661 / 722
第2章 幼年編
662 カーマン再び
しおりを挟む【 ヴァーリside 】
組合のやつらが全員まとまって逃げていきやがった。
まあ、わしにはどうでもいいことじゃ。わしはわしで好きに生きるだけじゃなからな。
組合のやつらは全員、殺されるか奴隷になったらいいんじゃ。
【 キブチ・カスタム&ロブ・ジョンside 】
「若‥‥今回の依頼は断ったほうがええじゃろうの」
「馬鹿か爺!ここまできてやめられるわけないだろう!
しかもここで王国に繋ぎをつけねぇとグランドへの足掛かりもできねぇだろうが!」
「それでもの。ありゃ恐ろしいくらいの手練れであるぞ。
しかもあの物言い‥‥余程彼我の実力差を知っておらねば言えん言葉じゃよ‥‥」
「だまれ爺!生命が惜しいなら爺1人で逃げればいい!」
「若‥‥」
(ありゃ、わしよりもはるかに強い。しかも魔法も使う。
さて‥‥‥‥どうするかの。せめてこの生命と引き換えになにかできぬものか。若を助けてやらねば)
――――――――――
【 ヴィンサンダー領総督府side 】
「それでお前たちは逃げ帰ってきたんだな」
「「「すいやせん総督さま。ですがありゃ恐ろしく‥」」」
「父上、冒険者なんてこんなもんだろ。しかもこいつらは野盗崩れ。
てめーの生命第1で忠義もくそもねぇ奴らばっかじゃねぇか」
「「「クッ‥‥」」」
「ん?なんか文句あんのかよ?矢で刺されたくらいで騒ぐ弱虫の冒険者さんたちよお?」
「い、いえカーマン様‥‥」
「文句あるなら、今から俺がてめーらの相手をしてやろうか?
このヴィヨルド学園で1番強い俺様が?」
ゴオオォォォーッ!
そう言ったカーマンが手の上に火球を発現させる。真っ赤に燃えるビーチボール大の火球を。
「「「す、すいやせん‥‥」」」
ギーーーイッッ
「さすがでござりますなぁ若様は!こんな大きな炎弾、キルヒは初めて目にしましたぞ!」
「おぉ!キルヒであるか。帰ってきたか!」
大仰に。且つ上機嫌で父ホセが謁見室に入ってきた男に応えた。
謁見室。
本来ながらば、領主が他領他国の代表と会うために設けられた、文字どおり謁見のための部屋。
今現在。その部屋で壇上の豪華な椅子に座るのは総督のホセ。隣に控えるのは息子のカーマンである。
「先ほど帰領致しましたホセ総督様」
「キルヒよ、大義である」
「これはこれは、お褒めのお言葉。このキルヒ、旅の疲れも見事に消し飛びましたわい総督様!」
「てめー‥‥誰だ?」
訝しげに問うカーマン。
「おおっ、これは失礼致しました。
お目通りも叶い、恭悦至極にござります若様」
待ってましたとばかり、揉み手の両手を忙しなく摩りながらその男が応えた。
「私、お父上のホセ総督様より執政官の任を戴くキルヒ・ワイヤルと申します」
自らをキルヒと名乗ったかなり太った男。
身長180セルテ。体重は控えめに言っても200㎏超。
胸元に大きなフリルの付いた真っ白な夜会用のドレスシャツ。
昼間からこれを着る、違和感ありありの太った男。
さらに首下や両手にはこれ見よがしに宝飾品を纏っている男。
珍妙で胡散臭さを全身に醸し出している男である。
その顔もまた然り。感情の起伏がまるで乏しい能面のような顔。
それとは真逆に。
上下の瞼から押しつぶされそうな細い目からは、鋭い眼孔が男の抜け目なさを如実に物語っていた。
魔獣カエルが巨大化し、そのまま人族になったかのような容姿がキルヒであった。
「フン。なんだてめーは?」
「偉大な総督様のご嫡男がヴィヨルドからわざわざお越しくださる。
王都から帰還する旅路で、私キルヒが何度も何度も民から聞いた言葉でございます。
明日の生命も保証されぬ王都からの危険な旅路においてその言葉は、私キルヒには一条の救いの言葉でございました。
偉大なるホセ総督様とそのご子息が我がヴィンサンダー領に揃われる。
あゝなんと素晴らしい……。
不肖私キルヒが主様のご嫡男のご帰還を今か今かと待ち望んでいたとは、さすがのカーマン様でもお気づきになりますまい」
歯の浮くような口上。
まったく、1ミリの真実味もない言葉。
それは、一般的な思考回路を有した者ならば誰もがこう思っただろう。「口を聞くな、ペテン師め!あっちにいけ」と。
だが‥‥総督のホセ、その息子のカーマンは別だった。
自らが欺瞞の中で生きている親子。
そんな親子に、キルヒの言葉は「忠臣が讃える真実」に映った。
「よう言うたキルヒ!」
「わかってるじゃねぇかキルヒよぉ」
「当たり前でございます。臣たるもの、大恩あるご君主様にお仕えできるだけでも誉れでございますので」
「そうだよ!そうなんだよなキルヒ!」
「はい、そうでございます若様」
ギャハハハハ
ワハハハハハ
わははははは
(((なんたる茶番‥‥)))
極少数が残る、従来からの領都騎士団員が心中で思った。
「さて総督様、総督様1の家臣を自負しておりますキルヒより、今般のドワーフどもの脱走に関しましてご提案がございます」
「申してみいキルヒ」
「おおっ、お聞きいただけますか!
