異世界無宿

ゆきねる

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第二十八章 梅雨が明けるまで

第五百九十一話 一難去りました

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魔王が消え去った部屋の中で、二振りの剣が妖しい輝きを放っている。
イズミはショルダーバッグを椅子に置くと、無言のまま剣へと近いて軽く触れてみる。

「特に反応なし、か」

イズミはそのまま剣を鞘に納め、グラントとウィレムに声をかけた。

「御二人さん、受け取ったらどうです?」

「しかしイズミよ、魔王が拵えた剣だぞ?どんな細工をされているか分かったものではないぞ」

「この剣で魔王と戦う訳ではないでしょう?一度調べて貰って、それからは好きに使えばよいかと」

グラントは細身の剣に触れるのを躊躇していたが、ウィレムは意を決して半透明な刀身を持つ剣に触れた。
やはり特に反応たるものは無いようだ。

「…重いな。イズミは良く鞘へ仕舞えたな」

「そんな重くありませんでしたよ?」

ウィレムは剣を鞘から抜こうとしているが、全く抜けそうな気配すら無かった。

「駄目だ。抜く事すら叶わぬとは」

ウィレムが剣をイズミに渡すが、イズミは何事も無く抜く事が出来た。
その刀身は見事なまでの半透明である。
再度鞘に仕舞いベリアに抜けるか試して貰うと、かなり気合を入れるとようやく抜く事が出来た具合だった。

「うひゃ~、コイツは魔法剣よりもジャジャ馬だぞ!」

「どうした?」

「この剣、魔力を込めないと何も斬れない」

ベリアは両手で剣を構え軽く魔力を込めると、半透明な刀身が仄かに赤色に染まりだした。

「こうしないと駄目なんだ。抜刀する時も魔力を込めないと反応しない」

「じゃあ何で俺は剣を抜けたんだよ」

当然の疑問を口にすると、ずっと笑みを浮かべたまま無言だったアヤが右手を上げた。

「イズミさんは魔法を使えないからです」

「魔法を使えないから剣が抜けるって、意味が分からないのですが」

「その剣は魔法を使える者が扱う前提の武器、原則として一定量の魔力を込めないと抜刀すら出来ません。しかし単純に抜刀するだけならば、その限りではありません。その場合は剣として使えませんが」

アヤは説明する為にベリアから剣を受け取ると、剣に込められた魔力を抜いてからイズミへ渡す。
イズミの手にある剣はしっかりと半透明だ。

「イズミさん、椅子でもテーブルでも斬ってみて下さい。絶対に斬れませんし、刀身が触れる事すらありませんから」

イズミはグラントに許可を貰ってから近くにあった椅子を斬ろうと振ったが、何故か半透明な刀身は椅子をすり抜けてしまった。

「おっと、本当に斬れないとは」

「全く魔法が使えないからこそ、剣がイズミさんを使用者として認識する事が出来ず、結果として鞘から抜刀する事だけは出来るのです。しかし魔法が使えないので、刀身に魔力を込められず物体を斬る事は出来ない」

「では何故、半透明な姿形だけは見えるんだ?」


「剣自体の長さを外部に見せているだけかと」

イズミはベリアから鞘を受け取ると、剣を納刀してウィレムに返却する。

「しっかり魔力を込めると使えるそうです」

「…そのようだな。何れ試してみるとしよう」

ウィレムは顔に冷や汗を流しながら椅子に座る。
本気で魔力を込めたのか、少しだけ刀身が鞘から見え隠れしている。

対するグラントの剣は、グラント自身もウィレムも抜刀する事が出来た。
念の為に確認をしたが、ベリアもアヤも抜刀出来た。
出来なかったのはイズミだけだ。
鞘から1ミリたりとも剣が抜けなかった。

「これはどうして?」

「魔法が使えないからでは」

「此方は魔法が使えないと抜刀すら出来ないのか」

イズミは剣をグラントに返却し、最初に座っていた椅子に戻る。

「さて、色々と想定外の事態に陥りましたが。酒の横流しの件はどう判断なさる予定で?」

「うむ…魔王と自称する男の話しを信じる他無いようだな、この二振りの剣が証拠になるだろう。問題は」

「私と魔王様との関係ですか?」

「そうだ。これは由々しき事態になりかねない」

「只の飲み仲間くらいな関係なのですが」

「そこが問題なのだ。【魔王が姿を現した時、その地から戦場となり世界を蹂躙する】そう言い伝えられていると言うのに…実際は旅人が開いた酒盛りに気軽に顔を出す感覚で来訪している…信じろと言う方が無理だ」

「まぁ、前魔王であって現職ではありませんので」

「そんな話しを誰が信じるか、という事だ。元老院は信じないだろうな」

「その辺りは元老院の勝手ですが、判断を間違えると火傷しますよ」

グラントはかなり苦慮しているようだが、ひとまず疑惑は晴れた扱いになった。
イズミ達は堂々と屋敷を後にして、マスタングで移動を始める。


「父上。この剣を元老院に報告する前に、信頼出来る者に鑑定を依頼しましょう」

「…そうだな。そうする他あるまい」

イズミ達が去った部屋にて、2人は重苦しい雰囲気の中でそう話し合う。

数日後。
グラントが魔術師協会の重鎮たる魔術師を呼び鑑定をして貰った結果、魔王が作り出した剣である事が証明されてしまったのだ。

鑑定結果の最後には、こう追記されていたと言う。

【この剣を使いこなしてみせろ。この剣を超える武器を生み出してみせろ。でなければ未来は掴めない】

この事態に国やギルドにて一騒動起こる事態となるが、その騒動の話がイズミの耳へ届くのはもう少し先の事であった。
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