異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
607 / 624
第二十八章 梅雨が明けるまで

第五百九十二話 真剣に検討する

しおりを挟む
グラテミアの屋敷に戻ったイズミ達はグラント達との会話内容を報告した上で、今後の動きについて相談をしている。

「イズミさんに対してはこの国では迂闊に手を出せませんから、一応は大丈夫ではありますけど…ベリアさんは難しい立ち位置になるわね」

「賓客として扱う、でしたっけ」

「そうです。条件には【如何なる状況になろうとも】と記載してますので、魔王との関係が明るみに出たとしても例外にはなりません。とは言え」

グラテミアは持っていた書類から目を離してイズミ達を見つめる。

「何かしらの牽制や正当な手続きを経ての聴取ならあり得ます。魔王が最後に出現して侵攻して来たのはかなり前の事とは言え、魔王と関係を持つ事に否定的な国や地域の方が多いのが実情です」

「魔王と関係を持っている事実が広まれば…場合によっては国への入国を拒否される可能性も?」

「有り得ます。更に言えば敢えて入国させてから身柄を拘束、拷問にかけて情報を吐かせた上で火刑に処される可能性も」

「それは…気楽な旅どころでは無いですね」

イズミは椅子の背にもたれかかると、天井を見上げながら息を吐く。

「暫くは極秘に扱われるでしょうけど、いつかは明るみになるので覚悟が必要です」

「身を焼かれる覚悟と、身を守る為に戦う覚悟ですね。ベリアとオリヴィアに多大な迷惑を掛ける事も考慮しないと駄目だな」

「アタイは独り身だし家族も皆天命を全うしてるから、迷惑はかからないだろ」

イズミの言葉に反応したベリアだったが、イズミは現状で考えられる懸念事項を列挙した。

「そうか?以前パーティーを組んでた仲間が人質に取られたり、出身地が騎士隊とかに確保されてイズミを殺さないと村民を皆殺しにすると脅される可能性はある」

「そこまでするか?」

「人間ってのは、何をしでかすか分からないから恐ろしいのさ。特に追い詰められてる時とか…旧知の仲の奴から【ベリアがイズミを殺せば、村の皆が助かるんだ。お願いだからイズミを殺してくれ、俺達の子供の命も生まれたばかりの赤ん坊の命もかかってるんだ】とか言われた時に、断れるのかって話さ」

「ぐぬぬ」

ベリアは物凄く険しい表情をして考え込んでしまった。
勿論そんな動きを察知したら自分達も可能な限り対応するが、秘密裏に動く連中の行動を何処まで察知出来るかは未知数だ。

「行動原理ってのは似たようなものだ。何かを守る為、何かを手にする為だ。その【何か】が人や立場や状況によって変わるだけ…魔物や盗賊や帝国兵や魔王から、家族や仲間や国を守る為。魔物や盗賊を討伐して地位や名誉や金銭を得る為」

「何か、ねぇ」

「それが脅かされ、俺を殺せば解放するなんて取り引きをしてたら。かつて一緒に冒険者パーティーを組んでいた仲間が俺と行動を共にしている事が分かったら」

「アタイに近付いて、イズミを殺してくれと頼んで来る?」

「なりふり構っている場合じゃないだろ?愛する家族が人質に取られてると仮定したら、何気ない顔して一緒に飯でもと誘って毒を盛るとかも否定出来ないぞ」

「…そんな事まで考えたら、誰も信用出来なくなっちまう」

「そんな事態にもなりかねない状況なのさ」

「やっぱりあの時、魔王が出て来たのはマズかったのか」

大きなため息をついたベリアだったが、過ぎた事は変わらないので今後の事を考える。

「取り敢えず梅雨明けまではヒュミトールに居よう。明けたらジェヴェドール王国への移動を開始する、当初の予定通りのスケジュールで」

「賃貸はどうします?」

「折角借りたので帰りたい所ですが、1日以上空けたら細工とかされてそうですよね」

疑惑をかけられ、説明をする為に家を空けたのだ。
監視の目もずっとあった事を踏まえると、家を空けている間に侵入して盗聴器みたいな代物を仕込んでいる可能性は否定出来ないし、何らかの証拠を入手する為に家中を物色していてもおかしくはない。

「グラテミアさん、家の中での会話を盗み聞きする魔法とかってあります?」

「ありますよ」

「それが賃貸の何処かに仕込まれていたりする可能性は」

「勿論ありますね。実力のある魔族であれば直ぐに見破れますのでいくらでも対応出来ますが、イズミさんがそれをすると…余計に怪しまれるかもしれません」

「ですよね。家に何か荷物を置いてたっけか?」

イズミは賃貸の2階に何か荷物を置いたままにしていたかを思い出してみるが、今のところ何も無さそうだ。
ベリアにも確認するが野営用の道具以外は置いておらず、それも新調する予算はタンマリあるので問題ないとの事だった。

念の為にオリヴィアにも確認をしようと、フラウリアがクリームのテストをしていると言う部屋に案内してもらう。

「フラウリアさん失礼します。オリーに少し確認したい事があるのですが今は大丈夫です?」

「大丈夫ですよ」

フラウリアの返事を聞いてから部屋に入ると、オリヴィアはクリームを塗った箇所がに赤くなったりしないかを確かめている所だった。

「イズミ、どうしたんだい?」

「あの酒盛りの一件で一悶着あってね、さっき話しをして来た所なのだが。オリーはあの家に何か荷物を置いてるか」

「あの2階建ての家に?特に無いね。服もマスタングさんのアイテムボックスに入ってるし」

「そしたら…梅雨明けして出発する迄、この屋敷にてお世話になる事に決まっても大丈夫そうだな」

「…訳ありだね?」

「詳しく話すと。俺が大量に酒を購入していたのは酒の横流しをする為ではないかとの疑いを持たれたみたいで、今日ガーネディアン公爵の所へ説明をしに行って来たんだ。で、いざ説明しようとした所で前魔王様が突然現れて俺の身の潔白を主張したもんだから大騒ぎ。って感じ」

「今の話と荷物の話を合わせると、家も危険な可能性があるから、この屋敷で出発まで過ごす事にすると」

「ご明察。ついでに聞くが、オリーは魔王をどう思う?」

「どうって…よく分からないね。昔話で聞いたみたいな感じでは無かったし、支配を企んでる感じも無かったように見えたけど」

「なら良いんだけど。問題は皆が皆、そんな考えになる訳では無いって事だな」

「そうだねぇ。アタシはイズミと一緒に旅をするって決めて此処に居るんだから、何があっても離れる気は無いよ…何があってもね」

オリヴィアはイズミが不安に思っている事を察したのか、笑顔でそう付け加えて答える。

「分かった」

イズミはオリヴィアとフラウリアに挨拶をしてから部屋を出ると、馬車置き場に駐車しているマスタングの元へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...