契約結婚！一発逆転マニュアル♡

第三章

手駒の足音

遥翔が帰ってこれたのは、午前一時過ぎであった。

もっと早くに返ってくる予定であったにもかかわらず、なかなか帰してもらえなかったのだ。

誰しも遥翔が結婚したという事実を信じる事ができなかったのだ。

あの冷徹な遥翔に結婚という決断をさせた女性がどんな人間なのか。

全員の興味はそこにあった。

数えきれないほどの質問と、何度も聞かされる『信じられない』という言葉。

こんなくだらない時間を過ごすとわかっていたら、今日この場になど来なかった。

依舞稀と一緒に家に帰り、二人で夕食を作り、一緒にお風呂に入って、依舞稀を抱いて程よく疲れたところで眠る。

それが最近の遥翔のルーティーンだったというのに。

家に帰ると当然のことながら、依舞稀はベッドですやすやと眠っていた。

すべすべの頬にかかった髪をするりとよけると、依舞稀の眉がピクリと動く。

たったそれだけのことのなのに、遥翔にはとても可愛く見えてしまう。

今まであったどの女性よりも美しく可愛く、そして愛おしい。

誰かと共に生活をするなんて、考える事もできなかった。

誠之助に愛妻家になれと言われた時は、もう一生社長になれないかもしれないと思った。

まさか本当に自分が愛妻家になれるとは思いもしなかったのだ。

それもこれも全て、依舞稀と出会ってから変わった。

「一生かけて幸せにするからな」

遥翔は依舞稀の頬に、そっと優しくキスをした。

「愛してるよ」

この日遥翔は、生まれて初めての言葉を口にしたのだった。