異世界無宿

ゆきねる

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第十二章 辺境伯領にて

閑話 美酒は種族の壁をも越える

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エレナは今日の勉強を終えて身体を休めていたら、ふとイズミから貰った酒の瓶が目に入った。

飲める歳にはなったが飲もうと思った事も無いし、足の病で社交界デビューをしていなかったので飲む機会も無かったのだ。

ガラス製のグラスに少しだけ注ぎ、その香りを嗅いでみた。

「お酒って、良い香りがするのですね」

人生で最初に飲む酒が、マスタングが人知れず総力を注いで作り上げた逸品とは知らずに、一口飲んだ。

「なんと爽やかな味わいなのでしょうか…」

「何を飲んでいるのだ?」

エレナが美酒を堪能していると、ジーヴルが姿を現した。
テーブルにある別のグラスに酒を注ぐ。

「ジーヴル様、こちらはイズミさんから頂いたお酒です」

「イズミ?あぁ、あのアーティファクトの持ち主か」

ジーヴルはエレナからグラスを受け取ると、ゆっくりと口に含んだ。

「これは!なんと美味なのだ…初めて飲む酒だが、素晴らしい。食事の前に飲むのが良いだろうな」

あっと言う間に飲みきってしまったジーヴルは、名残惜しそうにグラスに残る最後の一滴まで飲んでいた。

「エレナよ、お主は酒に関しては不幸かもしれぬ…ここまで美味な酒を知ってしまったら、もう舞踏会や貴族の食事会で出される酒では満足出来ぬぞ。食後に合う酒なら話は少し変わるが」

「そんなにも美味なのですね。私達でも作れるのでしょうか?」

エレナはジーヴルが持つグラスに、酒を注ぎながら尋ねた。

「ありがとう…少しだけ分けて同胞に調べさせよう」

ジーヴルは小さなグラスを実体化させると、調査用としてそこに酒を少しだけ分け入れた。

「うむ…これ程に美味ならば、祈りの儀式でこの酒を奉納すれば女神達も喜んで聞き入れるかもしれん」

「本当ですか!?」

エレナはつい、驚きの声を上げてしまった。

この世界は科学よりも魔法が発展している。
土の養分が足りないならば土魔法で補ったりするが、神官を呼んで大地の女神に祈りを捧げて貰うのが通例なのである。

雨が降らないのも同様に、神官を呼んで水の女神に祈りを捧げるのだ。

この祈りを捧げる儀式では様々な供物を準備するのだが、どのような供物だと良いのかは神官ですら詳しくは分かっていないのである。

「うむ。女神達にも甘味や酒は嗜む者は居るからな…貴族でも居るだろう?特別な物や希少品を好む者が」

ジーヴルがグラスをテーブルに置き、エレナへ説明する。
手土産に領地の特産品や希少品を求める、そんな貴族が居る事を知っているのだ。

「それならば、是非ともこのお酒を作れるようにしないといけませんね」

エレナはジーヴルが美味しそうに飲む姿を見て、このお酒を作る環境を整える事が急務だと悟った。

もしかしたら、イズミはそこまで考えてこのお酒を渡して来たのかもしれない。
エレナはそんな事を考えていた。

「作ってくれるならば、我等も協力するぞ」

ジーヴルは素早く協力を約束した。
自分が飲める分だけではなく、同胞にもこの酒の美味しさを知って欲しいと思ったのだ。

「まずはこのお酒に使われている素材と、生産地の特定ですね」

エレナは決心した。
氷魔法を極めると共に、氷の精霊ですら認める美酒の製造の実現を。

これは自分に与えられた天命であり、ブロズムナード家の領地を超え、王国の繁栄に必須な代物だと確信した。

課題は多々あるが、絶対に達成しなければならない。
エレナは羊皮紙を取り出すと、羽根ペンで今後の計画を書き始める。

「まずお父様に話をしなければなりませんね。次に材料と産地の特定が出来る識者を探して…」

「材料は同胞ならば特定出来るだろうから、エレナは生産地を調べる準備をしてくれ」

「分かりましたわ。それから…」

イズミもマスタングも、アーリアも知らない所で、この美酒の製造計画は始動したのである。
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