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第2章 幼年編
304 44階層 延々と⑥
しおりを挟む「なんでだよ!くそっ!」
ダンダンッ!
子どもみたいに地団駄を踏んで思わず悪態をついてしまった。
でもなんでふりだしに戻るんだよ!あり得ないだろ!
「‥‥暗くなってきたし、少し戻って野営ししましょう」
「そうだな。ビリーの考えも聞きたいしな」
幸い襲ってくる魔物はいなかった。
後続のブーリ隊もすぐに合流した。
夕方。
暗くなる前。
そこはふりだしに戻ったかのような早春の大地だった。
「まさか‥‥また春なのか」
「「「マジか‥‥」」」
「ええ‥‥」
「「「‥‥」」」
あまりにも非情な仕打ちに思えた。その現実に誰もが黙り込んでしまう。
「これ階層主の部屋に向かう回廊なんですよ、きっと!」
「うん、僕もそう思う‥‥もしかして階層主の扉を見落としたかもしれないし‥‥」
セーラとシャンク先輩の声。シャンク先輩、最後の方の声はなんだか消え入りそうだったな。でもさすがに階層主の扉を見落とすなんてことはない。さらには44階層と45階層をつなぐ回廊でもないことは誰もが直感でわかっている。それは「希望」を口にしたセーラでさえもわかっている……。
「とにかく一旦落ち着いて野営しましょうか」
「ああ。それがいい」
「久しぶりに野営らしい野営をしようぜ」
「ああ。これはこれで楽しいぞギャハハ」
「いえ、俺『野営食堂』を出しますね」
「いやアレク、お前魔力が心配だろ?」
「あはは。だから野営食堂にするんですよオニール先輩。このまま2、3日ゆっくり休憩しましょうよ。いい考えが浮かぶかもしれないし。いいですよね?マリー先輩、タイガー先輩?」
「ええもちろんよ」
「ああ当然だよ」
野営には少し戻って確実に冬エリアに戻った場所にした。
「いでよ野営食堂!」
ズズズズズーーーーーーッ
外堀内堀の堀は発現しなかった。2階建の高さの支柱だけは建てたけどね。
おそらく襲ってくる魔物は大したことはないはずだ。冬だから一角うさぎと雪豹だけだろう。仮に春エリアと重複してたとしても甲虫、蜻蛉、アラクネだから、アラクネにだけ気をつけてたら問題はないはず。
でも確実に冬側だからたぶん春の魔獣は襲ってこないだろうけど。
食事は干し肉のスープと堅いパン。本来のダンジョンめしだ。節約且つ簡単なものだよ。
冒険者的には定番のものなんだけど、やっぱりさびしい食卓なんだよなぁ。
「「「いただきます」」」
「「「‥‥」」」
みんな無言で食べる。咀嚼音が聞こえるくらいに静かな食事だった。
「「「ご馳走さま」」」
「さて」
マリー先輩が話し出した。
「季節は春から始まった44階層。本当なら今ごろ45階層主の扉前にいるはずよね。だけど‥おそらくふりだしに戻った」
「「「‥‥」」」
「その理由は‥‥みんなと同じで私にはわからないわ」
「俺もだ」
ブーリ隊隊長のタイガー先輩も応える。
「「「‥‥」」」
「だからね、ここはやっぱり学園1の頭脳であるビリー先生の意見を聴きたいと思います。聴きたい人ー?」
「「「はーい」」」
ふふふふ
はははは
ギャハハ
みんな戯けたような返事をしたんだ。今のこの状況下、打開策なんて俺には何も浮かばない。現時点で最善となり得る考えがあるのはやっぱりビリー先輩だろう。
「ゴホン。ではマリー先生からご指名を賜りました不肖ビリー・ジョーダンから推論を述べさせていただきます。はいそこオニール君、欠伸をしない!」
「なんでいつも俺なんだよ!」
ふふふふ
はははは
ギャハハ
「とにかく情報がなさすぎるよね」
こう切り出したビリー先輩が話し始めた。
「まずセーラさんの回廊説、シャンク君の見落とし説‥‥残念ながらこれはないだろうね。同じように明日目が覚めたら扉があるなんてこともね」
「「「‥‥」」」
「過去の先輩の記録を事実として考えた場合、前回の記録では春夏秋冬の季節があるこの44階層を1日で踏破したとあるんだよね。だけど、それだけでは圧倒的に情報が不足してるんだ」
「「「??」」」
「先輩たち各個人の能力的なことは横においとくよ。だって僕たちも、例えばアレク君の本当の魔法の発現力とかは僕らは知ってるけど記録には出ないからね」
「「「なるほど」」」
「先輩たちのパーティーの探索速度が僕たちより速いのか或いは遅いのかがまずわからない。そしてこの『1日』というのも夜明け前、朝の6点鐘前から午後の6点鐘までを指すのか、或いは夜通し歩いての1日なのかさえもね」
