王太子殿下にお譲りします

蒼あかり

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「はぁ・・・いつ見ても可愛らしいなぁ。」

窓下で茶会を開いている令嬢達を見ながら、セナン王国王太子であるアルバートがつぶやく。

「殿下、、、そんなに想われているのなら権力行使でもなんでもしたらどうですか?
私は臣下として婚約者をお譲りするくらいは何とも思っておりませんから。」
そう言ってマルクスは深いため息をついてみせた。

「な!!そんなつもりじゃないんだよ。いつも言うけど。
ただ、ちょっと憧れっていうか、可愛らしい姿を見れれば満足なんだよ。わかるだろう?」

「さあ。生憎、私には殿下のお気持ちはわかりかねますが。」

「マルクスはいっつもそうだ。人の気持ちを思い図ることをしない。だから「氷の公爵令息」とか言われるんだよ。もう少し人としての気持ちを持ったらどうなんだ。
それに、婚約者を譲るとか何を考えているんだ?アリーシャ嬢に失礼だろ!」

アルバートは言いながら執務室にある応接用のソファーに乱暴に座る。

「おい、アル!お前の座る場所はそこじゃない。いい加減仕事をしろ。
お前の机の上の書類の山を見ろ。目をそらすな。現実をから逃げるんじゃない。」

俺はいい加減うんざりして大きな声を出した。
まったく、庭園での茶会の度に下を見下ろしてニヤニヤするのはやめて欲しい。

「わかってるって。別に逃げてるわけじゃないだろ。やることはちゃんとやるよ。
ただ、久しぶりだからちょっと堪能したいっていうかさぁ。」

何やらブツブツ言っているがよく聞こえない。いや、聞きたくない。

「茶会の度に窓から覗き見し、廊下で会えるかもと待ち伏せするようにウロウロしたり。
それ、立派なストーカーだからな。」

「え?ストーカー?そんな、こと。え?ええー?」
アルバートは頭を抱えてうずくまった。

ああ、本当に面倒くさい男だ。そんな暇があったら仕事しろ。頼むから。



ジニア公爵家嫡男であるマルクスは、セナン王国第一王子であり王太子のアルバートとは、王国学院での級友であり幼馴染。
現在、アルバート王太子の側近であり、国王に就任の際は宰相に着くことが決まっている。
公務の時などは「氷の公爵令息」と呼ばれるほど顔色も声色も変えず、常に冷静沈着を心掛けているが、任務を離れれば親友同士軽口も叩く仲だ。

マルクスの婚約者アリーシャはハミル侯爵家の令嬢で、マルクスとは貴族間でよくある政略結婚である。
仲が悪いわけではないが、特別良いわけでもなく、節度のある良い関係を維持している。

マルクスが18歳で学院を卒業後すぐに婚約を結び、1年が経とうとしている。
2歳下のアリーシャが学院に在学中の為、卒業後準備期間を経て結婚をする予定となっていた。
定期的にハミル家へ足を運び顔を合わせ、誕生日や何かの折にはプレゼントも欠かせない。

学生の間はあまり夜会に参加する習慣のないセナン王国ではあるが、王室主催の催しや公爵家として参加する夜会には婚約者として手を取り、一緒に顔を出しもする。

いわば、模範的な婚約者を十分に演じていた。

一国の王太子であるアルバートには今現在婚約者はいない。国の為、すぐにでも婚約者を選定し婚姻を結んだ方が良いのだが、他国との婚姻も視野に入れつつ選定中といったところである。


「なあ、お前たちは仲が悪いのか?」
やっと執務机に向かい書類を手に取りながらアルバートが口を開く。

「誰と誰のことだ?」
厄介な話になりそうだと思いながら、書類から顔を上げずに答える。

「お前とアリーシャ嬢に決まっているだろ。」

まあ、そうだろうなと思いながら、ペンを走らせながら言う

「仲が悪いかと言われれば悪くはない。だが、知っての通り俺たちは政略結婚だ。
そこにお互いの気持ちは含まれていない。

俺はもちろんだが、アリーシャも高位貴族の子供だ。侯爵家の娘として生まれた以上政略結婚になることはわかっていることだ。そのように教育も受けているはず。
もし、王太子であるお前から婚姻の話が出ればハミル家としては喜んで受けるだろうな。
もちろん我がジニア家としても婚約者を譲ったという貸しが王室にできるから、うまい話しには違いない。
ただ、婚約者を取られたという間抜けな称号が俺につくだけだ。」

アルバートに顔を向け、ぶっきらぼうに言う。

「現実はそんなものなんだろうけど、それでも少しくらい情はあるだろう?
他の男に取られて悔しいとか、誰にも渡したくないとか。そんなのもないわけ?」

「お前は夢を見すぎだ。婚約してから約1年。実際に会った回数なんてそれほど多くはない。
それも茶会や夜会に参加するくらいで、会話も近況報告とかそんなもんだよ。
お前が夢見ているような、愛をささやき合うとかそんなことは一度もないな。」

「・・・前から思ってたけど。お前、ほんとに氷なんだな?」

アルバートがマジマジと俺の顔を見ながらつぶやく。
まったく、本当に面倒くさいヤツだ。

「まあ、夢を見るのは勝手だが、彼女はあれで『たぬき』だぞ。化かされるなよ。」

「アリーシャ嬢が?いくらなんでもそれはないだろう?」

アルバートは、ハハハと軽く笑う。

「女はみんな『たぬき』だろうよ。」

俺はアルバートに聞こえないような声でボソリとつぶやいた。 

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