13 / 49
第2章 ヘブンスの回想
2-3 弟子入り
しおりを挟む
私がパンツを買った翌日、彼女の弟子として恐らく正式に認められたと思っていたが、どうやら彼女は違ったらしい。
「まだいたの? 痴女に用はないんじゃないの?」
彼女の塩対応は全然変わらなかった。しかも、昨日の軽はずみな発言をしっかり根に持たれている。
この日は彼女の自室ではなく書斎らしき部屋だったが、机は書類や物で雪崩が起きそうなだけではなく、床が本で埋め尽くされて、整理整頓とは無縁の状態だった。
そこで彼女は何か本を探しているようだった。
「私は弟子ですから、師匠の傍にいるのは当然ではないですか」
「別に無理せず痴女の弟子なんて辞めればいいじゃない」
「あの、実は私には身寄りがいないんです」
少々心苦しかったが、同情を誘う作戦を試してみた。
「ふーん」
「なので、こちらにお世話になってもいいでしょうか」
チラリと上目遣いの目で必死に懇願しても、彼女の冷たい視線は変わらなかった。
「そう、そんなに居場所が欲しいなら、あなたに相応しい場所を紹介してあげるわ」
「え?」
彼女が何か魔導を展開したと感じた直後、私は全く別の場所に移動していた。
どうやら孤児院の施設だった。突然現れた私は、迷子と勘違いされていた。
でも、大魔導士の弟子で、彼女の仕業だと説明すると、そこの施設の職員に師匠にはいつも世話になっていると礼を言われてしまった。
どうやら彼女はたまに高額な寄付をしていたらしい。
彼女の意外な一面を知って驚きしかなかったが、自分への扱いの酷さは全く理解できなかった。
幸い同じ都市の中での移動だったので、すぐさま師匠の元へ戻った。
でも、もう夕方になっていたので、今日また彼女の機嫌を損ねてどこか飛ばされるのも大変だ。
勝手に空いている部屋を借りて休むことにした。
この屋敷の使用人は、共用部分の掃除と師匠の食事の用意と、最低限の仕事しかしていない。
あちらから話しかけてくることはなかった。だから、私が何か用事を伝えると、動いてくれる感じだった。
事情を聞くと、彼女は作業の中断を嫌うらしい。だから、私の訪問はひどくタイミングが悪いと、彼女と接するコツをこっそりと教えてもらえた。
確かに彼女が何か取り込み中に話しかけていた気がした。
でも、何もしていない時間はいつなのか。よく分からないので、彼女を観察してみることにした。
寝起きは常時最悪。誰か訪問があっても、基本無視している。
ちなみに私も使用人に断られていたが、弟子だからと強引に押し入っていた。
これも彼女の機嫌が悪くなった一因だと思われる。
王宮からお迎えがあって出かける以外は、普段彼女は屋敷の中にいた。
でも、外から帰って来たときは、いつも機嫌が悪くて苛々していた。
毎日何か瞑想したり、考え事をしたり、魔導の本を読んでいる。
何か書き物をしていると思ったら、魔導の理論について、思案しているみたいだった。
使用人曰く、魔導の仕事中に邪魔をすると、一番恐ろしいそうだ。過去、追い出された使用人もいたらしい。
だから、風呂か食事のときが、一番魔導と関係なく、機嫌もいいようだ。
「師匠、私のために一日十五分だけでもいいので時間をいただけないでしょうか」
彼女の好物が多めに食卓に出ている日に私は交渉を試みようとした。
彼女は小動物のように果物をモリモリと美味しそうに齧っていた。ちょっと不覚にも可愛かった。
「あのね、私の弟子になっても、あなたが私になれるわけじゃないのよ? みんなそう。私の弟子になりたいっていう奴は、私の弟子になれば、勝手に今以上の能力を得られると勘違いしているのよ。今の私は、誰かのおかげでなれたと思う? 学校を出たあとは、誰にも師事してないの。全部自分でやったのよ。だから、人に頼らず自分で学べばいいじゃない。私の邪魔をして、私の研究の時間を奪わないでよ。そうでなくても余計なことで時間を食われるのに」
「いや、ですが」
あなたは私のことを何も知ろうとしないじゃないか。
拒絶ばかりだ。
何か反論しようとした私に彼女はため息をついた。
「もう、いいわ。修行に送ってあげる」
気づいたら、私はまた見知らぬ場所にいた。
今度は同じ都市ではなかった。
どこか山奥にある村だった。いきなり現れた子供の私に村人たちは驚いたので、私はまた大魔導士の弟子だと名乗った。
でも、今度は簡単に信じてくれなかった。
