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第2章 幼年編
388 諭す
しおりを挟むみるみるうちに気色ばむだ騎士団員たち。憤怒の形相だね。
代表して声を上げた騎士団員に先生が声をかけたんだ。
「お主は?」
「アザリア領領都アネッポの領都騎士団団長のワグネルと申します」
手を胸に最敬礼で挨拶をするワグネル騎士団長。身の丈180セルテ。太い眉毛に真っ直ぐな瞳。いかにも実直そうな団長だな。
「何を訂正しろとな?」
「皆様方のあの言われよう。あれでは我ら騎士団があまりにあまりに‥‥」
ぐっと唇を噛んで悔しがるワグネル騎士団長の口元からじわりと血が滲んだ。
「ワグネルとやら。お主は何に怒っておる?」
「先ほどまでの言われよう。この口惜しさのままでは‥‥たとえロジャー殿や老師の足下に我ら騎士団員、その一兵とて及ばずとも‥‥このままでは我ら死んでも死にきれませぬ」
「「「そうだそうだ!」」」
「それはお主の矜持が傷つけられたからかの?お主の矜持はそれほどに大事なものか?」
「大事です」
「そうか大事か。お主が戴く相手は誰じゃ?」
「わがアザリア領領主アネキア・ド・アザリア様おいて他にはございませぬ」
「ではワグネル、お主はお主の矜持のみを守りそれで領主アネキア殿の想いを代弁し民に尽くしておると胸を張って言えるのかの」
「そ、それは‥‥」
「民を守るにはお主の矜持なぞ馬の糞にもならんとなぜ気付かぬ?」
「くっ‥‥」
「そして先ほど来言うておろう。他領の客に害を与える者が領主アネキア殿の代弁者であると言えるのか?そしてお主を含む配下の者すべて、その命に従い賊に紛れて害を為した者はおらんと胸張って言えるのか?」
「‥‥」
「ワグネルよ。そのような者などおらんと胸張って言えるのならばその言には価値があろう。ならばわしもロジャーもその想いにま正面から応えると誓おう。
じゃがの‥‥もし他領の人間に害を為し領主アネキア殿の想いに仇なす者がおればお主のその矜持とやら、それは聞くに値せぬぞ。それはここにおるすべての騎士団員、家臣、商人、領民も同じであるぞ」
「「「‥‥」」」
「あらためて問おう。ここにおる騎士団員全員が疚しいことは無いと胸張って言えるかの」
「そ、それは……。しかし老師!いかに老師といえどあれほどまでにわが騎士団員を馬鹿にした物言いはありませぬ!」
「「「そうだそうだ」」」
「だまらっしゃい!」
謁見の間すべてに響き渡るテンプル先生の一喝。
「「「ヒッ!」」」
「よいかの。なぜここにわしが来とるか分かるかの?国の英雄ロジャーが来とるか分かるかの。考えい!
今なら、今ならまだやり直せるぞ。
もちろん無罪放免とはいかぬ。賠償額も桁違いなものとなろう。いっときの勇に駆られてロジャーやわしに挑んで死んだほうがましかもしれぬ。まあ矜持などというものは地に堕ちるであろうがな。
それでも己の心に曇りのない者はアネキア殿の想いを体現できる者となろう。そしてそれが巡り巡ってお主の言う矜持へとな」
「はい‥」
憤怒に満ち満ちたワグネル騎士団長の顔は落ち着きを取り戻していた。それは多くの他の騎士団員にも通じたようだ。
「ワグネルとやら」
「はは。老師様」
「お主の今の目。それとここにおる多くの者たちの目もそうじゃ。自分の胸に手をあててよく考えてみい。何を為すことが正しいのかとな。正しいと思うたらすぐに行動じゃぞ。『あとから』は無いからの。
ワグネル後ほどの。
悪いようにはせぬからの。ハハハハ」
「さて、鎮台殿。1つ聞いておきたいのじゃがの」
「な、な、なんでしょう老師様」
「今からわしが問うことに、はいかいいえだけで応えてくれるか。それ以外の言は要らぬゆえ」
「はい‥」
「アレク工房の諸製品は知っておるの?」
「は、はい‥」
「ミカサ商会ならびにサンデー商会が商っておるアレク工房の諸製品の模造品が出回っておる。知っておるか?」
「は、はい‥」
「アネッポで作っておるのか?」
「‥‥」
「だんまりかの。まあよい。ではヴィンサンダー領の誰か、或いは商業ギルドか冒険者ギルドの者に融通を図ってもらっておるか?」
「‥‥」
「ふむ。ではヴィンサンダー領からアレク工房の諸製品を手に入れてから西海の諸国で売り出しておるかの?」
「はい‥」
「それが模造品であってもか?」
「め、滅相もございませぬ!」
「ではヴィンサンダー領からアレク工房の諸製品を仕入れておることは認めるかの」
「はい‥」
「それはヴィンサンダーの商業ギルドは知っておるか?」
「はい」
「冒険者ギルドは知っておるか?」
「はい」
「では違う聴き方をしようかの。
王国内。アザリア領の領都アネッポで他領からやってきた商人を傷つける。他の商会が作っておる物の模造品を作る。そうした犯罪者をこのアネッポではどうするのかの?」
「厳罰に処しまする」
「相違ないの」
「相違ございませぬ。た、ただ確かにそのような者がやったことと立証できるのであればでございますが」
ニタァーっと水樽がハッキリと笑顔を見せた。それは水樽ジュニアも同じだ。
「あー狐君。よいかな?」
「はい先生」
「最初の襲撃で狐君
はあそこにおる商人の男に矢を刺したかの?」
「はい。左の手のひらと尻に矢を刺しました」
「お主名は何と申す?あれば申し開きもしてみよ」
「アネッポ領の商いを一手に引き受けておりますゼニコスキーざます」
あー要らんこと言わなきゃいいのに。
「ミーは盗賊紛いのことは一切していないざます。
もちろんそちらのサンデー商会さんは今日初めてお会いするざます。その何よりの証拠がそちらの狐さんが射ったというミーの手のひらとお尻ざますね。ホラ、このとおり何もないざます!」
そうしてゼニコスキーは手のひらをヒラヒラさせたあと汚いケツもめくって見せたんだ。
「うわっ!汚ないわねぇ」
「本当ねーシルフィ」
「シャイニーあの汚い尻刻んどく?」
「そうねぇ。いいかも」
やめろよ2人とも!絶対やめろよな。
「ふむ。これでは証拠は残らんの」
ゼニコスキーと水樽ジュニアがそれみたことかという顔をした。
「では2回めの襲撃。どうしたの狐君?」
「はい先生。水樽ジュニアはやっぱり手の甲、手のひらを射ました。鼻ほじるくらい簡単でしたよ?」
「くっ!」
いきなり憤怒の形相になり俺を睨む水樽ジュニア。俺、ジュニアを横目に見ながら鼻をほじってやった。
「(クックック。お前も煽ってるだろが)」
「(そうかなぁ)」
「それとさっきのゼニなんちゃらっていう商人ももう1回刺しときました」
「ゼニコスキーよ!失礼しちゃうわね!」
「どうじゃご子息?」
「老師様。私ももちろん襲撃に関与などしてはおりませぬ」
そう言って水樽ジュニアが両手をヒラヒラさせたんだ。
「あとはどうじゃな狐君」
「はい先生。5人。鎧のつなぎめに矢を刺しました」
「どうじゃな。心当たりがある者はおらんかな?」
「本当なんだな?俺はお前らを信じていいんだな?」
ワグネル騎士団長が振り絞るように言葉を発したんだ。
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