697 / 722
第2章 幼年編
698 サンデー、デニーホッパー村を訪れる(後)
しおりを挟む翌朝
サンデーは現アレクの家族、ヨゼフ1家の皆に連れられて湖を観に行った。
「すごくきれい‥‥」
本来なら荒涼とした辺境の荒野。樹々も乏しい禿山であるはずなのだが‥‥。
そこには緑豊かな木々が生い茂り、湖面に豊かな水を湛える生命に溢れた地となっていた。
「サンデーお姉ちゃん、この池もお兄ちゃんが発現したのよ」
「この湖のおかげで村の水事情は一変したんですよ」
「干ばつの時もこの水が村を救ってくれましたし」
「あのねサンデーお姉ちゃん、ディーディーちゃんが、湖にもウンディーネたちが住んでくれるようになったから、水もきれいなんだって」
「そうなのね!本当にすごいわ‥‥」
改めて。アレクは間違いなく歴史に名を残す人物になるであろうと確信するサンデーであった。
▼
「お世話になりました」
「サンデーお姉ちゃん、また必ずきてよ」
「「約束だよ!」」
「ええ必ずまた来るわね」
「それでは失礼します」
「「ばいばーい。またねー」」
サンデーの乗った馬車にいつまでも手をふるアレクの姉弟と養父母。
馬車の窓から身を乗り出してそれに応えるサンデー。
(まさか私がね‥‥フフフ)
まさか自分が後ろ髪引かれる思いまでするとは。自身の高揚した心にも驚きを隠せないサンデー。それほどまでに心に響く旅となった。
ただ。
最後に一言言いたくはないが報告しておかねばなるまい……。
「神父様、シスターナターシャ。ご歓待に心よりお礼を申し上げます」
「なに、わしらは何もしとらんよ」
「ええ、神父様の仰るとおりです」
「サンデーさんもこんな田舎によい家族ができましたな」
「はい!」
「これほどまでご歓待下さいましたのに最後にたいへん言いづらいことをご報告申しし上げますことをお赦しください」
「「?」」
「まずこの村でお世話になっておりましたシルカをこの度、ヴィンランドのサンアレ商会の本店で働かせていただきたく存じます」
「あら。それは残念だわ。シルカさんは村の誰からも好かれていましたのよ」
「ありがたいことです。それゆえに‥‥‥‥彼女もまたアレク君同様に心優しくて‥‥‥‥その優しいゆえに私への報告が遅れておりました‥‥」
「ああ、なるほどね。サンデーさんが伝えたかったのはそういうことね」
「ええ。シスターのご推察のとおりでございます。さすがは知恵のナターシャ様でございます」
「遠慮なく言ってくれてかまわんよ。わしも‥‥大まかには想像がついておるがな」
こくこく
コクコク
「サンデーさん、気にせず正直に言ってはくれぬか?」
「はい‥‥」
「仰っていただくことがこの村のためですから」
「わかりました。実は‥‥」
近年入村してきた村民の子どもたちの万引きは連日のように続いている。
また大人も同様、飲食を提供する酒場でも近年入村してきた村民の売掛金はその返済も滞っており、その最高金額の者は年を跨いでいると。
「入村時の支援金として村から支給された金銭を本来の用途に使わず、うちの店の飲食代にされる方々。
当初は秋の収穫の買取りにあわせたツケ払いも滞る方々。
シルカが言うにはいずれもこれまでの村の方ではなかったことだそうです」
「‥‥」
「‥‥」
「子どもたちの万引きも同様。ただその金額はたいしたものではありませんが‥‥」
「どう思うシスターナターシャ?」
「やはり‥‥根本の意識を含めた村民の分断はもはや取り返しのつかないないところにまできていると考えたほうがよさそうですね」
こくこく
コクコク
「荒地時代を知るデニーホッパー村の初期の入村者たちは、汗水流して稼いだゆえに無駄を厭う。
じゃが不自由なく暮らせる今に入村してきた者たちは、贅沢を当たり前のことと受け取るか‥‥」
こくこく
コクコク
「子どもの万引きに関しても、これまではシルカも他の従業員も口頭で注意を促していたそうなんですが‥‥」
「なくならないということですね?」
「反省なしというわけじゃな」
こくこく
「そうじゃの。これは皆を集めてキツく言わねばの。
ただ‥‥真面目にやっておる村の者たちがどう思うかの。
真面目に働いておる親の子どもたちから非難されることになるじゃろうの」
「ええ、おそらくはイジメにもつながるものかと」
「やはり‥‥」
「サウザニアのケイト先生からも、村の寮生の間でいじめがあるとの報告もありましたし‥‥」
「それはあれじゃの。湖の水門を勝手に開いたという」
「ええ」
「致し方ないと言わざるを得まいかの‥‥」
こくこく
コクコク
「分断はこの数年明らかでしょう。休日の礼拝に欠かさず来るご家族は従来の村の方々。教会から足が遠のくご家族は新しく入村された方々‥‥」
「サンデーさん。売掛金が溜まっておる者はいくらくらいかの?」
「50万Gを超える方も幾人か。中には100万Gになろうかという方も数人と聞いております」
「「100万!?」」
「なぜもっと早く‥‥」
「ええ。そこがシルカの良くない優しさなんでしょう。もちろん私からは今後のツケ払いはお断りする旨は従業員に徹底させましたが」
「この件、少し預からせてもらっていいかのサンデーさん」
「もちろんです。ディル神父様」
「シスターナターシャはどうするのがよいと思うかの?」
「言いにくいことではありますが、ここは村の役員会議に留めず、全体会議にて皆に状況を知らせるしかないないかと思います」
「そうじゃの」
「その上で、サンデーさんへの返済は本人たちに村からの貸付という形になるでしょうね」
「ふむ」
「サンデーさん。アレクには言わんでくれ。あやつなら代わりに払うといいかねん」
「はい」
「今後に関しても利息を含んでの金銭の貸付はしますが、土地を担保してもらうことになりますね」
「妥当じゃろうな」
「ですが神父様、これは以前アレク君にも教えましたので彼もわかっていますが‥‥村の中で格差と分断を生むことになります」
「それは?」
「土地を所有し裕福で真面目な村民と、土地を持たず怠惰で不真面目な村民。
怠惰で不真面目な村民は今所有している土地も無くし、いずれは奴隷となる者まで現れるでしょう。
裕福な村民からも、中には不真面目な者も現れます。
それは貴族の発生と同じ。上位の者が下位に不義理を働く。格差と分断が生む人々の軋轢の歴史は繰り返すと申しますから」
「「‥‥」」
「歴史は繰り返すか‥‥」
「心優しいあの子に我慢ができるかの」
「理想だけで国はできないことを学ぶ時期かもしれませんね」
「ええ」
「そうじゃの」
「あと、それと関連してお2人にはお伝えしておかねばならないことがございます」
「「ん?」」
「実は‥‥」
―――――――――――
ちょっぴり重いお話になってきました。が、後にここが伏線となる事件が起こります。
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる