116 / 198
episode 4
変わる関係
しおりを挟む
震える指を拳を握りしめることで堪える。
通話ボタンをスライドすると、瞬時に『茉莉香っ!』と藤瀬くんの声が聞こえてきた。
先程までの感情が嘘のように消えて、逆に胸がキュッと締め付けられる。
それと同時に、安心感が胸いっぱいに広がって、先程までの恐怖心が一気に緩和されていく。
いつのまに、こんなにも藤瀬くんのことが好きになっていたのか。
今までにないくらい、私はこの声を愛おしく感じた。
「藤瀬くん……」
名前を呼ぶと目頭が熱くなり、ポロポロと涙が次から次に零れ落ちてくる。
『湯川のヤローはどうした?もう大丈夫なのか?』
「さっき部屋から出てった……。大丈夫、何もされてないから……」
涙も止める事ができないくせに、こんな風に強がってしまうところが可愛げのないところだとわかってはいるんだ。
けれど心とは裏腹に、まだ藤瀬くんには素直になり切れない。
『ごめんな……何もしてやれなくて』
深く低く、藤瀬くんは一言そう言った。
「どうして藤瀬くんが謝るの?関係ないのに」
思わず口に出してしまった言葉に、藤瀬くんが『関係ないなんて言うなっ』と声を荒げたものだから、驚きと同時に涙も止まってしまった。
『俺は……関係ないなんて思ったこと、ないから』
「藤瀬くん……」
ダメだ。
今そんな風に優しい言葉を掛けられたら、せっかく止まった涙が再び溢れてしまうじゃないか。
『泣くほどの何かがあったんだろ?こんな時に強がるなよ』
藤瀬くんの言葉が心に沁みて、私は子どもの様にすすり泣いてしまった。
『ごめんな、側にいてやれなくて』
『一人にしてごめんな』
『胸を貸してやれなくてごめんな』
『すぐにでも飛んで行ってやれなくてごめんな』
藤瀬くんは何度も何度もそう言って、私が落ち着きを取り戻すまで声を掛け続けてくれた。
思う存分泣かせてくれた藤瀬くんから、一生分の『ごめん』を聞いた気がして、私は湯川さんのことも、そして私と藤瀬くんの過去の事も、全てが涙と一緒に流れ落ちた気がしていた……。
通話ボタンをスライドすると、瞬時に『茉莉香っ!』と藤瀬くんの声が聞こえてきた。
先程までの感情が嘘のように消えて、逆に胸がキュッと締め付けられる。
それと同時に、安心感が胸いっぱいに広がって、先程までの恐怖心が一気に緩和されていく。
いつのまに、こんなにも藤瀬くんのことが好きになっていたのか。
今までにないくらい、私はこの声を愛おしく感じた。
「藤瀬くん……」
名前を呼ぶと目頭が熱くなり、ポロポロと涙が次から次に零れ落ちてくる。
『湯川のヤローはどうした?もう大丈夫なのか?』
「さっき部屋から出てった……。大丈夫、何もされてないから……」
涙も止める事ができないくせに、こんな風に強がってしまうところが可愛げのないところだとわかってはいるんだ。
けれど心とは裏腹に、まだ藤瀬くんには素直になり切れない。
『ごめんな……何もしてやれなくて』
深く低く、藤瀬くんは一言そう言った。
「どうして藤瀬くんが謝るの?関係ないのに」
思わず口に出してしまった言葉に、藤瀬くんが『関係ないなんて言うなっ』と声を荒げたものだから、驚きと同時に涙も止まってしまった。
『俺は……関係ないなんて思ったこと、ないから』
「藤瀬くん……」
ダメだ。
今そんな風に優しい言葉を掛けられたら、せっかく止まった涙が再び溢れてしまうじゃないか。
『泣くほどの何かがあったんだろ?こんな時に強がるなよ』
藤瀬くんの言葉が心に沁みて、私は子どもの様にすすり泣いてしまった。
『ごめんな、側にいてやれなくて』
『一人にしてごめんな』
『胸を貸してやれなくてごめんな』
『すぐにでも飛んで行ってやれなくてごめんな』
藤瀬くんは何度も何度もそう言って、私が落ち着きを取り戻すまで声を掛け続けてくれた。
思う存分泣かせてくれた藤瀬くんから、一生分の『ごめん』を聞いた気がして、私は湯川さんのことも、そして私と藤瀬くんの過去の事も、全てが涙と一緒に流れ落ちた気がしていた……。
0
あなたにおすすめの小説
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
高塚くんの愛はとっても重いらしい
橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。
「どこに隠れていたの?」
そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。
その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。
この関係は何?
悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。
高塚くんの重愛と狂愛。
すれ違いラブ。
見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。
表紙イラストは友人のkouma.作です。
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる