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さよならコンサート
卒部式
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そして僕達は今音楽室にいる。
演奏会が終わってからは器楽部だけの卒部式が始まる。
一年生が手際よく机を並べ替えて、またそのいくつかをくっ付けてたりして、その上に飲み物やらお菓子類を並べた。おかげでそれなりに卒部式の会場らしくなっていた。
今回卒部する三年生は三名だけだ。
彩音さんの両サイドは瑞穂と冴子が陣取っていた。彼女ら二人からすれば彩音さんは神様みたいなもんなんだろう。隠れ彩音ファンの冴子だが、今日は全く隠していなかった。
僕は千龍さんの向かいの席に座った。本当は僕も彩音さんと同じテーブルに行きたかったが、既に女子生徒様専用状態になっていて、そこに足を踏み入れる勇気は芥子粒程も無かった。
美奈子先生と谷端先生も卒部式には出席してくれていたが、どちらかと言えばニコニコ笑いながら僕たちが好きかってやっている事を見守ってくれているような感じだった。
卒部会が始まって暫くして僕が千龍さんと話をしていると、そこに彩音さんが入ってきた。
千龍さんが彩音さんに向かって
「お前と亮平の演奏、良かったわぁ。なんか震えたわ」
と言った。
「ホンマに? ありがとう」
と言って彩音さんは笑った。
僕は慌てて立ち上がって彩音さんに席を譲ろうとしたが、彩音さんはそれを制して手近にあった空いた椅子を持ってきて僕の横に座った。
「いや、なんていうのかなぁ。彩音のヴァイオリンってあんなにシビアな音を出しとたっけ?」
と千龍さんは意外そうな顔で聞いた。
「う~ん。あれかぁ……あれねぇ……」
と彩音さんはそう言うと考え込むように首を傾げた。
そして
「実はね。最初の音合わせの時ね……私は亮平君がソリストだと思っていたから、どんな演奏をしてくれるのかと楽しみにしていたん」
と言って僕の顔を冷ややかな横目で一瞥した。
「済みません。くだらん伴奏をして……」
と僕はこれから続く話の先が読めてしまったので、すかさず謝った。
彩音さんは
「今更謝っても遅~い!」
と僕の顔を覗き込むようにして笑った。
「何があったんや?」
千龍さんは不思議そうな顔をして聞き返した。
「うん。亮平君は私に合わそうとソリストだというのをかなぐり捨てて、とっても良い伴奏をしてくれたん」
「ほほぉ。亮平がねぇ……それはそれで聞きたかったけど、それのどこがくだらん演奏なんや?」
と千龍さんは興味津々という顔で僕を見た。
僕は
「いや……とっても失礼な……」
と言いながらそれ以上言葉が続かずに俯いて誤魔化した。
「亮平君は何も悪くはないんやけどね。ただ私が想像していた音ではなかった……本当はね、もっとガンと絡んでほしかったんやけどね。で、演奏曲目を替えて『ミシミシ』にしたん」
と彩音さんは僕を庇うように言った。
「ふぅん。なんとなく想像つくわ。彩音はそういうの拘るからなぁ……で、そこから亮平は彩音にボコボコにされたんかなぁ?」
と今度は千龍さんが笑いながら僕の顔を覗き込んだ。本当に楽しそうに笑う。
「いえ、そんな事は無かったです」
と僕は小さい声で応えた。なんだか笑いながら詰められているような気がしていた。
「ううん。亮平君はやり直しの『ミシミシ』で一発で合わせてくれたよ。今度は私の音を聞いてすぐに欲しい音をだしてくれたんよ……と言うか予想以上の音を出してくれたん。最初は『まだ抑えめで来ているのかな』とか思っていたんやけど、じわじわと亮平君の企みが伝わって来たん……」
と彩音さんはその時の演奏を思い出すように語った。
「ホンマに凄いと思ったわ。それを聞いて私のこの曲に対するイメージが吹き飛んだし……空気が変わったような気がしたもん」
と言いながら僕を見て何度か軽く頷いた。まるでその時の事を思い出して確かめ直しているかのように。
僕もあの時の事を思い出していた。彩音さんのヴァイオリンに対してどんな音の粒を出せばいいのか?……あの狂気さえ感じる出だしのヴァイオリンの音に対して、僕はわざと抑え気味の音の粒を出した。しかしそれはただ単に音の大きさを抑えたのでは意味はない。確実にヴァイオリンに負けてしまう。それでは彩音さんがわざわざ演奏曲を変えた意味がない。小手先で調整するような安易な音ではなく、ちゃんと鍵盤がもつ音の重みは殺さぬように出した。
小手先で音の調整をするのではなく、ちゃんと弾き切った指の落し方を極限まで意識して弾いた。
これほどピアノの持つ音の力を最大限に引き出すことを意識して弾いたのはこの時が初めてだった。
