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第二十八章 梅雨が明けるまで
第六百五話 案の定
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ミレイユをマスタングの後部座席に乗せると、イズミはのっそりと此方に近付いて来た男に視線を向ける。
「まっとくれ、私は敵じゃない」
両手を見えるようにしてから、武器を持っていない事をアピールして話始める。
「ミレイユちゃんを、どうするつもりで?」
「先ずは保護、次は回復、その後はお嬢ちゃん次第だ。手助けすると約束してるんでね、独り立ちする迄は責任を持って面倒を見るさ」
「この乱闘騒ぎは」
「此方が聞きたいね。俺は知り合いに頼まれたから、お嬢ちゃんの保護に来ただけでね」
「それにしては、相手の言い分を聞いてないらしいじゃないか」
男は店の女からも話を聞いているのか、イズミの対応に関して疑念を抱いているようだ。
「それはそうだ。俺が交わした約束に【相手の言い分を聞く】なんて項目は無いからな【保護して、手助けをする】これだけ」
「ならもう少し穏便に出来なかったのかね?」
「殺しちゃいないし手足も吹き飛ばしてない、俺にしては十分に穏便な方だと思うな。それに相手の方が先に武器を取り出してる訳で、正当な防衛理由になるだろう」
「しかしだな」
「例え俺の対応に問題があったとして、何故馬車置き場にて待機していた仲間に対して襲撃があったんだ?俺のところに来れば良いものを」
オリヴィアとベリアがマスタングに乗り込んだのを確認すると、イズミはメガネで周囲の索敵をしつつ会話を続ける。
「どうせ仲間を人質に取って、俺を黙らせたかったんだろうが…やましい事でも隠してるのか?」
「それはしっかりと調べるさ。アンタは誰から保護を頼まれたのか、それが知りたい」
「知る必要は無い」
「ミレイユちゃんは両親が死んだ時点で何処にも身寄りは無かった、頼まれたとしても両親の死はまだ村の者と報告をした一部の者しか知らぬ筈なのだ。梅雨明けに本人から話を聞く事になっていた」
男の話からすると報告自体はしているようだ、こちらとしては報告内容をベリアに調べてもらうしか確認方法は無いが。
イズミは説明が面倒になったので、口八丁で片付けにかかる。
「魔法ってのは便利でな、何かあったら魔石が割れるように仕掛けをしてたんだとさ」
「魔石?」
「3つあった魔石の内2つが砕けたから、緊急事態だと判断して俺に保護を依頼して来たんだ。誰かは教えられないぞ、守秘義務とやらを誓わされていて口外禁止だ」
「そんな事の出来る友人が居たとは思えないが」
「どう考えるのもアンタの勝手さ」
イズミは男に金貨の入った布袋を渡す。
「…この金で黙れと?」
「勘違いしないで欲しい、負傷した連中の治療代だ。余った金は村で有効活用してくれて構わない」
マスタングに乗り込んだイズミは、ゆっくりとアクセルを踏み込んで村から移動を始める。
「イズミ、この娘寝ちゃったわよ」
「余程疲れてたんだろうな…拠点に戻って起き次第ご飯に湯浴び、他は明日以降にしよう」
まだ日も傾いていない時間帯の道を、マスタングは颯爽と駆け抜けてゆく。
「イズミよ、頼むからもう少し冒険者ギルドと連携をしてくれんか?」
ヒュミトールに戻ったイズミは、事後報告にはなるがベリアに少女の保護の件を冒険者ギルドに伝えて貰ったのだ。
案の定と言うべきだろうか、直ぐにイズミは呼び出しをくらいベリアと共に冒険者ギルド長であるレオンチーノと話し込む羽目になっているのである。
「そうは仰っしゃりますがね。私は冒険者ギルドに登録しておりませんし、保護の話も私個人に来たんで個人で対応していたんです。ベリアも当初は子供の保護自体には関与しておらず、奴さんが攻撃を仕掛けて来たもんでやむを得ず対応をしたって経緯なんですよ。まぁ、ベリアには子供を保護するってのは事前に報告と相談はしましたけど」
「その報告と相談の段階で冒険者ギルドに一声かけてくれれば、我々でも保護に関する資料の作成や令状の提示及び保護を実施出来るんだ。アンタが誘拐まがいの保護や乱闘騒ぎをせずに済んだかもしれんのだよ」
「冒険者ギルドが絡むと如何せん初動が遅い、現状の把握や資料の確認とかの事務作業で何日消費するか分かったもんじゃない。最速最短で保護をするなら単独行動に限る。思い立ったが吉日ってやつです」
イズミの独特な持論にレオンチーノは頭を抱える。
「よく分からんが、最速最短で保護する緊急性は何処にあるのか」
「身売りの可能性です。パン屋は半ば強引に買収されている事は確認出来てるかと」
「正当な手続きだ」
「ではあの娘に何かしらの権利は?成人後にパン屋を譲渡するとか」
「特には無いな。成人していないと店の経営権等は継ぐ事は出来ず、継ぐ者がいなければ速やかに廃業手続きとなる。あの夫婦がパン屋を継ぐ手続きをしたから、パン屋として営業が出来ている」
