異世界無宿

ゆきねる

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第一章 異世界転移

第九話 現実

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長老の案内で部屋に入ると、俺とアーリアは椅子に座って話を始める。

事の経緯や帝国軍兵士といざこざ、魔物の森に来た理由等をざっくりと。

武器の事については、長老に1つ渡した事以外は説明した。

なにか言いたげな表情をしていたが、俺は一通りの説明を済ませた。

説明を終えた所で、アーリアが立ち上がる。

「話は大体掴めたわ。気になる点はあるけど、今のところは良いわ。じゃ、魔術検査を始めるわ」

そう言って両手を俺に向けて呪文を唱える。

俺の足元に魔法陣が現れ、それが上下する。
調査というよりは、検査に近い気がする。

5分くらいだろうか、魔法陣が消えるの確認した所でアーリアが微笑む。

「終わったわ。貴方、ちょっと面白いわね」

そう言って結果を教えてくれた。

結論から言うと、俺は魔法を使えないタイプの人間だが、魔力は持っているのだそうだ。

その魔力だが、魔法を使えないのに消費している。
その理由が、俺の車…アーティファクトとの関係性にあるらしい。


俺は魔力は持っているが、魔法は全く使えない普通の人間。

そう改めて言われると、少々辛いものがある。
車が無いと、単なるデクの棒かも知れない。

そんなちょっとした現実に苦笑いをするしかない。


「アーティファクトと契約する事を強くお勧めするわ」

アーリアが真顔で話す。

「アーティファクトとの契約は重要よ。他者の悪用を防いだり、魂を持つアーティファクトであれば、装備なしでも会話が出来たりするの。もちろん、代償と言うか対価は必要だけど。」

アーリアは椅子に座り直し、契約の方法を簡単に説明する。

「アーティファクトに名前を付ける、そして、魔力の共有をするの。最後に…魂の契約」

魂の契約…それは大まかに2種類存在するらしい。

1つは、融合。
この契約は魂の融合の方が正しいらしい。
人間で例えると、2人の魂を融合して1つの魂となる事で、2人とも強力な力を得たりするが、片方が死ぬともう片方も同時に死ぬらしい。
かなり過激な契約だ。

もう1つが、専有
これは対象を契約者専用とする契約方式らしい。
例えるならば、車の持つ全ての能力を契約者専用にする…そんな感じか?
対価は、魂の一部と魔力になる事が多いそうだ。

俺の場合は、後者になる。

話を聞き終えた俺は、車へ向かうとアーリアに伝える。
椅子の横に置いていたラムネの瓶をテーブルに置き直して部屋をでる。


車の運転席に座って少し寛いでいると、聞き慣れた音が聞こえてきた。
スマホの着信音だ。

慌ててスマホを取り出すと、相手先の記載は無かった。
それどころか、圏外のままだ。

「…その世界はどうかしら?楽しんでる?」

電話を取ると、少し高圧的な女性の声が聞こえてきた。

状況を上手く飲み込めない事を話す。

「そうか…これは私の道楽の1つなの。私の道楽で貴方をこちらの世界に転移させただけの事」

さらっととんでもないカミングアウトだ。
電話の相手が、この混乱の犯人とは…

「そんなさらっと出来るものなのか?俺は帰れるのか?!」

矢継ぎ早に聞いてしまった。
聞かずにはいられない質問だった。

「私の力ならば雑作もない。」

電話先の女は上機嫌で話を続けた。

「だが…元の世界には帰さぬ。帰す訳が無かろう」

軽く拒否された。
元いた世界の俺の日常は、よく分からぬ女に破壊されてしまったのだ。

帰れない。

その現実を突き付けられて、俺はしばらく呆然としていた。

「死のうとなど考えるな。そんな事をしたら、私が死ぬ直前に何度でも時間を巻き戻してやる」

なんてチートだ。
時間を操る事まで出来るとは。
しかも、俺の自殺すら許さない理不尽ぶりだ。

「私は、私が選んだ人間が異世界でどう生きて、どう死んでゆくのかを見るのが楽しみなの」

俺はこの女の道楽に巻き込まれたのか。

「以前転移させた男などつまらなかったわ。元いた世界に帰りたいと叫び散らかし、最後は魔獣に食われてしまったわ」

女は退屈そうに語る。

「その点、貴方は楽しめているわ。教えてもいないのに武器を実体化させて反撃はするし、その車で逃走劇まで見せてくれたし」

…全部見られていたのか。

「私を楽しませてくれれば、それで良いのよ」

私を楽しませて頂戴。と愉快そうに笑う。
俺は少し気になる事があったので質問をする事にした。

質問もしても良いか尋ねると、あっさり許可された。

「元いた世界に戻れないのは分かった。では、両親や職場や友人達は俺の転移で影響は無いのか?」

理解はしたが納得はしていない皮肉を込めた前文を言ってから、聞いてみた。

「何も問題は無いわ。貴方が転移した瞬間、貴方が転移していない平行世界に切り替えたから」

何でもありのチート女…これが傍若無人ってやつなのか?

まるで神様だな。
そんな言葉が溢れた。

するとスマホ越しに笑い声が聞こえてきた。

「そんな所よ」

…マジかよ。
俺は真偽はともかく、神様と話をしていたのか!

「そんな私の事を皆、創造の女神リリアと読んでいるわ」

創造の女神、リリア…
では、リリア様と呼ぶ事にしよう。
呼ぶ機会は無いだろうが。

「それじゃ、私を楽しませてね♪」

そう言って電話を切ろうとしたリリア様だったが

「…それはそうと貴方、面白い物を右手に着けてるわね。私が惚れた人間も、それと瓜二つの物を着けていたのだけれど」

思わず右手に着けている腕時計を見た。
スクエアタイプのクロノグラフ腕時計。
俺が『世界で1番格好良い男』だと思っている俳優が、ある映画の劇中で着用した腕時計の復刻版だ。
少し前に東京へ行った際に、偶然見かけた質屋に出ており、衝動的に購入した物だ。

これは腕時計と言って、あの世界の人間が時を計る物として作り上げた機械だ。

そう説明した。
この説明に納得したのか、

「時を計るだけの機械?…そんな代物を作り上げるとは…やはり人間は面白い。」

そうか。あの男は、その機械を使って…

小さく笑った声がした。
少し間を置いて。

「教えてくれてありがとう、達者でな。精々私を楽しませなさい」

電話が切れてしまった。


…俺はグローブボックスにスマホを仕舞い、静かに天を仰いだ。
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