異世界無宿

ゆきねる

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第八章 王都での日々

第百三話 生きた心地がしない

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メイドの後を付いて行った結果、到着したのは白を基調とした3階建ての建物だった。
入ると内装は木の温もりを感じる、落ち着いた喫茶店と言った雰囲気である。

奥のと案内されたので素直に進むと、畳で例えるならば8畳程度の個室があった。

「武器をお持ちでしたら、此方でお預かりさせて頂きます」

メイドがそう言って丸いトレーを持って来たので、買い替えたばかりのナイフをゆっくりとメイドへ渡した。

「まだお持ちですね?…左肩が下がった姿勢なのは、短剣を隠しているとかではありませんか?」

観察眼の良いメイドのようだ。
しかし、マグナムだけは他者の手に渡す事は出来ない。

「コイツは何があっても他人に預けられないな…それが駄目ならば、申し訳ないが私はこれで失礼する」

「少々お待ち下さいませ」

メイドは慌てる事も無く淡々と確認に向かったので、イズミは静かにため息をついた。

「お待たせ致しました。その武器はお持ちのままで構いません」

ランドール然り、このメイドの主人然り、武器を持っていても良いと判断出来るのは何故なのだろうか?
イズミは疑問に思いつつ個室へと入った。

個室に居たメイドの主人は、宝飾店のような店から出て来た車椅子の女性だった。

「失礼いたします」

車椅子に座る女性が椅子に手を差し出したのを見てから、イズミは椅子に座り込んだ。
座面にも背もたれにもクッションが付いており、座り心地がよい椅子だった。

「突然このようにお呼びしてしまい、申し訳ありません」

車椅子に座った女性が開口一番に謝罪をして来たので、イズミは調子が狂ってしまった。

「いえいえ、私に関してはお気になさらず」

そう前置きをしてから、自己紹介をしておいた。

「私はイズミと申します。理由も無く気の向くままに旅をしている無宿人です」

そう言ってビジネススタイルを作った。

「これはご丁寧にありがとうございます。私はエレナ・ブロズムナードと申しますわ」

気軽にエレナと呼んで下さいと言われたものの、初対面でそう呼べる強心臓では無いので、エレナ様と呼ぶ事にした。

肩甲骨ほどまで伸びている黄金色の髪、吸い込まれるような夜の海を感じる蒼い目、身体は透明感のある白さで細く華奢であるが不健康そうには見えなかった。

「それでエレナ様、何故私を呼んだのですか?」

「それは…王都でも滅多に見ない黒髪に見慣れない服装で、冒険者通りから現れたのに武器を持っていないように見えましたし…」

少し間をおいて言葉を続けた。

「私に会釈をしてくれる方は、久し振りでしたので」

そう言ったエレナの声は、何処か寂しげに聞こえた。

「そうだ!紅茶を用意しましたの。一緒に飲みましょう」

声色が戻ったエレナがメイドを呼ぶと、紅茶と菓子がテーブルの上に置かれた。

「このお店の紅茶は、凄く美味しいのですよ」

そう言って紅茶を飲むエレナは、綺麗な笑顔で話を続けた。

「それで、イズミ様はどの様に旅をしていらっしゃるの?」

「…私は縁あってアーティファクトを所有しておりまして、そのアーティファクトで旅をしております」

なので荷物はある程度積めるから、そこそこの旅が出来るのだと説明した。

「旅のお話を聞かせて戴けないでしょうか?」

紅茶や菓子を楽しみながら話せる様な、そんな旅路だったかと思い返してみたものの、行く先ざきで戦ってばかりな記憶しか無かった。

賊の馬車を襲撃したり、冒険者パーティーと強力して賊を迎え討ったり、村を乗っ取って大きなヤマを踏もうとした賊を壊滅させたり、アホな貴族の坊やを連れてゴブリンの巣を掃除したり…

魔族と会った話はしにくいのでパスだ。

貴族だろう女性とのお茶会?では話しにくい旅路であると、イズミ自身が自信を持って言える物であった。

「楽しい話は少ないですよ?」

「それでも構いませんわ。私は…」

エレナから一瞬表情が消えると、下を向いて自らの足を見る。
その後しっかりと笑顔を作ってから話を続けた。

「旅も冒険も、出来ませんから」
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