そんな事を思い出しながら僕は彩音さんの言葉を聞いていた。
演奏会が終わってからは器楽部だけの卒部式が始まる。
一年生が手際よく机を並べ替えて、またそのいくつかをくっ付けてたりして、その上に飲み物やらお菓子類を並べた。おかげでそれなりに卒部式の会場らしくなっていた。
今回卒部する三年生は三名だけだ。
彩音さんの両サイドは瑞穂と冴子が陣取っていた。彼女ら二人からすれば彩音さんは神様みたいなもんなんだろう。隠れ彩音ファンの冴子だが、今日は全く隠していなかった。
僕は千龍さんの向かいの席に座った。本当は僕も彩音さんと同じテーブルに行きたかったが、既に女子生徒様専用状態になっていて、そこに足を踏み入れる勇気は芥子粒程も無かった。
美奈子先生と谷端先生も卒部式には出席してくれていたが、どちらかと言えばニコニコ笑いながら僕たちが好きかってやっている事を見守ってくれているような感じだった。
卒部会が始まって暫くして僕が千龍さんと話をしていると、そこに彩音さんが入ってきた。
千龍さんが彩音さんに向かって
「お前と亮平の演奏、良かったわぁ。なんか震えたわ」
と言った。
「ホンマに? ありがとう」
と言って彩音さんは笑った。
僕は慌てて立ち上がって彩音さんに席を譲ろうとしたが、彩音さんはそれを制して手近にあった空いた椅子を持ってきて僕の横に座った。
「いや、なんていうのかなぁ。彩音のヴァイオリンってあんなにシビアな音を出しとたっけ?」
と千龍さんは意外そうな顔で聞いた。
「う~ん。あれかぁ……あれねぇ……」
と彩音さんはそう言うと考え込むように首を傾げた。
そして
「実はね。最初の音合わせの時ね……私は亮平君がソリストだと思っていたから、どんな演奏をしてくれるのかと楽しみにしていたん」
と言って僕の顔を冷ややかな横目で一瞥した。
「済みません。くだらん伴奏をして……」
と僕はこれから続く話の先が読めてしまったので、すかさず謝った。
彩音さんは
「今更謝っても遅~い!」
と僕の顔を覗き込むようにして笑った。
「何があったんや?」
千龍さんは不思議そうな顔をして聞き返した。
「うん。亮平君は私に合わそうとソリストだというのをかなぐり捨てて、とっても良い伴奏をしてくれたん」
「ほほぉ。亮平がねぇ……それはそれで聞きたかったけど、それのどこがくだらん演奏なんや?」
と千龍さんは興味津々という顔で僕を見た。
僕は
「いや……とっても失礼な……」
と言いながらそれ以上言葉が続かずに俯いて誤魔化した。
「亮平君は何も悪くはないんやけどね。ただ私が想像していた音ではなかった……本当はね、もっとガンと絡んでほしかったんやけどね。で、演奏曲目を替えて『ミシミシ』にしたん」
と彩音さんは僕を庇うように言った。
「ふぅん。なんとなく想像つくわ。彩音はそういうの拘るからなぁ……で、そこから亮平は彩音にボコボコにされたんかなぁ?」
と今度は千龍さんが笑いながら僕の顔を覗き込んだ。本当に楽しそうに笑う。
「いえ、そんな事は無かったです」
と僕は小さい声で応えた。なんだか笑いながら詰められているような気がしていた。
「ううん。亮平君はやり直しの『ミシミシ』で一発で合わせてくれたよ。今度は私の音を聞いてすぐに欲しい音をだしてくれたんよ……と言うか予想以上の音を出してくれたん。最初は『まだ抑えめで来ているのかな』とか思っていたんやけど、じわじわと亮平君の企みが伝わって来たん……」
と彩音さんはその時の演奏を思い出すように語った。
「ホンマに凄いと思ったわ。それを聞いて私のこの曲に対するイメージが吹き飛んだし……空気が変わったような気がしたもん」
と言いながら僕を見て何度か軽く頷いた。まるでその時の事を思い出して確かめ直しているかのように。
僕もあの時の事を思い出していた。彩音さんのヴァイオリンに対してどんな音の粒を出せばいいのか?……あの狂気さえ感じる出だしのヴァイオリンの音に対して、僕はわざと抑え気味の音の粒を出した。しかしそれはただ単に音の大きさを抑えたのでは意味はない。確実にヴァイオリンに負けてしまう。それでは彩音さんがわざわざ演奏曲を変えた意味がない。小手先で調整するような安易な音ではなく、ちゃんと鍵盤がもつ音の重みは殺さぬように出した。
小手先で音の調整をするのではなく、ちゃんと弾き切った指の落し方を極限まで意識して弾いた。
これほどピアノの持つ音の力を最大限に引き出すことを意識して弾いたのはこの時が初めてだった。
そんな事を思い出しながら僕は彩音さんの言葉を聞いていた。
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