アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

698 サンデー、デニーホッパー村を訪れる(後)

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 翌朝
 サンデーは現アレクの家族、ヨゼフ1家の皆に連れられて湖を観に行った。

 「すごくきれい‥‥」

 本来なら荒涼とした辺境の荒野。樹々も乏しい禿山であるはずなのだが‥‥。

 そこには緑豊かな木々が生い茂り、湖面に豊かな水を湛える生命に溢れた地となっていた。

 「サンデーお姉ちゃん、この池もお兄ちゃんが発現したのよ」

 「この湖のおかげで村の水事情は一変したんですよ」

 「干ばつの時もこの水が村を救ってくれましたし」

 「あのねサンデーお姉ちゃん、ディーディーちゃんが、湖にもウンディーネたちが住んでくれるようになったから、水もきれいなんだって」

 「そうなのね!本当にすごいわ‥‥」


 改めて。アレクは間違いなく歴史に名を残す人物になるであろうと確信するサンデーであった。









 「お世話になりました」

 「サンデーお姉ちゃん、また必ずきてよ」

 「「約束だよ!」」

 「ええ必ずまた来るわね」

 「それでは失礼します」

 「「ばいばーい。またねー」」

 サンデーの乗った馬車にいつまでも手をふるアレクの姉弟と養父母。
 馬車の窓から身を乗り出してそれに応えるサンデー。

 (まさか私がね‥‥フフフ)

 まさか自分が後ろ髪引かれる思いまでするとは。自身の高揚した心にも驚きを隠せないサンデー。それほどまでに心に響く旅となった。

 ただ。

 最後に一言言いたくはないが報告しておかねばなるまい……。

 「神父様、シスターナターシャ。ご歓待に心よりお礼を申し上げます」

 「なに、わしらは何もしとらんよ」

 「ええ、神父様の仰るとおりです」

 「サンデーさんもこんな田舎によい家族ができましたな」

 「はい!」

































 「これほどまでご歓待下さいましたのに最後にたいへん言いづらいことをご報告申しし上げますことをお赦しください」

 「「?」」

 「まずこの村でお世話になっておりましたシルカをこの度、ヴィンランドのサンアレ商会の本店で働かせていただきたく存じます」

 「あら。それは残念だわ。シルカさんは村の誰からも好かれていましたのよ」

 「ありがたいことです。それゆえに‥‥‥‥彼女もまたアレク君同様に心優しくて‥‥‥‥その優しいゆえに私への報告が遅れておりました‥‥」

 「ああ、なるほどね。サンデーさんが伝えたかったのはそういうことね」

 「ええ。シスターのご推察のとおりでございます。さすがは知恵のナターシャ様でございます」

 「遠慮なく言ってくれてかまわんよ。わしも‥‥大まかには想像がついておるがな」

 こくこく
 コクコク

 「サンデーさん、気にせず正直に言ってはくれぬか?」

 「はい‥‥」

 「仰っていただくことがこの村のためですから」

 「わかりました。実は‥‥」




 近年入村してきた村民の子どもたちの万引きは連日のように続いている。
 また大人も同様、飲食を提供する酒場でも近年入村してきた村民の売掛金はその返済も滞っており、その最高金額の者は年を跨いでいると。

 「入村時の支援金として村から支給された金銭を本来の用途に使わず、うちの店の飲食代にされる方々。

 当初は秋の収穫の買取りにあわせたツケ払いも滞る方々。

 シルカが言うにはいずれもこれまでの村の方ではなかったことだそうです」

 「‥‥」

 「‥‥」

 「子どもたちの万引きも同様。ただその金額はたいしたものではありませんが‥‥」









 「どう思うシスターナターシャ?」

 「やはり‥‥根本の意識を含めた村民の分断はもはや取り返しのつかないないところにまできていると考えたほうがよさそうですね」

 こくこく
 コクコク

 「荒地時代を知るデニーホッパー村の初期の入村者たちは、汗水流して稼いだゆえに無駄を厭う。
 じゃが不自由なく暮らせる今に入村してきた者たちは、贅沢を当たり前のことと受け取るか‥‥」

 こくこく
 コクコク

 「子どもの万引きに関しても、これまではシルカも他の従業員も口頭で注意を促していたそうなんですが‥‥」

 「なくならないということですね?」

 「反省なしというわけじゃな」

 こくこく

 「そうじゃの。これは皆を集めてキツく言わねばの。
 ただ‥‥真面目にやっておる村の者たちがどう思うかの。
 真面目に働いておる親の子どもたちから非難されることになるじゃろうの」

 「ええ、おそらくはイジメにもつながるものかと」

 「やはり‥‥」

 「サウザニアのケイト先生からも、村の寮生の間でいじめがあるとの報告もありましたし‥‥」

 「それはあれじゃの。湖の水門を勝手に開いたという」

 「ええ」

 「致し方ないと言わざるを得まいかの‥‥」

 こくこく
 コクコク

 「分断はこの数年明らかでしょう。休日の礼拝に欠かさず来るご家族は従来の村の方々。教会から足が遠のくご家族は新しく入村された方々‥‥」

 「サンデーさん。売掛金が溜まっておる者はいくらくらいかの?」

 「50万Gを超える方も幾人か。中には100万Gになろうかという方も数人と聞いております」

 「「100万!?」」

 「なぜもっと早く‥‥」

 「ええ。そこがシルカの良くない優しさなんでしょう。もちろん私からは今後のツケ払いはお断りする旨は従業員に徹底させましたが」

 「この件、少し預からせてもらっていいかのサンデーさん」

 「もちろんです。ディル神父様」

 「シスターナターシャはどうするのがよいと思うかの?」

 「言いにくいことではありますが、ここは村の役員会議に留めず、全体会議にて皆に状況を知らせるしかないないかと思います」

 「そうじゃの」

 「その上で、サンデーさんへの返済は本人たちに村からの貸付という形になるでしょうね」

 「ふむ」

 「サンデーさん。アレクには言わんでくれ。あやつなら代わりに払うといいかねん」

 「はい」

 「今後に関しても利息を含んでの金銭の貸付はしますが、土地を担保してもらうことになりますね」

 「妥当じゃろうな」

 「ですが神父様、これは以前アレク君にも教えましたので彼もわかっていますが‥‥村の中で格差と分断を生むことになります」

 「それは?」

 「土地を所有し裕福で真面目な村民と、土地を持たず怠惰で不真面目な村民。

 怠惰で不真面目な村民は今所有している土地も無くし、いずれは奴隷となる者まで現れるでしょう。

 裕福な村民からも、中には不真面目な者も現れます。
 それは貴族の発生と同じ。上位の者が下位に不義理を働く。格差と分断が生む人々の軋轢の歴史は繰り返すと申しますから」

 「「‥‥」」

 「歴史は繰り返すか‥‥」

 「心優しいあの子に我慢ができるかの」

 「理想だけで国はできないことを学ぶ時期かもしれませんね」

 「ええ」

 「そうじゃの」

 「あと、それと関連してお2人にはお伝えしておかねばならないことがございます」

 「「ん?」」

 「実は‥‥」



―――――――――――


 ちょっぴり重いお話になってきました。が、後にここが伏線となる事件が起こります。

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