Perverse second

伊吹美香

文字の大きさ
156 / 196
episode 6

決着

しおりを挟む
会社に戻り一人でエレベーターに乗り込み階数を押すと、俺は壁に背中をあずけた。



暫くすると途中で止まり、ドアが開く。



「あ」



「あ」



そこに立っていたのは、ご褒美を渡すべき相手、三崎だった。



「お疲れ」



笑みを浮かべて三崎の顔色を伺うと、「お疲れ様」と三崎は晴れ晴れしく笑って乗り込んできた。



「コーヒー買ってきたの?」



エレベーターの中に充満している香りに気が付いて、三崎は何気にそう言った。



「ああ。給湯室のコーヒー、苦手なんだよ」



「私も」



俺はコーヒーの入ったビニール袋からコーヒーを一つ取り出すと、隣で笑う三崎に差し出した。



「ほら」



「え?」



戸惑う三崎の前で、カップを軽くゆすって受け取れと合図する。



「でもこれ、柴垣くんのでしょ?」



「俺のもちゃんと買ってきた」



ビニールの中のもう一つのコーヒーの存在を確認させ、「これはお前の」と微笑む。



「ありがとう…」



申し訳なさそうに受け取った三崎に、もう一つ、チョコレートを渡す。



「あとこれも。お前がいつも食べてるヤツ、ホワイトチョコも出てたぞ?」



「ありがとう。でもいいの?」



驚いたように俺を見上げる三崎の顔は喜びいっぱいにみえる。



こんなに喜ぶなんて、買ってきた甲斐があったってもんだ。




「ご褒美だ」



「ご褒美?」



俺の真意がわからない三崎は、小首をかしげて俺に問いかける。



その仕草が堪らなくて手が出そうになった瞬間。



指定階数に到着したエレベーターのドアが大きく開いた。



「なんでもねぇよ」



そう言って咄嗟に手を引くと、照れ隠しのように三崎を残して下りて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

君がたとえあいつの秘書でも離さない

花里 美佐
恋愛
クリスマスイブのホテルで偶然出会い、趣味が合ったことから強く惹かれあった古川遥(27)と堂本匠(31)。 のちに再会すると、実はライバル会社の御曹司と秘書という関係だった。 逆風を覚悟の上、惹かれ合うふたりは隠れて交際を開始する。 それは戻れない茨の道に踏み出したも同然だった。 遥に想いを寄せていた彼女の上司は、仕事も巻き込み匠を追い詰めていく。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

処理中です...