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コンクールの二人
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「本気ではない訳でもないんやけど、今度のコンクールは今一つ……と言うか、コンクール自体がどうでも良いというか……。冴子が出る最後のピアノコンクールやからね」
「だから?」
レーシーはどうでも良さそうな気怠い顔で相槌を打っていた。
その表情にちょっとむかつきながらも
「義務感だけで出るのかもしれない……それ以外にこのコンクールに参加する意味を見出していない」
と僕は答えた。
「ふぅん。それって冴子に分からないとでも?」
「え?」
僕はハッとしてレーシーを見つめた。
レーシーはピアノ蓋に立ったまま僕を見下ろして
「亮平が譜面通りやる気もなく適当に弾いているのを冴子は分からないと思っているのか? と聞いている」
と表情も変えずに聞いてきた。
「やる気が無い訳でもないけど……いや、絶対に分かると思う」
僕の頭の中には冴子が憤っている場面がありありと浮かんでいた。
――なんなのさぁ! あんたやる気ホンマにあんの?――
と、怒り狂っている冴子の姿が見えた。間違いなく彼女は憤りながらそう言うだろう。もしかしたら蹴りの一つぐらいは貰いかねない。
「だったら冴子の最後のコンクールに本当のあんたの音を聞かせてあげる気はないの? 聞かせずに終わらせるつもり? このまま適当に弾いて終わるつもり?」
レーシーは一気にまくし立てる様に聞いてきた。
「あ!」
そうだった。僕は冴子の本気のピアノの音を聞きたいと楽しみにしてはいたが、冴子が僕の音をどう思っているのかなんて全く考えてもいなかった。
冴子が何故『コンクールで待つ』と言ったのか、その意味さえも考えていなかった。
「あ! って……本当に自分の事しか考えとらんな。こいつ……」
とレーシーは憎々し気に僕を見下ろして吐き捨てるように言った。挙句の果てに『こいつ』呼ばわりまでされてしまった。でもそれは仕方ないな。本当に自分の事しか……いや、うかつにも何も考えていなかった。考える事を放棄していた。
「ごめんなさい……本当にそうやった。口では冴子の最後のコンクールと言うとったけど、それがどういう事なのかを本当には理解してなかったわ……」
僕はレーシーに素直に謝った。
レーシーに指摘されるまで僕は全然気が付いていなかった。今までずっと僕の音を聞いてきた冴子にそれが分からない訳が無いという当たり前の事を。
そして冴子の最後のコンクールという事を簡単に考え過ぎていた。本当に自分の事しか考えていなかった。
レーシーに指摘されなければ、僕はこのまま適当に演奏してお茶を濁して終わりかねなかった。
あの冴子の事だ、最後のコンクールに手を抜くなんて考えられない。間違いなく予選の一位通過を狙ってきているはずだ。僕はそれを楽しみにしていたんじゃないのか? そんな相手に適当な『予選さえ通過できれば良いですよ』なんて演奏をすればどうなるか……そんな当たり前の事も分かっていなかった。
背筋に冷たい汗を感じた。
僕は冴子の気持ちを踏みにじろうとしていたのかもしれない。多分彼女は僕に罵声を浴びせ倒した後はいつもの冴子だろうけど、間違いなく『この程度の感性しかない男だ』と見限られていただろう。
無意識に人の気持ちを裏切ろうとしていた。そんな自分の脇の甘さに僕はぞっとしていた。
――ここでそんな適当な演奏をして万が一予選通過も出来なかったら、僕は冴子に一生見下されただろう――
危ないところだった。
「分かればよろしい」
レーシーは満足したような表情で頷いた。
「流石に何百年も生きていないな」
そう言いながらも僕はレーシーに感謝していた。流石は何百年も世の中を眺めてきた妖精だ。
「当たり前よ。亮平とは年季が違うわ」
