅ぼさんとする。それがこの世界における常識ですから。魔族は実情を知ってますのでそんな常識は持ち合わせておりませんが、それを人間族相手に説明するつもりも殆どありませんね」

「丁寧に説明した所で人間族は聞き入れないから、ですか」

「そうです。理由は何であれ、魔王がこの世界に何度も侵攻して来た事実がありますから」

渡された文書に目を通し終えたが出頭の日付が書かれておらず、此方側の事情も考慮して融通を利かせてくれているのかもしれないが、面倒事は早めに終わらせておきたいので明後日の昼間で大丈夫かと確認をしてもらう事にする。

「イズミさん、確認したい事があるのですが」

「今度はなんです?」

「人間族向けボディ用除毛クリームです。必要素材は確保済みで、実験用に数個作成しました…残すはテスター探しなのですが。オリヴィアさんで試してみても」

「それはオリヴィアからの同意があれば、試しても良いと思いますけど」

「では早速聞いてみますね」

研究大好きなフラウリアはルンルンな足取りで部屋を出ていった。
イズミが気付かぬ間に自分の報酬はしっかりと仕舞っていたようだ。

「グラテミアさん、私の目は公爵家に見られてもバレたりはしないですかね?」

「絶対にバレないわね。言い方は悪いけど彼等の実力は雑踏同然、ゲヘナ様や魔王様の仕込んだ魔力は感知すら出来ないわ。女神の加護を持っていれば、何かしらの違和感を持つかもしれませんが…一度ベリアさんに確認してもらいましょう」

グラテミアは自分の報酬の一つとして、小さなコマのような物を手にしている。
自身の机にて軽く回してみると、とても綺麗な回転運動を始めた。

「グラテミアさん、それは?」

「特別な材質の素材で作られた物で、名前が数個あります…コマとかトーテムって鑑定では表示されました」

「何か効果が」

「特には何も。鑑定では【コマの回転を眺めているだけでも良い気分転換になるかも】とだけ…こう言うの、結構好きなんですよ」

グラテミアの新たな一面を垣間見た所で、イズミは公爵家とのアポイントが取れたと報告を貰った。
今日の所はグラテミアの屋敷にて一泊する事になると、話を聞いた菓子作り担当の料理長がすっ飛んで来て、イズミは半ば強制的に厨房へと連行されるのであった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...