異世界無宿

ゆきねる

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第九章 海を目指して

第百十九話 怒るアーリア

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灰色の雲が空を覆っている。
雷の気配は無いが、もうすぐ雨が降りそうな匂いがする。

イズミは海へ向かう道中で通過予定だった町にて、大事を取って休憩をする事にした。

悪天候での移動が何かと大変なのは、誰もが分かる事だろう。

マスタングを近くに駐車出来る宿屋に入ると、4~5日程宿泊する予定で話をして宿代を先払いした。

手続きを済ませたイズミは、昨晩の出来事をどう捉えるのかを確認する為に、魔法通信をアーリアに繋いだ。

「アーリア?イズミだ。時間がある時で良いのだが…聞いて欲しい話がある」

そんなメッセージを送ったら、10分後に転移魔法でやって来た。

まず何時もの挨拶がてら、マスタングでラムネを実体化させてアーリアに渡した。

「ありがと。で、話って何?」

「ああ。昨晩の事なんだが」


イズミは昨晩の出来事をある程度簡潔に説明した。

マスタングが判別出来ない魔法反応を検知した事。
その場所を調べても、誰も居なければ何も気になる物も無かった事。

なんとなくお供え物をしてみた事。
翌朝にはお供え物が綺麗に無くなっていた事。

最後に、紫色の石がその場に残っていた事。


「そうね…その場所を見ないと何ともだけど、話を聞く限りではゴーストの類いだと思うわ」

「アーリアもそう思うか」

2人してマスタングに寄りかかりつつ話混んでしまった。

「マスタング、話は大体こんな感じだったよな?」

「はい。問題ありません」

マスタングにも昨晩の話の説明に差異が無いかを確認した。

「でも不思議な話ね。ゴーストでも何でも、食事のお礼をするなんて聞いた事が無いわよ」

アーリアがラムネを飲みながら話を続ける。

「そもそも、原因不明な魔法反応に対してお供え物をするって発想に至るのが凄いわね。大体の冒険者なら逃げるか攻撃魔法で何かしらやらかすわね」

「冒険者なら、しっかりと調査をして欲しいものだが」

何を供えたのかを聞かれたので、詳細に答える。

「黒パンにベリーのジャムをしっかり塗ったのと、厚切りのベーコンと、水とコーンポタージュだ」

「旅の食事ではかなり豪勢ね…ベリーのジャムって、最近王都で流行ってるやつ?」

アーリアの食いつきはそっちだったか。
イズミは自分がある冒険者にレシピを口伝したとだけ教えておいた。

「やっぱりね…私の知っている貴族達もベリーのジャムが流行ってるわ」

「そうなのか。元々は戦闘後に甘いのが食べたいってのから、マスタングに頼んで実体化させたのがキッカケだな」

イズミはベリーのジャムを1つ実体化させて、アーリアへ手渡した。

「そうだ…魔石化した頭蓋骨の鑑定依頼とかあったか?」

「あれもイズミが関わってるの?あんな代物何処で手に入れたのよ!私じゃないけど鑑定を引き受けた子が気絶したりで大変だったんだから」

「…色々とすまない」

最近発見されたダンジョンにてサイクロプスを倒した時に入手したと説明をした所で、イズミは両肩をアーリアに掴まれた。

「イズミ…貴方、冒険者よりも冒険し過ぎよ」

アーリアは呆れた顔でマスタングのルーフに置いていたラムネを飲み干した。

「王都で色々やらかしたのは聞いてるけど、私はノータッチにしておくわね」

「それで頼む。王都では大変だったんだ…マスタングが張り切ってな、俺は何度も死にかけた」

遠い目をするイズミを、アーリアは睨みつけた。
魔術師協会では、下半身不随の貴族を治したと言う話で賑わっているからだ。

アーリアは大きなため息をつくと、イズミに対して現状を説明した。

「貴方は今、多方面から追われてるわ」

冒険者ギルドへと渡ったサイクロプスの頭蓋骨は、その希少性から王族を含む貴族達の間で話題になっている。

王都で長らく下半身不随の治療をしていた貴族が治ったとの話は、その真偽を含めて謎が多かった為に王家からの調査も入っている。

その両方に関係している人物として、自らを旅人や無宿人と自称するイズミと言う男が浮上するのだ。

「王家や貴族達、冒険者ギルドが貴方を調べ、追いかけてる」

「カレンは無事か?」

「それは問題無いと思うわ。もう冒険者ギルドからの聴取も終わってる筈よ」

カレンを故郷に帰したまでは良かったが、思わぬ置き土産があったかとイズミは反省した。

「じゃ、私は戻るわね」

そう言ってアーリアが転移魔法で帰ってしまった。

紫色の石の鑑定を依頼する事を失念していたイズミだったが、流石に呼び戻すのも悪いと思って止めた。
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