その悪役令嬢、問題児につき

ニコ

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5.悪役令嬢、王子達の度肝を抜く

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 疑い半分でルドガー大陸に向かった王子一行が見たものは、信じられない光景だった。

「お、おい。何だこの道は?」
「ああ、これは石油? とやらで取れるアスファルトを使用しているのだそうです」

 王子達が困惑して見ているのは、目の前に広がる広く長く黒い道のことだ。乾いた土地であったはずなのに道の中央には木が植えられ、整備されている。そう、道路である。

「うわぁ⁉︎ こ、ここここの不思議な形状の鉄の乗り物は何だ⁉︎」
「ああ、それは魔石を使用した自動車と言うもので、この国でしか使用できない珍しい乗り物ですよ。燃料は石油から取れるガソリンなるものを利用して動いております」

 慣れた様子で説明するユーリ。最初はユーリだって驚いた。しかし、もう慣れてしまったのだ。ここには自動車以外にもこの世の常識を覆す物が沢山あるからーー

「そろそろ昼食ですね。では、こちらでいただきましょう」
「は? 毒が入っていたらどうするんだ」
「ああ、では私が毒味いたします」

 そんな事無駄なのに、とは言えないユーリ。馬車専用の駐車場に馬車を止め、店の中に入る。

「これは……何故高級なはずのガラスがこんなに使われているんだ?」
「……」

 不思議そうに呟く王子を横目にユーリは思う。そんなの僕だって知りたい!と。

「お待たせいたしました。こちら、ハンバーグ定食でございます」
「む? どうやって食べればいい?」
「こちらからお召し上がりください」
「分かった。う、うまい‼︎ これは何と言うソースだ⁉︎」
「ケチャップと呼ばれるトマトで作られたソースです」
「確かに美味しいですね……」

 その後は久しぶりに静かな空気が訪れた。その後もアイスに感激した宰相がアイスを持って帰ろうとしたり一悶着があったが、なんとかルリアが待っている屋敷に到着。案内役のユーリは疲れ果て、げっそりとしていた。

「ようこそいらっしゃいました。ルドルフ様およびアリオン様、それからユーリ。中へどうぞ」

 この国でしか作ることのできない高級な布をふんだんに使用したドレスを着て登場したルリアはそれはそれは美しかった。

「こちらの応接室でお待ち下さい。我が国自慢の和菓子を用意させていただきますわ」
「あ、ああ……」

 代表して王子が答えるが、心ここに在らずといった様子でルリアをぼーっと眺めている。


 しばらくして使用人と共にユリアがやって来た。使用人が持っているトレーには色鮮やかな和菓子が並べられており、どれも美しい。

「こちらは生菓子と言う和菓子でして、食べる時はこの黒文字で切り分けてお食べください」
(※黒文字:生菓子を食べる時についてくる木で作られた小ちゃいフォークのようなもの)

 ニコニコと楽しそうに説明するルリアはそれはそれは楽しそうだ。王子達は恐る恐る生菓子を切り分け、口に入れている。顔を輝かせたことから口に合ったのだと分かる。

「さて、今回はお話があるということでこちらにいらっしゃったんですよね?」

 本題とばかりにルリアが言うと、王子達はそれぞれ気まずそうな顔をして「「「すまなかった」」」とルリアに謝罪した。

「あらあら、一国の王子ともあろうお方が何故謝るのです?」

 ニコニコと慈母のごとく優しい笑みを浮かべ聞き返すルリア。ルリアが怒っていないことを察した王子達はホッと息をついた。

「そなたがやってもいないことを罪に問い、挙げ句の果てにこの地まで追いやったこと申し訳なく思っている。それで提案なのだが、もう1度婚約してくれないだろうか? 今国は危険な状態で、こんなになったのはルリアがいなくなってからなんだ」
「私からもお願いします」


 ガバッと頭を下げる3人を眺めるルリアの目はとても楽しそうな光を灯していた。

「ふふふ、ルドガー大陸って大の大人でも3日と経たずに死ぬっていうのは理解しております? あなた達が気づいたのは私を追放して何日経った後でしたか? もし、ルドガー大陸が何もない荒野だったら私はもうこの世にはおりませんよ?」
「そ、それは……!」
「……っ!」

 あり得たかもしれない事実を突きつければ怯む3人。その様子をユーリは冷静な目で見ていた。

 ああ、義姉は楽しんでる。

「なんです? 今は生きているからいいじゃないかって? しかも、経済が停滞したのも私のせいではありませんよ。ただ単に王国が魅力的じゃなかったからです」

 そう言いながらルリアはニヤリと微笑んだ。

「幸いここには豊富な魔石とそれを利用する方法が書かれた本がありました。それがなかったら私はどうなっていたことか……」

 わざとらしく嘘泣きをしてみるルリア。

「す、すまなかった! しかし、私は今マリアと婚約していない‼︎ だから、戻って来てくれないか‼︎」
「残念ながら貴殿にルリアを渡すことはない」
「なっ⁉︎ 誰だ‼︎」
「無礼な! この方は王子だぞ⁉︎」
「おおっと、剣は抜くな。残念ながらその威嚇はよろしくない。なぁルリア?」

 突然現れた褐色の肌の男に驚き剣を抜きかけるアリオンを片手で制し、ルリアの腰に腕を回して抱き寄せる美丈夫。

「ふふっ……ええ、そうね。王子、申し遅れましたが私はこの国の王妃です。この方は私を助けてくださったルガル帝国の第3王子であり、今はこの国の王。私の伴侶のギルですわ」
「なっ⁉︎」
「どういうことだ」
「俺たちを裏切ったな⁉︎」

 蕩けるような表情でギルを見つめるルリアに王子が問いかける。その表情はどこか悔しそうな色を灯していた。

「どうもこうも、困っていた私を助けてくれたのですわ」
「ああ、俺はルリアが大好きでな。狙ってたんだ。辛抱強く待って、やっと手に入れる事ができたんだよ」

 ギュッとルリアを抱きしめそのつむじにチュッと見せつけるようにキスをするギル。その瞳には独占欲の炎が燃えていた。

「……おい、帰るぞ」
「ですが王子!」
「僕はここに残りますね」

 そんなギルを間近で見た王子はチッと舌打ちをしてアリオンに指示を出した。ユーリだけが従わず、ここに残ることを明かす。

「好きにしろ」
「申し訳ありません」

 実はユーリは今回の騒動で義姉につくことにしていた。これは最初からで、本当のことを言えばマリアにも惚れていない。いや、最初の方は惚れていたのだが、なにぶんルリアと一緒にいたせいで冷めてしまったのだ。

「あら? ここに残ってくれるの?」
「ええ、もう僕の居場所はあっちにはないようですから」
「うふふ、ありがとう。さぁ本にはまだまだ面白そうなのが沢山載っていましたわ! どんどん作りましょ!」

 この後、ルリアの生まれ育った王国は滅びの一途を辿る。追い詰められた王子が、ルリアをこちらに戻すよう懇願したが、却下されたのだった。
 ルリアの両親はルリアが今をときめく大国の王妃となっていることを知り、金目当てにルリアに「私達は騙されていたんだ。縁を切ったことは無しにするからまた家族として仲良く暮らしましょう」と言い寄ったが、「いえ、ご遠慮します」というルリアの一言で国から追い出された。

 そして、ルリアが建国したバシレイア帝国はさまざまな人種や文明を取り入れ、さらなる発展をしていくのであった。

 近代文明の生みの親と言われるルリアの暴走物語はまだまだ続くーー

                   ーお終いー
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