異世界無宿

ゆきねる

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第二十八章 梅雨が明けるまで

第六百四話 過程を全飛ばし

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マスタングはどんよりとした曇り空の下を颯爽を走行している。
ヒュミトールの門を出てから北へと向かい、目的地へ続く道を冒険者や馬車に注意しながら安全運転で走る。

「イズミ、ちょいと気になるんだけどさ…どの辺で魔物に襲われたんだろうな」

「詳細な時間と場所は聞いてない。魔物に襲われて死んだらしい、としか」

「ふーむ…」

「何か気掛かりな事でも?」

「いや、こっち方面に討伐依頼は暫く出てなかったような。遭遇した時に討伐したけど、被害が出たって感じなのかなぁ」

「詳しくは村で聞くしかないが、俺としては原因究明よりも子供の保護を優先したい所だ。野良猫さんが頼んで来る程なんだし、多少強引にでも身の安全までは確保したい」

「…イズミが動くと運が良ければ相手の手足が吹き飛ぶ位で収まるけど、基本死ぬからなぁ。もう少し不殺の武器があると良いかも」

ベリアのジト目が助手席側からイズミへ向けられる。

「俺の使う武器に耐えられる防御力が無いのが悪い」

「無茶言うぜ、アタイだって直撃したら1発で死ぬかもって威力だぞ」

「ベリアに命中させる事がどれだけ難易度が高いか、分かってないだろ」

「兎に角、初対面のパン屋の娘さんの前で殺しはしないのが理想だからな」

「それはそうだが、相手の出方次第ってやつだ」

イズミはマスタングのアクセルを踏み込み、昼前には到着すべく加速させるのだった。


目的地の村に到着する直前、後部座席に座るオリヴィアの隣に野良猫が出現する。

「イズミよ、娘には精霊から話をさせておいた」

「おぉ!?」

全くの不意打ちな出現にオリヴィアは素っ頓狂な声を上げて野良猫の方へ顔を向けたが、ベリアは事前に察知出来ていたのか大きな反応はしていない。
イズミは運転中なので振り向く事はせず、黙って野良猫の話を聞く。

「今は何処に?」

「家に居るが、少々衰弱しておる。ただでさえ与えられる食事が少ないのに、精霊達にも分け与えているのだ」

「自分が死んだ後の事は余り考えられてない感じか」

「全てを失ったようなものだ、失意の内に命を落とす者は数え切れんな」

「どう保護するのが最善か、悩むねぇ」

イズミは初対面なオリヴィアと野良猫に挨拶だけしてもらうと、村の入口の手前で一度停車する。

「ではイズミよ、頼んだぞ」

「…はいよ。所で、娘さんの名前は?」

「ミレイユだ」

野良猫が姿を消すのを見送ったイズミは、徐行で村へと進んでゆく。
馬車置き場にマスタングを停めると、イズミは念の為に44マグナムとセミオートショットガンにゴム弾を装填しなおしてから、2人をマスタングに待機させ単身で聞き込みを始める。
ここにSランク冒険者のベリアが居ると波風が立つような気がするし、オリヴィアの手元にはまだ武器が無いのだ。

通りで野菜や小物を売っている店の前に立つと、買い物を装って話を聞いてみる。

「失礼、買い物ついでに聞きたい事があってね。この村に住むミレイユと言う子供を探しに来たのだが」

「まいど。ミレイユちゃんなら、入口を布で覆ってる店に居るよ…知り合いかい?」

「そんな所です。何かあったら保護をと頼まれていたのですが、頼まれた本人は怪我で動けなくて…私が代理で」

「そうかい!ご両親が死んじまってから色々ありすぎて、すっかり塞ぎ込んじまったんだよ。最近はパンすら作らせて貰えないってさ」

老人は店の奥から2本の包丁を持って来ると、イズミの購入した野菜の隣に置く。

「これは?」

「パン屋を買い取った夫婦が売りに来た包丁だよ。あの夫婦はパン屋にあった物は全部売っ払って、自前の道具に変えたんだよ。それからミレイユちゃんは台所に入る事すら禁じられたって、買い物に来た時に涙ながらに言ってたよ」

