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第2章 幼年編
410 勝ちは勝ち、負けは負け
しおりを挟むトイプードルみたいな尻尾をフリフリしながらステファニーちゃわんが選手の紹介をした。
「第1試合、ヴィヨルド領代表モーリス・ヴィヨルド選手でーす」
きゃーーーーーっっ
わあーーーーーっっ
モーリスさまぁぁぁ
うおおおぉぉぉっっ
この1年でけっこう背も伸びたよなモーリス。もう175セルテ(㎝)くらいあるんじゃないの?ますますイケメンになってるし。
ご領主様の次男でイケメンで剣の天才。いいよなー持ってる奴は。
きゃーーーーーっっ
わあーーーーーっっ
モーリスさまぁぁぁ
素敵いいぃぃぃぃぃ
すげぇなモーリスのあの人気は。あれ黄色い声援って言うんだよね。うらやまー。
ん?
俺の頭?
って思ったらシルフィが俺の頭を撫でていた。
「よしよしアレクよしよし‥」
「うっうっ、やめてくださいシルフィさん!ますます虚しくなります……」
「対するは海洋諸国連合代表 トマス・アイランド選手でーす」
ぶーぶーぶーぶー
ぶーぶーぶーぶー
ぶーぶーぶーぶー
ディスりかた半端ないな。
やっぱ海洋諸国は暗殺業ってイメージがあるからかな。
「トマス選手の実兄は昨年までヴィヨルド学園に在籍していたキム・アイランド君でーす」
あーなるほど。たしかにどことなくキム先輩の面影があるよな。
あの小さな体格に黒髪、のっぺりした日本人みたいな全体像。これはまさに海洋諸国生まれのモブだよな。あー過去の自分見るみたいで親近感湧くわー。
「勝敗はどちらかが負けを認めるか戦闘不能になるまでです。いいですね。それじゃあ始めーーわんっ!」
「わんっ!」
この国際武闘祭には学園の武闘祭みたいに魔法着(魔法衣)の着用はないんだ。
だから未成年者といっても覚悟を持った真剣勝負に変わりはない。
シュッッ!
カーンッ!
あっ!?
開始の合図と同時にトマスが手にした吹き矢をいきなり放ったんだ。
予想してたのかな?モーリスはバスターソードの腹で矢を受けた。
「おぉーよく避けたなお前」
「卑怯な」
「なにが卑怯だ。お前のようなお坊ちゃんに言われると反吐がでるわ!
いいかお坊ちゃん、この勝負は人生と同じ真剣勝負なんだよ。
勝ったもんが勝ち、負けたもんは死んでから文句なんて言えねぇだろうが」
「フッ。真剣勝負がこれか。哀れだな」
「お前も次男坊ならわかるだろ?優秀な兄貴を持った弟の不幸がよ」
「そう思ってるうちは成長しないぞ」
「なにを綺麗事を」
「身近に超えたい目標がいることが幸せなことだと気づくべきだ」
「はん!そんもん兄貴も喰えばいいだけだろが」
ガンッッ ガンッッ ガンッッ ガンッッ‥
モーリスの長刀のバスターソードにクナイ1つで渡りあっているトマス。
「実際あいつも弱くないのにな。もったいない」
「言うねーアレクのくせに」
「さーせんシルフィさん」
ガンッッ ガンッッ ガンッッ‥
3合4合と刀を交えるうちに。明らかな体力差を嫌ったのかトマスは逃げるように広い格闘場内に距離をとった。
急襲しては距離をとり。時おり思い出したかのように吹き矢を放った。
シュッッ!
カンッッ!
シュッツ!
カンッッ!
「おぉ。また避けたか」
なにやってんだよー!
ワーワーワーワー
逃げるなーーー!
わーわーわーわー
卑怯者めーーー!
弛緩したともいえるこの時間に飽きたのか、観客席からの怒号が飛ぶ。
「いーねーあの声援。くっくっくっ」
「よし。それじゃああと3つこいつから避けられたら、お前のお望みどおり真正面から闘ってやるよ」
シュッッ!