「なるほどなぁ。そんなふうに考えたことなかったぜ。俺は春夏秋冬越えたら着いてるもんだってしか考えなかったよ」
「オイもだギャハハ」
あーうれしいなぁ。オニール先輩とゲージ先輩は俺と同じだよ。なんにも考えてない脳筋なんだよ。
「「アレクお前といっしょにするな!(アレクオメーといっしょにするな!」」
あらら。オニール先輩とゲージ先輩がハモっちゃったよ。
「想定としていちばん考えられることはダンジョンが僕たちを強者として『認定』したんだと思う。これまでのダンジョン探索では出なかった魔物たちが新しく出たのと同様にね」
「「「うんうん」」」
「この『認定』という仮説が正しければ今回のことも説明がつくよね」
「てことはビリー‥‥」
「そう。キムの考えどおりさ」
「「「やっぱり‥」」」
「ん?」「ん?」「ん?」
ビリー先輩の話に眉間に皺を寄せ深く頷いてるのはキム先輩とマリー先輩、セーラだ。うん、ぜんぜんわかんねえ。オニール先輩、ゲージ先輩、俺の脳筋系に対して頭脳派の人たちの構図だよ。うん、頭脳派の人たちの考えることはわかんねぇ。
「「「どういうことだ(ですか)?」」」
オニール先輩、ゲージ先輩、俺の3人がハモった。
「僕たちの強者『認定』が先に行った先輩たちより1段階上なら次の1周か2周、2段階上ならさらにもう3周か4周、ひょっとしてそれ以上周ることもあり得るね」
「「「マジか‥‥」」」
「或いは何か見落としていることがあるのかもしれないね」
「ひょっとしてゴーレムをひっくり返しただけじゃダメだとかか?」
「わからないね。ただ少しでも可能性があるのなら1つずつ潰していくべきだろうね」
「よし俺、転がしたあと1体は魔石を抜くわ」
「俺も1体は土魔法で魔石を抜きます!」
「はは、いいね。いずれにせよ、現実的なことを話すよ」
「「「うんうん」」」
「明日からまた44階層に挑戦することになるよね。いちばん気をつけるのは魔法組の魔力の枯渇の心配じゃないよ。アレク君何かわかるね?」
「はい‥‥」
これはさすがに俺でもわかった。
「心ですよね?」
「そう。僕たちがいちばん気をつけなきゃいけないことは、心が折れることだよ」
「「「‥‥」」」
「大丈夫だぜ!あと1周でも2周でもなんなら10周でもしてやらあ!」
「さすがに10周ってことはないかと思うけどね」
ビリー先輩の推論からみんなの考えもまとまった。
「それでも何か見落とししてるかもしれない。どこかにヒントがあるかもしれないから明日は集中していこうね」
「「「ああ(はい)」」」
「それと人は1日中集中し続けるのはできないからね。ときどきは息抜きやユーモア、そして笑顔は大事だよ」
「そうなの。たまにはオニールも必要なの」
よしよしとオニール先輩の頭をなでなでするリズ先輩だった。
ーーーーーーーーーーー
野営食堂の夜。順番に野営に就いたが、予想どおり魔物の襲来はほぼなかった。寝れないことはなかったけどいろんなことが頭に浮かんで安眠は出来なかった。やっぱり魔力もほとんど戻らなかった。
翌朝。
「「やっぱり‥‥」」
「「無いね」」
「「仕方ないよ」」
「「そうね‥」」
残念ながら扉はなかった。ふりだしに戻った。
春からの探索が再スタートした。
歩きだしてすぐに魔物が襲ってきた。
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥シュッ!
オニヤンマ(蜻蛉)は風魔法を自身に纏い、翅を刃に襲ってきた。
「またお前らかー!」
「やっつけてやるー!」
ブワワワァァァァッッッ!
シルフィとシンディの風魔法の力を借りて
突っ込んでくる蜻蛉のスピードは目に見えて遅くなる。
ザンッ!
出てくる1体1体を確実に仕留めていく。
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥
ギュイイイーーンッ!
コロン
ザクッ!
速度を上げて襲ってくるスカラベーもひっくり返して丹念に刀を刺す。
シュッ!
ギャーーーーーッ!
網を張って待ち構えるアラクネも確実に矢で射っていく。
ひっきりなしに襲ってくる蜻蛉、スカラベー、アラクネは撃ち漏らしなく退けた。
この勢いは夏、秋、冬と続いた。
「「「はーはーはー」」」
疲れたー。でもさすがに昨日経験したばかり。今回は慣れたせいもあって前回よりさらに早かった。うん、撃ち漏らしはない。今度こそちゃんと45階層の扉があるよね?
「「「‥‥」」」
「またかよ‥‥」
冬の終わり。そこはまた春だった。
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