「ほう…しかし少女の両手からは極短期間で全てが失われた訳だ」
「そう言う話でも無い。あの夫婦が子供を引き取り、将来的にパン屋を譲渡する計画だったらどうする?」
「それこそ甘い考えだ…件の娘さんの様子、見てみるかい?」
イズミはマスタングにて眠っているミレイユの元へギルド長を連れてゆく。
百聞は一見にしかず、その目で見てもらった方が手っ取り早い。
「私が保護した時点でこうでした…手続きは正当でも、その後は見ていないようで」
痩せこけて消耗し尽くしたような少女の姿を見て、レオンチーノは言葉に詰まった。
「夫婦から相談はあったのか?引き取った子供が食事を取ってくれないとか、塞ぎ込んでしまって部屋から出て来ないとか」
「…報告は無いな。急に環境が変わったんだ、暫くはそっとしておいたのだろう」
「相談の一つくらいあっても良いと思いますがね、その辺はあの村の人達に聞き込みをすれば何かしら分かる事でしょう」
イズミはベリアにマスタングへ乗るように促すと、レオンチーノとの話を切り上げる。
「そうだ…奴さんがまた騒ぐようならこう伝えて下さい【余り騒ぐと、次はもっと酷い事になるぞ】と」
イズミの言葉を聞いたレオンチーノはそこ無表情と冷え切った目つきに、今迄に感じた事のない恐怖を示唆した。
殺すとは明言せずとも、その意思が明確にあるように思えたのだ。
「おいおい、脅しは良くない。血の気が多いと敵を増やすだけで利は無い」
「ご忠告は大変ありがたく受け取らせて頂きます」
「最後に確認させて欲しいのだが、誰にその娘の保護を頼まれたんだ?」
レオンチーノは冷静さを保ちつつ、ハッキリとした口調でイズミに尋ねる。
分からない事が多過ぎるのだ。
イズミが何時少女の存在を知り、何処で少女の現状を把握して保護が必要だと判断し、下手したら犯罪者として手配されかねない誘拐まがいの突発的な行動を起こしたのか。
何度かイズミとやりとりをした事があるレオンチーノだが、その理由たる物が見つけられず何一つ納得が出来ていなかった。
イズミは少し考え込むと、一度ミレイユの方を見てから答えた。
「どうせ信じないと思うが…人じゃない」
これ以上は何も言わずにマスタングに乗り込むと、イズミはグラテミアの屋敷へと移動を始める。
馬車置き場に残されたレオンチーノは、イズミの回答をポツリと呟いた。
「人…じゃない?」
人から頼まれた訳では無いなら、一体何者からなのか。
謎が深まるばかりだが、レオンチーノは軽く頭を振ると冒険者ギルドの執務室へ戻るのだった。
「まっとくれ、私は敵じゃない」
両手を見えるようにしてから、武器を持っていない事をアピールして話始める。
「ミレイユちゃんを、どうするつもりで?」
「先ずは保護、次は回復、その後はお嬢ちゃん次第だ。手助けすると約束してるんでね、独り立ちする迄は責任を持って面倒を見るさ」
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「此方が聞きたいね。俺は知り合いに頼まれたから、お嬢ちゃんの保護に来ただけでね」
「それにしては、相手の言い分を聞いてないらしいじゃないか」
男は店の女からも話を聞いているのか、イズミの対応に関して疑念を抱いているようだ。
「それはそうだ。俺が交わした約束に【相手の言い分を聞く】なんて項目は無いからな【保護して、手助けをする】これだけ」
「ならもう少し穏便に出来なかったのかね?」
「殺しちゃいないし手足も吹き飛ばしてない、俺にしては十分に穏便な方だと思うな。それに相手の方が先に武器を取り出してる訳で、正当な防衛理由になるだろう」
「しかしだな」
「例え俺の対応に問題があったとして、何故馬車置き場にて待機していた仲間に対して襲撃があったんだ?俺のところに来れば良いものを」
オリヴィアとベリアがマスタングに乗り込んだのを確認すると、イズミはメガネで周囲の索敵をしつつ会話を続ける。
「どうせ仲間を人質に取って、俺を黙らせたかったんだろうが…やましい事でも隠してるのか?」
「それはしっかりと調べるさ。アンタは誰から保護を頼まれたのか、それが知りたい」
「知る必要は無い」
「ミレイユちゃんは両親が死んだ時点で何処にも身寄りは無かった、頼まれたとしても両親の死はまだ村の者と報告をした一部の者しか知らぬ筈なのだ。梅雨明けに本人から話を聞く事になっていた」
男の話からすると報告自体はしているようだ、こちらとしては報告内容をベリアに調べてもらうしか確認方法は無いが。
イズミは説明が面倒になったので、口八丁で片付けにかかる。
「魔法ってのは便利でな、何かあったら魔石が割れるように仕掛けをしてたんだとさ」
「魔石?」
「3つあった魔石の内2つが砕けたから、緊急事態だと判断して俺に保護を依頼して来たんだ。誰かは教えられないぞ、守秘義務とやらを誓わされていて口外禁止だ」
「そんな事の出来る友人が居たとは思えないが」