カンッッ!
シュッッ!
カンッッ!
シュッッ!
カンッッ!
吹き矢を3射とも避けきったモーリスにトマスが笑顔を見せて言ったんだ。
「よーし、それじゃあお望みどおり獲物で闘ってやるよ」
脱力した感ありありのトマスは、手にした吹き矢の筒を放り投げクナイ片手に無防備にモーリスに近づいた。
「じゃああらためて。海洋諸国代表トマス・アイランドだ」
「サンダー王国代」
ぽいっ!
モーリスの名乗りの途中に。
トマスは胸元に手を入れてゴルフボール大の玉をモーリスに向けて軽く放り投げたんだ。
パアアアァァァッッッ!
即座に煙が広がる。
シュッッ!
サクッッ!
モーリスの肩に小さな針が刺さった。
「はい残念賞!」
舌をベロっと出したトマスが戯けながらモーリスに言った。
「お、お前‥‥」
「ああ、また言うのか『卑怯だぞ』って」
みるみる苦痛に顔を歪めるモーリス。
「効くだろ坊っちゃん。こいつはオークでさえもしばらくは動けなくなる痺れ薬なんだよ。ヒャハハハ」
「お、お前‥‥」
「だから言ったろう。最後に立ってた奴の勝ちだって」
「くっ」
ブンッッッ!
身体の動きが鈍くなったモーリスがトマスに向けてバスターソードを振りかざす。
「おおっと。危ねぇ危ねぇ」
スッとモーリスの間合いから離れたトマスがモーリスを嘲った。
「俺はよ、坊ちゃんほど力も強くねぇからな。薬が効くまでは近づかねぇよ。慎重派だろギャハハハハ」
そう言ったトマスは放り投げた吹き矢を拾い、確かめるようにモーリスの手脚に追い矢を放ったんだ。
シュッッ!
サクッッ!
シュッッ!
サクッッ!
さらにバスターソードを構えるモーリスの腕、手首にクナイで斬りかかったんだ。
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
「あの子クナイにも毒塗ってるわね」
「ああシルフィ。容赦ないな」
「いいアレク。あんな攻撃をする人族はいくらもいるんだからね」
「ああシルフィ。わかってるよ‥‥」
だんだんと動きが鈍くなってきたモーリスは立っているのでさえキツそうだ。
「くっ‥‥」
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
斬ンンッッ!
それでもトマスは油断することなくモーリスの脚や手を少しずつ削っていったんだ。
「坊ちゃん早く降参したらどうだ?もう立ってるのでさえキツいだろ?ギャハハハハ」
ガクッ
モーリスはバスターソードを杖代わりにして立ち続けたんだ。
もはやモーリスに闘気の欠けらも見られなかった。
「ふうっ。やっと逝ったかよ。しぶとい坊ちゃんだったなギャハハハ」
モーリスの眼前でその様子を確認したトマスが言った。
「坊ちゃん、最後に寝かしといてやらあ」
そう言ったトマスがクナイを振りかざしたそのときだった。
ぐぐっっ!
モーリスがトマスを捕まえたんだ。
「こ、このままお前を締め落とす‥‥」
「くっ‥死に損ないめ!」
羽交締めのようにモーリスに捕まったままのトマスがモーリスの背にクナイを撃ち込んだ。
「離れろ!こいつめ!くそっくそっ!」
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
ザクッッ!
立ったまま。
ズドーーーーンッッ
ついに前に倒れたモーリス。
「「「よくやったモーリス‥‥」」」
前領主、領主、兄の3人が同時に呟いた。
「勝者トマス・アイランド選手」
俺は担架で運ばれていくモーリスの肩を触って言ったんだ。
「油断したなモーリス」
生死の境にいるモーリスが消え入りそうな声で言ったんだ。
「あとは頼んだ狐仮面‥‥
友よ‥‥」
「ああモーリス。頼まれた」
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