見た目は幼児体形の妖精は本当は僕の人生の十倍以上も生きている。教えられることは多い。でも、ちょっと悔しい。
前言を撤回したくなった。
「だから?」
レーシーはどうでも良さそうな気怠い顔で相槌を打っていた。
その表情にちょっとむかつきながらも
「義務感だけで出るのかもしれない……それ以外にこのコンクールに参加する意味を見出していない」
と僕は答えた。
「ふぅん。それって冴子に分からないとでも?」
「え?」
僕はハッとしてレーシーを見つめた。
レーシーはピアノ蓋に立ったまま僕を見下ろして
「亮平が譜面通りやる気もなく適当に弾いているのを冴子は分からないと思っているのか? と聞いている」
と表情も変えずに聞いてきた。
「やる気が無い訳でもないけど……いや、絶対に分かると思う」
僕の頭の中には冴子が憤っている場面がありありと浮かんでいた。
――なんなのさぁ! あんたやる気ホンマにあんの?――
と、怒り狂っている冴子の姿が見えた。間違いなく彼女は憤りながらそう言うだろう。もしかしたら蹴りの一つぐらいは貰いかねない。
「だったら冴子の最後のコンクールに本当のあんたの音を聞かせてあげる気はないの? 聞かせずに終わらせるつもり? このまま適当に弾いて終わるつもり?」
レーシーは一気にまくし立てる様に聞いてきた。
「あ!」
そうだった。僕は冴子の本気のピアノの音を聞きたいと楽しみにしてはいたが、冴子が僕の音をどう思っているのかなんて全く考えてもいなかった。
冴子が何故『コンクールで待つ』と言ったのか、その意味さえも考えていなかった。
「あ! って……本当に自分の事しか考えとらんな。こいつ……」
とレーシーは憎々し気に僕を見下ろして吐き捨てるように言った。挙句の果てに『こいつ』呼ばわりまでされてしまった。でもそれは仕方ないな。本当に自分の事しか……いや、うかつにも何も考えていなかった。考える事を放棄していた。
「ごめんなさい……本当にそうやった。口では冴子の最後のコンクールと言うとったけど、それがどういう事なのかを本当には理解してなかったわ……」
僕はレーシーに素直に謝った。
レーシーに指摘されるまで僕は全然気が付いていなかった。今までずっと僕の音を聞いてきた冴子にそれが分からない訳が無いという当たり前の事を。
そして冴子の最後のコンクールという事を簡単に考え過ぎていた。本当に自分の事しか考えていなかった。
レーシーに指摘されなければ、僕はこのまま適当に演奏してお茶を濁して終わりかねなかった。
あの冴子の事だ、最後のコンクールに手を抜くなんて考えられない。間違いなく予選の一位通過を狙ってきているはずだ。僕はそれを楽しみにしていたんじゃないのか? そんな相手に適当な『予選さえ通過できれば良いですよ』なんて演奏をすればどうなるか……そんな当たり前の事も分かっていなかった。
背筋に冷たい汗を感じた。
僕は冴子の気持ちを踏みにじろうとしていたのかもしれない。多分彼女は僕に罵声を浴びせ倒した後はいつもの冴子だろうけど、間違いなく『この程度の感性しかない男だ』と見限られていただろう。
無意識に人の気持ちを裏切ろうとしていた。そんな自分の脇の甘さに僕はぞっとしていた。
――ここでそんな適当な演奏をして万が一予選通過も出来なかったら、僕は冴子に一生見下されただろう――
危ないところだった。
「分かればよろしい」
レーシーは満足したような表情で頷いた。
「流石に何百年も生きていないな」
そう言いながらも僕はレーシーに感謝していた。流石は何百年も世の中を眺めてきた妖精だ。
「当たり前よ。亮平とは年季が違うわ」
見た目は幼児体形の妖精は本当は僕の人生の十倍以上も生きている。教えられることは多い。でも、ちょっと悔しい。
前言を撤回したくなった。
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