「どう考えるのもアンタの勝手さ」
イズミは男に金貨の入った布袋を渡す。
「…この金で黙れと?」
「勘違いしないで欲しい、負傷した連中の治療代だ。余った金は村で有効活用してくれて構わない」
マスタングに乗り込んだイズミは、ゆっくりとアクセルを踏み込んで村から移動を始める。
「イズミ、この娘寝ちゃったわよ」
「余程疲れてたんだろうな…拠点に戻って起き次第ご飯に湯浴び、他は明日以降にしよう」
まだ日も傾いていない時間帯の道を、マスタングは颯爽と駆け抜けてゆく。
「イズミよ、頼むからもう少し冒険者ギルドと連携をしてくれんか?」
ヒュミトールに戻ったイズミは、事後報告にはなるがベリアに少女の保護の件を冒険者ギルドに伝えて貰ったのだ。
案の定と言うべきだろうか、直ぐにイズミは呼び出しをくらいベリアと共に冒険者ギルド長であるレオンチーノと話し込む羽目になっているのである。
「そうは仰っしゃりますがね。私は冒険者ギルドに登録しておりませんし、保護の話も私個人に来たんで個人で対応していたんです。ベリアも当初は子供の保護自体には関与しておらず、奴さんが攻撃を仕掛けて来たもんでやむを得ず対応をしたって経緯なんですよ。まぁ、ベリアには子供を保護するってのは事前に報告と相談はしましたけど」
「その報告と相談の段階で冒険者ギルドに一声かけてくれれば、我々でも保護に関する資料の作成や令状の提示及び保護を実施出来るんだ。アンタが誘拐まがいの保護や乱闘騒ぎをせずに済んだかもしれんのだよ」
「冒険者ギルドが絡むと如何せん初動が遅い、現状の把握や資料の確認とかの事務作業で何日消費するか分かったもんじゃない。最速最短で保護をするなら単独行動に限る。思い立ったが吉日ってやつです」
イズミの独特な持論にレオンチーノは頭を抱える。
「よく分からんが、最速最短で保護する緊急性は何処にあるのか」
「身売りの可能性です。パン屋は半ば強引に買収されている事は確認出来てるかと」
「正当な手続きだ」
「ではあの娘に何かしらの権利は?成人後にパン屋を譲渡するとか」
「特には無いな。成人していないと店の経営権等は継ぐ事は出来ず、継ぐ者がいなければ速やかに廃業手続きとなる。あの夫婦がパン屋を継ぐ手続きをしたから、パン屋として営業が出来ている」
「ほう…しかし少女の両手からは極短期間で全てが失われた訳だ」
「そう言う話でも無い。あの夫婦が子供を引き取り、将来的にパン屋を譲渡する計画だったらどうする?」
「それこそ甘い考えだ…件の娘さんの様子、見てみるかい?」
イズミはマスタングにて眠っているミレイユの元へギルド長を連れてゆく。
百聞は一見にしかず、その目で見てもらった方が手っ取り早い。
「私が保護した時点でこうでした…手続きは正当でも、その後は見ていないようで」
痩せこけて消耗し尽くしたような少女の姿を見て、レオンチーノは言葉に詰まった。
「夫婦から相談はあったのか?引き取った子供が食事を取ってくれないとか、塞ぎ込んでしまって部屋から出て来ないとか」
「…報告は無いな。急に環境が変わったんだ、暫くはそっとしておいたのだろう」
「相談の一つくらいあっても良いと思いますがね、その辺はあの村の人達に聞き込みをすれば何かしら分かる事でしょう」
イズミはベリアにマスタングへ乗るように促すと、レオンチーノとの話を切り上げる。
「そうだ…奴さんがまた騒ぐようならこう伝えて下さい【余り騒ぐと、次はもっと酷い事になるぞ】と」
イズミの言葉を聞いたレオンチーノはそこ無表情と冷え切った目つきに、今迄に感じた事のない恐怖を示唆した。
殺すとは明言せずとも、その意思が明確にあるように思えたのだ。
「おいおい、脅しは良くない。血の気が多いと敵を増やすだけで利は無い」
「ご忠告は大変ありがたく受け取らせて頂きます」
「最後に確認させて欲しいのだが、誰にその娘の保護を頼まれたんだ?」
レオンチーノは冷静さを保ちつつ、ハッキリとした口調でイズミに尋ねる。
分からない事が多過ぎるのだ。
イズミが何時少女の存在を知り、何処で少女の現状を把握して保護が必要だと判断し、下手したら犯罪者として手配されかねない誘拐まがいの突発的な行動を起こしたのか。
何度かイズミとやりとりをした事があるレオンチーノだが、その理由たる物が見つけられず何一つ納得が出来ていなかった。
イズミは少し考え込むと、一度ミレイユの方を見てから答えた。
「どうせ信じないと思うが…人じゃない」
これ以上は何も言わずにマスタングに乗り込むと、イズミはグラテミアの屋敷へと移動を始める。
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※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
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