純真~こじらせ初恋の攻略法~

伊吹美香

文字の大きさ
71 / 198
episode 2

望まぬ再会

しおりを挟む
手首を掴まれたまま、引き摺られるように歩いていた私は、藤瀬くんの手を引き返して無理やり足を止めた。

「いい加減にしてっ」

キッと睨みつけてみたが、酔いが回ってとろんとした目では、睨みなど効くはずもなかった。

「みんなの前であんなこと言うなんて……おかしい」

昔のことはキッパリと否定したくせに、どうしてあんなこと言ったのか。

私には到底理解できるものではなかった。

「全くの無関係だと言えばよかったのか?」

「自分が初めにそう言ったんじゃないですか」

ぷいっと顔を背けてそう言うと、藤瀬くんは私の気持ちとは裏腹にクスリと笑った。

「そうやって膨れるところ……変わらないな」

懐かしそうに呟く藤瀬くんは、私をどんな目で見ているんだろう。

「変わらない人間なんていません」

どんなに変わりたくないと思っていても。

どんなに変わって欲しくないと思っていても。

人は必ず変わってしまうものだ。

だからあなたも、私から離れていったんでしょう?

「そうだな……」

まるで心の声に答えを出されたかのような藤瀬くんの言葉は、私の胸を深く抉った。

「私はタクシーで帰ります。藤瀬さんはおひとりでどうぞ」

早くこの場から去ってしまいたくてそう言ったのだが、藤瀬くんは瞬時に私の手を握った。

「茉莉香……」

不意にそう呼ばれて、私の身体は震える。

名前を……あの頃みたいに名前を呼ばれただけで、立っていられなくなるほど力が抜けそうだ。

けれど。

「藤瀬さん」

私は敢えて二人の間に線を引くようにそう呼んだ。

「過去は過去です。私は今、藤瀬さんのアシスタントという形でここにいます」

より以上に踏み込まないでくれ、と。

私は彼にそう言った。

「橘さんがそのつもりならそれでいい。俺は遠慮するつもりはないから覚悟しとけよ」

「……よろしくお願いします」

私は藤瀬くんに一礼して、通りかかったタクシーを止め、急いで乗り込んだ。

あれ以上一緒にいたら、色んな意味で私はダメになる。

仕事で何があろうとも、もとより覚悟の上だ。

藤瀬くんの言葉に奮起し、私は流れる景色を眺めたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

久我くん、聞いてないんですけど?!

桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚 相手はキモいがお金のため 私の人生こんなもの そう思っていたのに… 久我くん! あなたはどうして こんなにも私を惑わせるの? ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。 同じ頃、職場で 新入社員の担当指導者を命じられる。 4歳も年下の男の子。 恋愛対象になんて、なる訳ない。 なのに…?

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...