異世界無宿

ゆきねる

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第二十四章 暴走を止めろ

第四百三十七話 飲み屋にて

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オブリビアから脱出したイズミ達はオブリンドへ向かう途中で一度マスタングを停め、魔物達が追ってきていないかを確かめる。

「…魔物の臭いは薄っすらとするけど、近くには居ないな」

「マスター、反応はありません」

ベリアの嗅覚のマスタングの索敵の二重確認が出来たので、問題無しと判断してオブリビアへと移動を再開する。

「夜になっちまったが、宿は取れるもんなのか?」

「何とも言えないな」

オブリンドの村に到着はしたものの、大きな町とは違い静かなものである。
通りを通過するのも近所迷惑なきがしたので、村の入口付近にある馬車置き場にマスタングを駐車した。
2人が降りて外の空気を吸って緊張を解していると、ランタンを持った男に声をかけられた。

「あんたら、夜帰りかい?」

「そんな所だ」

「変な臭いがするけど、魔物退治でもして来たのか?」

「オブリビアで幾匹かに出くわしてね」

「そりゃ大変だったな、飲み屋はまだ営業中だよ。オブリビア調査で人が来てるから、通りを歩けば直ぐに分かるよ」

男は既に酔っ払っているのか、イズミ達を飲み屋への案内はせずに帰っていった。

「…取り敢えず飲み屋に行くか」

「だな。イズミはその服は脱いだ方が良いな…魔物の腐敗臭が染み付いてる」

「ケルベロスの口に入ってたからな…仕方無い」

ジャケットを脱いでトランクに収納すると、ホルスターとマグナムをショルダーバッグに収納して飲み屋のある通りへ歩き出した。

「飲み屋ねぇ。イズミと居ると美味い酒美味い菓子のコンビネーションで舌が肥えちまってなぁ」

「それに関しては何も言えないな」

既にベリーのジャムはある冒険者パーティーにレシピを伝えた結果、ジェヴェドール王国で大人気だと言うし、チーズケーキや美容クリームはラミア族として商売に活用すべく動いているのだから。

飲み屋に入ると客として村人や冒険者、光の教会の関係者も居るようだ。

「イズミ殿、無事に戻られたようで何より」

装備を外したヴィラードだった。
顔色や呂律からして飲んではいないようであり、単に夕食目的で入店したのかもしれない。

「何かあれば直ぐに戻ると言ってたしな。夜のオブリビアは危険なのは、冒険者ギルドでベリアが聞いてるし」

「魔物でも出たのか?」

「一応な」

イズミとベリアは店員の案内でテーブル席に座ると酒とツマミを注文し、念の為に持ち込みの酒を飲んでも良いのか事前に確認をしておく。

「持ち込みの酒ですか?飲んでも大丈夫ですが、他のお客さんから強請られても責任は取れませんよ」

「それは承知の上です、どうもありがとう」

笑顔で答えてくれた店員にチップ代わりの銀貨10枚を握らせると、さらにニコニコな笑顔で店の奥へ戻ってゆく。

「どんな魔物だった?」

「グール化したゴブリンにオーク、大型化したのもいたよ」

「グール…厄介だな」

「教会も冒険者パーティーも、完全武装で備えた方が身のためだぞ。至る所に汚れた魔石が転がってる」

イズミの簡単な報告を聞いたヴィラードの表情が険しいものに変わる。

「これは予想だが、オブリビアのダンジョンはグールやアンデッド類の魔物がメインになっている。そして汚れた魔石はダンジョンの魔物達をダンジョン外に出現させる役割をしているように思う」

「根拠は?」

「何で俺達がオブリビアから撤退して来たと思ってるんだ」

店員が酒を持ってきてくれたので、話を中断して木製のジョッキに入った常温のエールビールを飲む。
お世辞にも美味いとは言えないが、これはこれで趣はあるだろう。
キンキンに冷えていれば、もう少し美味しいだろうに。

「冷えていればより美味くなるかも…撤退して来たのはな、魔物の数が多かったからだ」

「ベリア殿の魔法を駆使しても、対応に難がある程なのか」

「そりゃ百体近くの魔物に囲まれたら、逃げる方が利口だろ?一通り潰しはしたけど」

「百体!?」

ヴィラードは大声は出さなかったが、信じられないといった様子だった。

「明日の朝一番に、アタイは冒険者ギルドに報告する予定だ。Bランク以の冒険者をオブリビアに入れさせないように進言する。入るなら対グール対アンデッドを想定した装備が必須条件になる」

「…何か、戦闘の証明になる物はあるか?1件の報告だけでは上は動きにくいんだ」

「イズミ、右腕を見せてくれないか」

ベリアの頼みを聞いたイズミは、右腕の服をめくり上げる。

「上着は片付けてるのに、腕を見せてなんになるのやら」

右腕が店の明かりに照らされると、妙な跡が残っていた。
痛みも無ければ痒みも無いので、一切気付かなかったのだ。

「コレは…」

「イズミ、右腕は戦闘中にどうなったんだっけ?」

「身体の腐ったケルベロスの口の中に入ったな」

「強力な魔物の血や体液が身体に触れると、2~3日程度跡が残る事があるんだ。あの上着にも臭いが残ってるし、それを調べてもらえば確証になると思う」

ベリアの説明を聞いたイズミは一応納得したが、ヴィラードはイズミの腕に残る跡を凝視している。

「完全武装は…必須のようだな。上には報告しておこう」

「任せる。俺は御子の聖魔法に期待したいのだが」

ヴィラードは会計を済ませ飲み屋を出てゆく。
それを座ったまま見送ったイズミは服を戻すと店員が持って来たツマミを食べた。
乾燥させたオーク肉を野菜と共に軽く脂で炒められたものだったが、いざ食べてみると胡椒が使われていなくても案外美味しいのだ。
エールビールが冷えていれば、より美味しく楽しめる気がしてならない。

「明日からは忙しくなりそうだな」

「気が重いね」

ケルベロスの発した言葉から察するに、オブリビアにはかなりの厄介事が眠っているに違いない。
イズミは自前の酒を取り出すと、自分用のとベリア用のショットグラスに注ぐ。

「ベリア、オブリビアでもよろしく頼む」

「おう!任せてくれ」

2人はグラスに注がれた特級品のドワーフ酒を一気に飲み干した。
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