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自分
しおりを挟むアーシャを亡くして五年が経った。
「わ、私に若返りの薬を」
「もうないんだ。全部捨てたよ」
「そんな……」
カレンはやはり生きることにしがみついていた。
死ねることがどれだけ羨ましいかわからないんだからしょうがない。
荒木も亡くなり青蘭やサヤなんかも亡くなっていく。
残されたのは俺とカレンだけだった。
それも今日、俺一人になった。
俺は自分の分身を作り亡くなったことにする。
変装してガーナと二人で自分の葬儀に行ったが夜叉は泣かなかったな。
「偉いねぇ、夜叉坊は強くなった」
「そうだな。俺の息子だからな」
外に出ると秋晴れのいい天気だ。
「じゃあ、行こうか?」
「そうだねぇ、この世界は楽しかったよ」
「良かったな。俺も楽しかったよ。『転移』」
ガーナを家に送り、ツクヨの待つ城へといくと、
「私がいいと言ったのだ!それで進めろ!」
「「はっ!」」
と小学生くらいから大人になったツクヨがいた。
「ヤト!やっとこっちに来たのか!」
「そうだな、あっちじゃもう死んだ人間だ」
「そうかそうか、土産は?」
「チョコだろ?買って来たよ」
相変わらず菓子が好きだな。
「じゃあ、私を後妻にどうですか?」
「わるいなネオ、今は考えられないからな」
「そ、そうですよね……私待ってますから」
「ハハッ!って変装したままだったな」
と変装を解いて久しぶりに腰を真っ直ぐにする。
“バキバキ”と体が悲鳴を上げるがそれもここまでアーシャと一緒にいる為だったからなんてことはない。
さぁ、遠慮なく錬金術もガチャもネット通販もできるから何からやろうか?
その前に住むところはまだあるのか?
ハクのところに、
「あ!待て!ヤト!」
「ヤト様!」
『転移』
何か最後に聞こえたがまぁ、いいか。
「なんじゃ、ヤトか」
「おう!ハク、こっちの住まいはどうだ?」
「人間もようやく来なくなって快適じゃ」
リビングの側には人間の落とし物の金貨や銀貨がドッサリ山になっている。
「これはもらうぞ?」
「あぁ、邪魔だったからちょうどいい」
と言うのでインベントリに入れてしまう。
「その代わりに酒をやるよ」
「お!話がわかるねぇ!」
と酒を飲みながら色んなことを話して夜を明かす。
俺が生きているのを知っているのはこっちの世界の奴とエマだけだ。
エマには限界突破薬を使うなとだけ言ってある。
まぁ、若返りの薬を使ってるから変わらないがな。
「じゃあこれからはこっちで暮らすのかい?」
「あぁ、たまには戻るつもりだけどな」
異世界にずっといるのもいいかもしれないけどな。
♦︎♢♦︎
私の名前は真叉、みんなからはマーシャと呼ばれている。
つい先日おじいちゃんが亡くなった。
私の髪はおばあちゃんみたいな綺麗な銀髪を受け継いだが、おじいちゃんに性格は似てるらしい。
おじいちゃんもおばあちゃんも居なくなって寂しく感じるが、二人とも安らかに眠ったように亡くなったからそれだけが救いだ。
もっと色々してあげれば良かったのにと思わずには居られないが、今日から仕事だ。
看護士はキツイがやりがいがあるし、今はポーションがあるので私達でも治療することが少しはできる。
「河地さん!コードブルーよ!急いで!」
「はい!」
緊急処置が必要のようだ。
ポーションはおじいちゃんがポシェットをくれてその中には入っている。
だが、必要な手術なのかどうかもわからない。
ポーションを使うと高額になるからだ。
しかも低級ポーションを使ってもダメな場合が多い。
上級ポーションになると一億はかかるのでおいそれと使えない。
患者は手術室に搬送されたらしいので私もオペの準備をして先生の到着を待つ。
スペ患らしく上級ポーションを使う手術だそうで、一安心だ。
患者は若い男の人でA級冒険者らしい。
容体が急変したのは何故だろう?
見た目では分からないようだが。
「急いで上級ポーションの用意」
「はい!」
上級ポーションを飲んだ患者はすぐにうめき声をあげると身体が少し光って意識を取り戻す。
「……は、い、急いでギルドに連絡を!スタンピートだ!」
「え!?」
「スタンピートが起こる!急いでくれ」
「は、はい!」
と外に出ようとした時、
“ガンッ”
と言う音で建物が揺れる。
「キャアァァァァ」
「あ、危ない!」
私は他の看護士を支えるとスタンピートはもう始まっていることに気づく。
“ウゥゥゥゥゥゥ”
と警報の音がして病院が防衛体制に移行する。
手術室から外に出て窓を覗くと、
「お、お父さん?お母さんまで?!」
そこにはもう引退したお父さんとお母さんがモンスターと戦っていた。
「お!真叉!ここは守ってやるからな!」
「そんなこと言ってないで手を動かす!」
お父さん達はそんな感じで平気そうに戦っていた。
「私には何も出来ない……」
悔しいが外を見て二人を見守るしかなかった。
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