異世界無宿

ゆきねる

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第十五章 ハルハンディア共和国

第二百九話 ジントニック

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悩むトレットを横目に、イズミはグラテミアに他言無用を条件にショルダーバッグから瓶を2つ取り出した。

「出所は言えないのですがね」

イズミが取り出した瓶を見たトレットの目がキラキラと輝く。
それを見逃さなかったグラテミアが、そっと瓶の蓋を抜いて香りを確かめる。

「あら、この香りは」

グラテミアが持っているのはトニックウォーターの瓶だ。

「何かご存知で?」

「流行病に効くとかで、薬に使われていた物に似ています。かなり昔の話ですが、苦くて子供は飲みたがらなかったのですよ」

従者に持ってこさせたグラスに少しだけ注ぐと、上品に口へ運ぶ。

「…間違い無いわね。コレがトレットのお熱な物なのかしら?」

「それは、隣の瓶の酒と混ぜて使います」

酒瓶を手に取り香りを確かめるグラテミアだったが、一瞬で目つきが変わった。

「…ドワーフ酒ではありませんね?」

「はい。それ以上の説明は大変難しいのですが」

グラスに注ぎジンを飲むグラテミアだったが、流石にどのボタニカルが入っているのかの特定は出来なかったようだ。

「香草のような香りの中に華やかさがあり、酒精も強いながら飲みやすさもある。ドワーフ酒の1級品とも遜色の無い、良いお酒ですね。特級品と言われても納得する者も居るでしょう」

トレットの視線が酒を追っているのが分かる。
振る舞った日以外は、ジントニックを作っていなかったのもあるだろうが、そこまで執着するのだろうか。

「このお酒に混ぜるのですね?」

「そうです…グラスと氷はありますか」

トレットの目が更に輝きを増しているのが分かるので、2人分のグラスを用意してもらう。

まだ慣れた動作とまではいかないが、ジントニックを作り2人に渡す。

「ありがとうございます!」

トレットはジントニックを受け取ると、直ぐに一口飲んで息をついた。

「この味わいと程良い酒の強さが好いのです」

「成程、この様な飲み方は新しいですね」

トレットは勿論だが、グラテミアの口にも合ったようだ。

「この2つは商品として売っているのですか?」

「その予定はありません。なにせ出所の説明が難しいもので…しかし、同じような商品を作るのでしたら問題は無いかと」

グラテミアはそれを聞くと、トニックウォーターの瓶を手に取った。

「それでしたら、こちらの飲み物は我々で製造しても問題は無いと?」

「はい、寧ろどんどん製造生産して頂きたいですね。私はそれをトニックウォーターと呼んでいます」

イズミとしてはマスタングに実体化を頼むよりも、この世界で作られた物を味わう方が良い。

マスタングの負担を軽減する意味もあるが、折角の異世界の旅路なので異世界の飲食物に触れたいのが正直なところである。

「トニック…ウォーターですか。薬師を呼んで調べさせましょう」

そこからのグラテミアの動きは迅速であった。

その日はお開きとなり屋敷にて部屋を割り当てられ、イズミ達はグッスリと眠らせてもらった。
翌朝マスタングの隣でコーヒーを作っていたら、グラテミアから呼び出しがあった。


魔族の情報網は凄まじく、夕方に薬師を呼び出してトニックウォーターを試飲させ原材料を一部特定し、翌朝には腕利きの薬師が調合した試作品をグラテミアに持って来ていたのだ。

試作品をイズミ達も試飲したが、それはマスタングが実体化させたトニックウォーターよりも苦味や柑橘系の酸味が際立ち、何より微炭酸だったのだ。
出来立てのトニックウォーターだからかもしれないが。

「この炭酸は?」

「我々もドワーフ族やエルフ族と同様に、研究熱心と言う事ですよ」

薬師が笑顔で答えてくれたが、その背後にどれだけの苦労があったのかは分からない。

「薬師よ。コレの量産は出来るか?」

「規模にもよりますな」

「先ずは小規模で良い。ドワーフ酒との相性や商品としての価値と需要の有無を、先ずは1年かけて調べます」

「御意に」

あっという間に決まってゆくので、イズミは表情には出さなかったが呆然としつつ、その光景をみていた。
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