愚策なれど賢王様に献策できるとは、なんたる幸せ。
ゴホン。それでは‥‥」
「我が領都から脱走した不埒なドワーフ並びに逃走の手助けをしたミカサ商会、サンデー商会の愚か者ども。
総督様に仇すことの愚かさを天下に知らしめさねばなりませぬ」
「よってただいまサウザニアにおります領都騎士団員全軍を以て鎮圧にあたらせるものと存じ上げます」
「全軍でかキルヒ!?」
「なに、非番の者どもを領都警備に充てれば問題などありますまい。たかが1日2日のことでありますので。
騎士団も大恩ある総督様のお役に立てるのであれば喜んで働くというもの」
「そ、そうなのか?」
「はい総督様。騎士団全軍には、ご嫡男カーマン様を先頭にお据えしてのご出陣!
これはまさに神話の世界の再現ではありますまいか!
総督様1の家臣、執政官キルヒはこのような愚案をご提案致しますがいかがでしょうか?」
「父上、キルヒの言うとおりだ。
ドワーフどもは圧倒的な武力によって抹殺すべきだ。
よし、俺が全軍率いて行く。いいよな?」
「よう言った!我が息子カーマンよ。愚か者どもに天罰を下してこい」
「よっしゃ。そうこなくっちゃな。じゃあ騎士団長‥‥お前なんていったっけ?」
「マルスと申します。カーマン様」
「じゃあマルス、すぐに準備させろ」
「御意」
「(総督様、まだ1人だけ我が領都に残っておるドワーフがおりますな)」
「(ん?お主が使っておる裏切者のヴァーリか?)」
「(はい。裏切者のヴァーリ。こ奴を使って‥‥)」
―――――――――
【 鍵爪side 】
「ジェイブ来たぞ!」
「てかなんて数だはよ!?騎士団員全部で追ってきてんのかよ!?」
「フランクリン、ゲイル。手筈どおりだ。すぐに馬車を外して離脱するぞ!」
「「おおよ!」」
▼
「冒険者が逃げていきます!」
「マルス騎士団長、追いますか?」
「放っておけ。ドワーフのいる馬車さえ残ればよい」
「「了解です!」」
あっという間にアザリア方面に逃げ去る3騎を彼方に、馬車の周りを二重三重に囲むサウザニア騎士団とカーマン。
「よーし、さっそく俺の剣の錆にしてくれる!お前ら、ドワーフどもを連れてこい!」
「「「ははっ!」」」
ヒヒーーーンッッ!
ヒヒーーーンッッ!
ヒヒーーーンッッ!
馬車に近づこうとした騎士団の馬が皆、その歩みを止めた。
まるでこの先には1歩も進みたくないと拒否するように。
「おい!何やってんだよ!早く連れて来い!」
「は、はいカーマン様。ですがなぜか馬が嫌がって‥‥」
ヒヒーーーンッッ!
「おい!どうした?進め!」
ヒヒーーーンッッ!
ついには背に乗る騎士団を振り落とそうとする馬まで現れた。
ヒヒーーーンッッ!
ヒヒーーーンッッ!
ヒヒーーーンッッ!
「何やってんだよ!ヘタレ騎士団が!
もういい。俺が直接ドワーフを引っ張りだしてやる!」
「ハッ!」
そう言って馬の腹を蹴ったカーマンに。
ヒヒーーーンッッ!
馬車に近づくのを拒絶した馬が背のカーマンを振り落とした。
「う、うわあああぁぁぁぁぁーー!」
ドスンッ!
――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
0
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる