異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
449 / 624
第二十四章 暴走を止めろ

閑話 遂にバレた

しおりを挟む
あくる日の事である。

「ゴメン!アレの存在がバレた」

「…ユノア、私の聞き間違いかしら?アレって秘密にしてたコレの事よね」

アーリアの研究室にて、申し訳なさそうな表情をしつつも元気な声の女ユノアが、部屋に飛び込んでくると同時に謝罪の言葉を告げた。

「そう!」

「なんでバレたのか、事の経緯を教えなさい」

「皇国からの依頼で精鋭部隊との訓練戦をした時にさ、勢い余ってつい…」

「張り切って戦ってたら相手も本気で仕掛けて来たから、ついうっかり使ったのね…おバカ!」

アーリアのチョップがユノアの頭に直撃する。
ユノアが咄嗟に防御魔法を発動したが、アーリアのチョップは何事も無かったように貫通している。
左手に腕時計は着けていないのにかかわらず。

「あた!」

「まったく。アレは本当に規格外な代物なんだから、使う時と場所は考えなさいって口酸っぱく言ってたでしょ」

「しょうがないじゃん、相手は皇国の精鋭部隊だし、あのミシェルも居たんだよ」

「だからって…過ぎた事はしょうがないわね。で、勝ったの?」

手にしていた書物を片付けたアーリアが聞くと、ユノアは笑顔で答えた。

「当然!アタシ1人で圧勝」

「…相手の数は?」

「うーん。完全武装で100人くらい?」

「戦闘時間は?」

「初めて1分切ったよ」

「やり過ぎよ、訓練にならないじゃない」

大きなため息をついたアーリアは近くの椅子に座ったユノアを見つめる。

「誰にバレたの?観察眼の鋭い方はミシェルくらいしか知らないけど」

「そのミシェルに。魔法返しを使ったら、速攻でバレました」

「…そりゃそうよ。彼女は魔術師協会に所属していないだけで、実力は本物よ」

ユノアは左手に着けている腕時計を見ると、スムースに動く秒針が十二時位置を通過する。
魔法返しのチャージは無いのか、人差し指を伸ばしても特に反応は無い。

「ミシェルも腕を上げてるから、アタシも特訓しないと」

「…ソレがあの攻撃の仕掛けかしら?」

何処からか聞こえた声に驚いたユノアが周囲を確認するが、アーリア以外の人の姿は見えない。

「ミシェル、人の研究室に隠匿魔法を使って入るのはマナー違反じゃないかしら?」

アーリアが丸い玉のようなもの…ラムネの瓶から苦労して取り出したガラス玉…を軽く投げると、何もない空間にぶつかり床に落ちた。

「声の聞こえる位置まで変えたのに、貴方にはお見通しなのね。久し振り、アーリア」

隠匿の魔法を解除したミシェルが姿を見せると、ユノアの向かい側にある椅子に座った。

「去年の豊穣祭以来かしら、元気そうね」

「元気だったわよ、ユノアに負ける前までは」

ミシェルは笑顔のままユノアを見つめる。
その目は一切笑っていない。

「ミシェル、もしかして…怒ってる?」

「いえ全然。折角の訓練戦が秒で終わってしまったので、時間に幾分かの余裕が生まれたくらいですよ」

「ミシェルが参加した訓練戦はそうだけど、連日やってたんだから良いでしょ」

「もう少しやれると思ったのよ…で、あの魔法について、お話をお聞かせ願おうかしら?」

蛇に睨まれた蛙のようになったユノアは目でアーリアに助けを求めると、アーリアは静かに息を吐いて研究室内に遮音魔法を発動する。

「これから話す事は秘密よ、まだ調査途中だから。家族にも話さないと約束して」

「分かったわ」

アーリアは立ち上がるとアイテムボックスに収納していた腕時計を取り出し、背筋を正しているミシェルに渡した。

「元々は精密に時を刻む機械よ。この個体には訳あって、効果付与が施されてるけど」

「こんなの反則よ反則!初見殺しにも程があるわよ…それにしてもコレ、何処かで似たような物を見た事があるような」

マジマジと腕時計を観察していたミシェルだったが、魔法で腕時計を宙に浮かせながら考え込む。

「アタシは初めてだったけど。アーリアは?」

「私もよ」

アーリアは懐中時計の存在は伏せ、椅子に座ってから答える。

「思い出した、お祖父様の別荘!」

ミシェルは椅子から立ち上がると、姿勢を崩して寛ぐアーリアの手を取り転移魔法を発動して消えてしまった。

「あのさぁ…なんでアタシを置いていくかね?面白そうな話なのに」

1人残されたユノアはため息をつくと追跡魔法を使い、2人の向かった先を特定すると転移魔法で移動をした。


お祖父様の別荘と呼んだ建物へ到着した3人は、ミシェルの案内である部屋に入る。

「確かこの辺に仕舞っておいたのよね…あった!」

アーリアとユノアは広間の窓から見える景色を眺めていると、別の部屋からミシェルが小さな木箱を持って来てテーブルの上に置いた。

「お祖父様の遺品整理をしていた時に見つけたのよ」

「生前に何か話しはなかったのかしら?」

「えぇ、誰も知らないって。お祖母様も使い方は分からなくて」

木箱の中には複数の小物が入っている。
その内の1つが、確かに腕時計に似ていた。
手元にある腕時計よりサイズが大きく、針は大小合わせて6つもあるのだ。

「確かに似てるけど…右側にあるこのボタンは何かしら?」

「分からないのよ、押してみても何の反応もしなくて」

「…知り合いに聞いてみるしかないわね」

アーリアはミシェルから少し距離を取り、イズミへ魔法通信を繋いだ。

「イズミ、今話せるかしら?」

「アーリアか久し振り…今はちょっと手が離せなくてな、明日の昼間でどうだ?っぶねぇ」

「忙しそうね」

「だな!慣れない事をすると、ろくなことが無い…ではまた明日…マスタング、自動運転だ!トランクを開けてくれ」

魔法通信を切る直前に、イズミの切羽詰まった声が聞こえた。

「…何してるのかしら?」

アーリアはアイテムボックスから水晶を取り出すと、マスタングと呼ばれるアーティファクトに取り付けた転移魔法陣の魔力を探す。

水晶に映し出された映像では、ダンジョン内と思われる場所を猛スピードで走っているのが分かる。
視点を切り替えたアーリアは、映っている映像を見て噎せた。

「なになに、どうしたのさ?」

興味を持ったユノアとミシェルが、アーリアの持つ水晶を覗き込む。
そこには、人間程度なら丸呑みに出来るだろう巨大な魔物から逃げる男女と、それを乗せて走るアーティファクトの姿があった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...