異世界無宿

ゆきねる

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第二十五章 オブリビアダンジョン

第四百四十話 押し付けたら立ち去ろう

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ヴィラード達を見つけるのは、思っていたよりずっと簡単だった。
村の広場で子供達に読み書き計算を教えていたのだ。

「イズミ殿、何か用事か?」

「そんな所だ…ちょっと話せるか」

イズミはヴィラードを子供達と他の教会の人間から距離を取ると、小声で本題に入った。

「テレジアに渡したメダルの件は知ってるか?」

「当然だ。シュナイダー卿が違反者探しをすると言っていたな」

「そんな状況下で恐縮だが、同じメダルがもう2つ程手元にあってね。理由は非常に答え難いが、何も聞かず調査に同行する他の御子に渡して、テレジアが精霊達から教わった技術を共有して欲しい」

ヴィラードはあからさまに疑いの眼差しをイズミに向ける。

「イズミ殿…それは流石に無理があるぞ」

「理由を話しても信じちゃくれないさ」

「話を聞かなければ、信じる信じない以前の問題だ」

ヴィラードの言い分も理解出来るが、話しても良いのか迷う所である。
詳しい事は隠しておきたいので、ザックリと重要な事だけ伝えてみる事にした。

「ダンジョン調査で発生し得る被害を最小限にする為に、御子全員がメダルを所持し、その使い方を知っておかねばならないから?」

最後は疑問形になってしまったが、概ね間違ってはいない説明が出来た気がする。

「何故疑問形なのだ。それに被害が出る前提なのは理由があるのか?」

「それはだな…今朝オブリビアに行って来たのだが、汚れた魔石が大量に持ち込まれている事が分かった。そんな状態のオブリビアでダンジョン調査をしたら、何が起きても可笑しくない」

「先程シュナイダー卿が冒険者ギルドへ向かったのは、その件での緊急会議か」

少しだけ理解が進んだのか、ヴィラードの眉間のシワが少し和らいだ。

「しかしな…いきなりメダルを渡されては御子も困るだろうに」

「作りが良いのは保証する。お守り代わりにとでもとか言って、何とか渡す事は難しいか?」

ヴィラードは腕を組み険しい表情をして、少し離れた場所で子供達に読み書きを教えているテレジアを見つめる。

「賄賂と認識されると大問題だぞ。御子への賄賂や買収は死罪と決められている」

「別に金銭は求めていないし、便宜を図れとも言うつもりも無いのだがな…ではこうしよう」

イズミは万能そうな言葉が浮かんで来たので、これでゴリ押す事に決めた。

「『全ては女神様のお導き』って事で…ではヴィラード、よろしく頼む」

イズミは冗談を言うような口調で教会の人間が使いそうな文言を使うと、半ば押し付けるようにしてメダルを渡すと広場から逃げ去るようにスタスタと歩き出した。

「俺が御子に渡すのか…都合の良い言葉を駆使しても丸く収まるとは思えんが」

「ヴィラード、どうかしましたか?困った顔をしていますよ」

子供達の勉強が休憩に入ったのかテレジアが声をかけてきたので、先程イズミから面倒な頼まれ事を押し付けられた事を話した。

「イズミ殿がこのメダルを他の御子に渡して欲しいと、無理矢理押し付けられてしまいまして」

「確か認定品の印が無いのでしたね。イズミ様は何処で入手したのでしょうか?」

「分かりませんね。彼も答えるつもりは無いでしょう」

「そうですね…私が2人に渡しましょうか?」

テレジアがそう提案すると、ヴィラードの表情は更に険しくなった。
メダル1つでも違反者探しの騒ぎになっているのに、追加で2つも現物が手元にある事になるのだ。

テレジアの胸元にあるメダルと寸分違わぬ2つのメダルを渡すべきか迷っていると、遠くから声をかけられた。

「2人仲睦まじく、何をしていらっしゃるの?」

テレジアとヴィラードが声の主の方へ頭を向けると、2人の女性が近付いてきた。

「セリーヌ、ロレッタ。2人とも丁度良い所に」

テレジアはヴィラードの手からメダルを取ると、2人の右手にそっと握らせる。

「あら、コレはもしや」

「先日お話しましたメダルです。お二人にも持っていて頂きたいと」

「それは構いませんが…良いのでしょうか?」

セリーヌと呼ばれた御子は掌に小さく収まるメダルを観察しつつ、念の為にと確認を取る。

「認定品の印の件で一悶着ありましたわね」

「授受に関して金銭の支払いは発生しておりませんわ。口添えや袖の下も同様にありません」

「信者からの『純粋な奉納品』扱いにしたのね」

「今回も金銭の支払い等は発生しておりません。そうですよね?ヴィラード」

「はい。間違いなく発生しておりません」

ややこしい話しを聞いたセリーヌは小さくため息をついた。

「またシュナイダーが騒ぐでしょうね」

「不思議なメダルです…こう握っていると、教会で祈りを捧げている時のような温かさを感じます」

セリーヌの隣でメダルを握りしめているロレッタが、噛みしめるように呟いた。

「取り敢えず…テレジア、後で精霊様から教わった事を私達にも教えて下さるかしら?」

「勿論です。子供達への読み書きを教え終えてからにしましょう」

早速予定を組んだ御子達は、各々の仕事に戻ってゆく。
その晩に3人の御子が祈りを捧げていると、人の言葉を話す猫の姿をした精霊が姿を見せ、聖魔法のスパルタ特訓が始まった事はイズミの知る所ではない。
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