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ヴォーカリストとギタリスト
軽音楽部のライブ
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GW明けに僕は拓哉と哲也と三人で軽音楽部の定期ライブを観に行った。当日二人にこの話をすると躊躇なく『一緒に行く』と彼らは言った。
場所は別館と呼ばれる校舎にある小ホールだった。
この小ホールは百人も客席に座れば満杯になりそうな小さなホールで、観客のほとんどは軽音楽部の部員だった。
今日のライブは六組のバンドが演奏し、翔たちのバンドはお約束のように最後の大トリだった。やはり部長が所属するバンドはそうなるのか?
――ふん! 気に食わんな――
そんな事を思いながら客席で翔たちの出番を待っていると、僕は翔に手招きされて舞台に呼ばれた。
舞台には翔しかいない。
ドラムセットもマーシャルのギターアンプもセットしたままなのに翔以外誰も居ない。
他の面子はどうしたんだ? と訝しがりながらも僕は彼の横に立った。
客席を見渡すと観客数が増えていた。どうやら軽音楽部以外の翔たちのファンも観に来たらしい。
ライブハウスでそれなりに集客ができているというのは、あながち嘘ではないようだ。
僕が客席を見回しながらそんな事を思ていると、翔が突然客席に向かって
「皆さん! 今日はあの天才ピアニストの藤崎亮平君が来てくれました!」
と叫んだ。
その瞬間嫌な予感がした。そしてそれは次のひとことで一瞬で確信に変わった。
「その彼にここでピアノを一曲弾いて貰おうと思うのですがどうでしょうか?」
ホールは拍手と歓声に包まれた。明らかにこれは仕込まれている……そう思わざるを得ない大歓声だった。
――わざとらしい拍手をしやがって。もしかして俺は翔にはめられたか?――
と僕は悟った。
翔は僕の耳元で小声で
「なんでもええからな。好きなん弾いてよ」
と笑いながら言った。
「ここで弾くなんて聞いてないぞ」
「ここに来て何もなく終わるわけないやん」
とどこ吹く風のごとく翔はうそぶいた。
客席で哲也も拓哉も事の成り行きを見て楽しそうに笑っている。彼らからしたら完全に他人事だ。
「ふん!」
僕は横目でちらっと翔の顔を見たが、意味ありげな笑顔を見せて舞台から降りて行った。それは他にまだ何か企みがありそうな予感を残して。
――この薄ら笑いが気に入らんな――
そう思いながらも僕は腹を括ってピアノの前に座った。このホールのグランドピアノを弾くのも久しぶりだ。人前で弾くのは嫌いではない。ただ何の練習も心の準備もできていなかったが気にかかる。
何を弾くか……
翔の顔を見て思い浮かんだ曲があった。
「よし」
軽く深呼吸をすると僕は鍵盤に指を落とした。
ホールに軽やかな旋律が流れる。
僕が弾いた曲はモーツァルトのトルコ行進曲だ。
正確にはピアノソナタ第11番 K. 331 第3楽章 イ短調―イ長調 4分の2拍子 トルコ行進曲
この有名すぎるぐらい有名な曲であれば誰もが知っているだろう。
イ短調のあまりにも有名すぎる旋律を僕は軽やかに弾いた。
ハ長調による三度の重音から始まる動機がイ長調による軍楽行進曲風の旋律に変わる刹那、僕は曲調をがらりと変えてJAZZ風に弾きだした。
それはただ単にクラシック音楽を弾いただけではあまりにも味気ないと思ったからだったが、この曲はそう言うお遊びがとっても良く似合う。
このコンサートなら普通に弾くよりこれの方が受けると思った。
このさほど広くもないホールでは観客の反応はすぐに分かる。
思惑通りに反応は悪くない。
ここで観ている軽音楽部の部員も、同じ演奏者としてこういう変化球は嫌いではないのだろう。
僕が気分よく一気に終わりまで駆け上がろうとしたその刹那、ホールにギブソンのソリッドギターの音が僕のピアノの音の粒に被さる様に響いた。
場所は別館と呼ばれる校舎にある小ホールだった。
この小ホールは百人も客席に座れば満杯になりそうな小さなホールで、観客のほとんどは軽音楽部の部員だった。
今日のライブは六組のバンドが演奏し、翔たちのバンドはお約束のように最後の大トリだった。やはり部長が所属するバンドはそうなるのか?