「成る程ね…ミレイユにとっては、思い出の品の1つか。他にも?」

「あとは小鍋くらいだな」

「買い取らせてもらうよ」

支払いを済ませて購入した品物をショルダーバッグに収納し、イズミは目的の店へと足を運ぶ。

「…なんだい、アンタ」

「単刀直入に言う。ミレイユ嬢を保護しに来た」

「保護?ちゃんとコッチで育ててるよ」

「アンタの言い分を聞くつもりは無い、此方も約束しているものでね」

「ちょっと困るね…ドングル!この男をつまみ出して頂戴」

店の女はドングルと言う男を呼ぶと、イズミより頭二つ分は大きい男が姿を見せる。
筋骨隆々とまではいかないが鍛えているだろうその手には、使い込まれたロングソードが握られている。

「つまみ出すのと殺すのとじゃ、意味合いが変わると思うが?」

「こうるせぇ小男め、黙ってけぇるんだな!」

男が剣を振りかざすよりも速く、イズミは44マグナムを抜いて4発撃ち込んでやった。
ゴム弾に変えているとはいえ、その威力はマスタング特製のハイパワー仕様である。
腹部と胸部に命中した衝撃にロングソードを落とし蹲る男に対し、追い討ちをかけるようにセミオートショットガンを数発お見舞いする。
床に倒れ込んだ事を確認してから女に銃口を向けた。

「ひぃ!?」

「ミレイユ嬢は保護させてもらうぞ」

イズミはショルダーバッグからメガネを取り出して掛けると、ショットガンを仕舞いながらミレイユを探す。

メガネには魔法反応が表示されており、ミレイユの居る部屋は直ぐに特定出来た。
軽く扉をノックしてみるが、返事は来ない。

「ミレイユ嬢。精霊様から話があったと思うが、迎えに上がりました」

「あなたが、酒盛り…のオジサンなの?」

「酒盛り、まぁそうなる」

扉の向こうから弱々しく小さな声で聞こえてきた。
イズミは精霊達が自分の事をどう認識し、どんな風に伝えているのかを問いただしたくなったが、今はこの娘の保護が先決である。

「精霊さんが教えてくれたの…【これから酒盛りのオジサンが連れ出してくれる。今迄みたいな生活は出来なくても、今よりは絶対に良い道が開けるから】って」

「頑張らせてもらうよ」

「パン…作っても良い?」

「勿論。サポートもするぞ」

「ドングルさんはなんて言ってた?」

「聞く前に黙っちまったな」

「…殺したの?」

「いや、殺しちゃいない。俺だって相手を選ぶんでね」

扉が開くと、ボサボサの髪の少女が姿を現した。

「私は、ミレイユ。オジサンの名前は?」

「イズミだ。よろしくな」

ミレイユの右手を優しく掴むと、彼女の足取りに合わせてゆっくりと店の入口へと向かう。

「お、大丈夫みたいで何より」

「待ってろって言ったのに」

何故か店の入口にはオリヴィアとベリアがいて、店の外には何人かが倒れているのが分かった。

「すまねぇ、此方は此方で面倒事に巻き込まれちまった」

ベリアが苦笑いをしながらイズミに事情を説明する。
どうやらイズミが店に入るのと同時に、マスタングの周囲を囲むように男達が8名程がやって来たそうだ。
ベリアは男達が武器を構えたのを確認してから、丁寧に相手をしてやったそうだ。

「だとしてもだ」

イズミは2人の名前は口に出すことなく、あっけらかんとしている2人を見つめる。
オリヴィアの隣にはイズミが痛めつけたドングルなる男の姿ともう1人完全に伸びている男がいて、ドングルの方は見ると先程よりもかなり痛めつけられているようだ。

「この男酷いんだよ!いきなり剣で斬りつけて来てさ!」

オリヴィアも察してか名前は口に出さないまま、嘘泣きのようなわざとらしい芝居をしてイズミの隣にやって来る。

「で、どうしたんだ?」

「剣をへし折って、何発かお返しを」

「へし折るってなぁ」

オリヴィアが指差す場所へ目をやると、見事に折れているロングソードの残骸があった。
規格外なオリヴィアの怪力に若干引きつつも、イズミはミレイユを連れて皆でマスタングの元へ戻るのだった。
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