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第2章 幼年編
232 29階層
しおりを挟むゴロゴロゴロゴロ
29階層へ向かう回廊をゴロゴロと進むリアカー。
車輪が木製のため、どうしてもゴロゴロと大きな音が出る。
「うーん、この点は改良しなきゃなぁ。かと言ってダンジョン中に金属は貴重だし。生ゴムはもう捨てちゃったし。仕方ないか…」
ブツブツ言いながら、歩く俺。みんなから突っ込まれないどころか、生暖かい目で見られてるのは……なぜだろう。
「シャンク先輩リアカーどうですか?」
「うん、軽くてとっても楽だよ」
一瞬リアカーを引っ張るシャンク先輩が、サーカスで観る熊さんのショーに見えた。
かわいいな……。
雪の中をそりで曳く姿も、トナカイとサンタさんが合体したみたいな感じだった。
かわいいよなー。微笑ましいなって見てしまうよ。
「なに?アレク君」
「い、いえなんでもありません」
いかんいかん、ついついじっくり見てしまったよ。
野営食堂では、セーラに手伝ってもらい、ホーンシープの毛皮からコートを、ワーウルフの毛皮からレッグウォーマー(脚絆)と戦闘靴の中敷きを作った。
「えーセーラ、マジで上手いじゃん!」
「へへっ!」
得意と自分で言うだけに、セーラの縫製技術は素晴らしく高かった。学園に来ることもなく何もなければ、夢は裁縫の仕事をしたかったって言ってたけど。
正確にそれでいて早く針を刺す技術の高さと、縫製のセンスの良さに思わず見とれてしまうくらいだったよ。
コートは今着ている防寒着の上から着るアウターとして考えてあるから、サイズは少し大きめだよ。
これから行く29階層は極寒だって言うから、このコートで少しでも寒さを和らげられたらいいんだけどね。
レッグウォーマーと戦闘靴の中敷きは、全員の靴のサイズと脹脛のサイズにピッタリのものだよ。
これもみんなの足のサイズから採寸したやつだからね。まさにオーダーメイドのレッグウォーマーなんだ。
寸法を採るときは、全員の脹脛までの足を触ったんだ。内緒だけどね……1人だけはさわっててめっちゃ緊張したんだ。
思わず自分の手をくんすかやってしまったし。
えっ?べ、べ、別に変態じゃないよ!本当だよ!
そんなわけで、コート、レッグウォーマー、戦闘靴の中敷きはボル隊のみんなには先に装着してもらった。
「へー、レッグウォーマー?暖かいんだね」
「着ける前と後ではぜんぜん違うんですね」
「ああ、これなら移動の邪魔にならないな」
「中敷きもあるのとないのではまったく違うわ」
「足も冷たくないよ」
「みんな良かったって。セーラのおかげだよ」
「ええ、みんなが喜んでくれてよかった!」
「ああ」
そう!そうなんだよ!この学園ダンジョンでは仲間に喜ばれることがなによりうれしいんだよな。
29階層に到着した。
雪は少ないけど、ときおり突風のような風が吹いている。
予想通り、極寒の地だった。
――――――――――――――
昨日の野営食堂。
仮眠では、久しぶりに父上と母上、昔俺がお世話になった人たちの夢を見た。
母上といっても、母上は俺の出産と入れ替わるように亡くなってるから肖像画でしか見てないんだけど。
何せ転生した瞬間だから、パニくってたしね。
「ショーン大きくなるんだぞ」
「セーラ様、私にもショーン坊っちゃんを抱かしてくださいな」
「私もだっこしたいです」
「お父上によく似ておられるなぁ」
「ほんにお父上によく似たお顔じゃ」
赤ちゃんの俺のまわりには、父上、母上、モンデール神父様、マシュー爺、メイドのタマ、薬師のルキアさんがいた。
目が覚めたとき。
心がなんだかとっても温かかった。
父上も母上も今はもういないけど、俺を愛してくれてる人は今もいるんだって思った。
デニーホッパー村の家族も、血のつながりこそないけど心から大切に思える大事な俺の肉親だし。
▼
「スキーは置いていこうか」
「そうだな」
29階層。
積雪は少ないんだけど、地面はカチカチに凍っていた。
凍土という言葉が浮かぶような、とにかく極寒の地だった。
「凍ってるからそりもよく滑るよ」
そんな極寒の中、シャンク先輩は意外にもご機嫌だった。
「シャンク先輩は熊さんだから寒くないんですか?」
おいセーラ、言い方!
「うん、僕たち熊獣人は冬の寒さには強いんだよ」
「へぇー羨ましいです!」
言い方はあれなんだけど、セーラは獣人差別を一切しない。
そんなところは共感持てるよな。
獣人もドワーフもエルフも人族も、みんな同じ人間なんだから、差別なんておかしいよ。
もし気持ちが通じ合うのなら魔獣とだって仲良くなれるって俺は思うよ。
ヒューーーーー・・・
シーーーーン
突然、風が止んだ。
静かな無音の世界が訪れた。
「こ、これは……!」
タッタッタッタッ タッタッタッタッ タッタッタッタッ タッタッタッタッ…
前方の大地からは、ワーウルフ、ゴブリンライダー、コボルトが駆けてくる。それぞれ30体はいるな。
合計100か……。厄介だな。
さらにそのうしろから探索にひっかかるのはは強者……。
グギャーッ グギャーッ グギャーッ グギャーッ…
ギャーー ギャーー ギャーー ギャーー…
空からも約50体のガーゴイルが飛んでくる。
ん?脚には何か……石を掴んでいるのか?
タッタッタッタッ タッタッタッタッ タッタッタッタッ…
左右の両翼からはコボルトがそれぞれ30体迫ってきた。
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
後方からはスケルトン、スカルナイトが20体迫ってくる。
これ…まだまだ増えるな。
「マリー、アレク、たぶん今日1番のヤマだぞ」
「そうね、でもシャンク君が動けるのは大きいわ」
「ぼ、僕がんばります!」
「アレク、これまでのまとめテストだな」
「はは。はいキム先輩」
「気負うなよ」
「はい」
「アレク、シャンク、セーラ。やれることからやれ。お前らは10傑。大丈夫だ。
ただ仲間を信じて闘え」
「「「はい」」」
リアカーを下ろし、鉄爪をはめたシャンク先輩も準備万端と待ち構える。
「セーラさんはタイミングをみてスケルトンたちを。私もシャンク君も動く可能性があるわ。そしたら荷物を守って障壁の中にいてね」
「はい!」
セーラが凛とした声を上げた。
「来るぞ」
ヨシ、俺もやってやる!
「いいアレク。あの子の言う通りだからね。全部自分でやろうとしたらダメよ」
「わかったよシルフィ」
ふと左を見ると、マリー先輩と目が合った。
マリー先輩は口角を上げて、力強く頷いた。
キム先輩も、シャンク先輩も、セーラも。
誰もが無言でコートを脱ぐ。
俺は俺ができることをやる。
前方を見て身構えた。
――――――――――――――
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