――ふん! 気に食わんな――
そんな事を思いながら客席で翔たちの出番を待っていると、僕は翔に手招きされて舞台に呼ばれた。
舞台には翔しかいない。
ドラムセットもマーシャルのギターアンプもセットしたままなのに翔以外誰も居ない。
他の面子はどうしたんだ? と訝しがりながらも僕は彼の横に立った。
客席を見渡すと観客数が増えていた。どうやら軽音楽部以外の翔たちのファンも観に来たらしい。
ライブハウスでそれなりに集客ができているというのは、あながち嘘ではないようだ。
僕が客席を見回しながらそんな事を思ていると、翔が突然客席に向かって
「皆さん! 今日はあの天才ピアニストの藤崎亮平君が来てくれました!」
と叫んだ。
その瞬間嫌な予感がした。そしてそれは次のひとことで一瞬で確信に変わった。
「その彼にここでピアノを一曲弾いて貰おうと思うのですがどうでしょうか?」
ホールは拍手と歓声に包まれた。明らかにこれは仕込まれている……そう思わざるを得ない大歓声だった。
――わざとらしい拍手をしやがって。もしかして俺は翔にはめられたか?――
と僕は悟った。
翔は僕の耳元で小声で
「なんでもええからな。好きなん弾いてよ」
と笑いながら言った。
「ここで弾くなんて聞いてないぞ」
「ここに来て何もなく終わるわけないやん」
とどこ吹く風のごとく翔はうそぶいた。
客席で哲也も拓哉も事の成り行きを見て楽しそうに笑っている。彼らからしたら完全に他人事だ。
「ふん!」
僕は横目でちらっと翔の顔を見たが、意味ありげな笑顔を見せて舞台から降りて行った。それは他にまだ何か企みがありそうな予感を残して。
――この薄ら笑いが気に入らんな――
そう思いながらも僕は腹を括ってピアノの前に座った。このホールのグランドピアノを弾くのも久しぶりだ。人前で弾くのは嫌いではない。ただ何の練習も心の準備もできていなかったが気にかかる。
何を弾くか……
翔の顔を見て思い浮かんだ曲があった。
「よし」
軽く深呼吸をすると僕は鍵盤に指を落とした。
ホールに軽やかな旋律が流れる。
僕が弾いた曲はモーツァルトのトルコ行進曲だ。
正確にはピアノソナタ第11番 K. 331 第3楽章 イ短調―イ長調 4分の2拍子 トルコ行進曲
この有名すぎるぐらい有名な曲であれば誰もが知っているだろう。
イ短調のあまりにも有名すぎる旋律を僕は軽やかに弾いた。
ハ長調による三度の重音から始まる動機がイ長調による軍楽行進曲風の旋律に変わる刹那、僕は曲調をがらりと変えてJAZZ風に弾きだした。
それはただ単にクラシック音楽を弾いただけではあまりにも味気ないと思ったからだったが、この曲はそう言うお遊びがとっても良く似合う。
このコンサートなら普通に弾くよりこれの方が受けると思った。
このさほど広くもないホールでは観客の反応はすぐに分かる。
思惑通りに反応は悪くない。
ここで観ている軽音楽部の部員も、同じ演奏者としてこういう変化球は嫌いではないのだろう。
僕が気分よく一気に終わりまで駆け上がろうとしたその刹那、ホールにギブソンのソリッドギターの音が僕のピアノの音の粒に被さる様に響いた。
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