「証拠を見せてくださいよ。大魔導士様は、ご訪問してくださったとき、この村を助けて下さったんだ。その彼女のお弟子様なら、あの山奥にいる魔物を同じように簡単に倒せますよね?」
どうやら師匠は、この村に何度か訪れたことがあるらしい。
その度に村の住人の要望を聞いて貢献していたようだ。
信じられない。同じ人物とは思えなかった。
そんなわけで来たばっかりなのに魔物を倒すことになり、そのあと村人たちの治療をし、さらに壊れた井戸の器具や建物などを修理して、ようやく弟子として歓迎されることになった。
この経緯を経て、私はやっと気づいたことがあった。
私は彼女に自分を知ってもらう努力をしただろうかと。
思えば私は強引に来た立場だったにもかかわらず、彼女に要求してばかりだった。
弟子として遇しろと。
ひどく傲慢だった。この村のように尽くしてやっと受け入れられるようなものなのだ。
だから、彼女にとって利点があると、少しでもアピールしていれば、今のように嫌われていなかったかもしれない。
「まだいたの? 痴女に用はないんじゃないの?」
彼女の塩対応は全然変わらなかった。しかも、昨日の軽はずみな発言をしっかり根に持たれている。
この日は彼女の自室ではなく書斎らしき部屋だったが、机は書類や物で雪崩が起きそうなだけではなく、床が本で埋め尽くされて、整理整頓とは無縁の状態だった。
そこで彼女は何か本を探しているようだった。
「私は弟子ですから、師匠の傍にいるのは当然ではないですか」
「別に無理せず痴女の弟子なんて辞めればいいじゃない」
「あの、実は私には身寄りがいないんです」
少々心苦しかったが、同情を誘う作戦を試してみた。
「ふーん」
「なので、こちらにお世話になってもいいでしょうか」
チラリと上目遣いの目で必死に懇願しても、彼女の冷たい視線は変わらなかった。
「そう、そんなに居場所が欲しいなら、あなたに相応しい場所を紹介してあげるわ」
「え?」
彼女が何か魔導を展開したと感じた直後、私は全く別の場所に移動していた。
どうやら孤児院の施設だった。突然現れた私は、迷子と勘違いされていた。
でも、大魔導士の弟子で、彼女の仕業だと説明すると、そこの施設の職員に師匠にはいつも世話になっていると礼を言われてしまった。
どうやら彼女はたまに高額な寄付をしていたらしい。
彼女の意外な一面を知って驚きしかなかったが、自分への扱いの酷さは全く理解できなかった。
幸い同じ都市の中での移動だったので、すぐさま師匠の元へ戻った。
でも、もう夕方になっていたので、今日また彼女の機嫌を損ねてどこか飛ばされるのも大変だ。
勝手に空いている部屋を借りて休むことにした。
この屋敷の使用人は、共用部分の掃除と師匠の食事の用意と、最低限の仕事しかしていない。
あちらから話しかけてくることはなかった。だから、私が何か用事を伝えると、動いてくれる感じだった。
事情を聞くと、彼女は作業の中断を嫌うらしい。だから、私の訪問はひどくタイミングが悪いと、彼女と接するコツをこっそりと教えてもらえた。
確かに彼女が何か取り込み中に話しかけていた気がした。
でも、何もしていない時間はいつなのか。よく分からないので、彼女を観察してみることにした。
寝起きは常時最悪。誰か訪問があっても、基本無視している。
ちなみに私も使用人に断られていたが、弟子だからと強引に押し入っていた。
これも彼女の機嫌が悪くなった一因だと思われる。
王宮からお迎えがあって出かける以外は、普段彼女は屋敷の中にいた。
でも、外から帰って来たときは、いつも機嫌が悪くて苛々していた。
毎日何か瞑想したり、考え事をしたり、魔導の本を読んでいる。
何か書き物をしていると思ったら、魔導の理論について、思案しているみたいだった。
使用人曰く、魔導の仕事中に邪魔をすると、一番恐ろしいそうだ。過去、追い出された使用人もいたらしい。
だから、風呂か食事のときが、一番魔導と関係なく、機嫌もいいようだ。
「師匠、私のために一日十五分だけでもいいので時間をいただけないでしょうか」
彼女の好物が多めに食卓に出ている日に私は交渉を試みようとした。
彼女は小動物のように果物をモリモリと美味しそうに齧っていた。ちょっと不覚にも可愛かった。
「あのね、私の弟子になっても、あなたが私になれるわけじゃないのよ? みんなそう。私の弟子になりたいっていう奴は、私の弟子になれば、勝手に今以上の能力を得られると勘違いしているのよ。今の私は、誰かのおかげでなれたと思う? 学校を出たあとは、誰にも師事してないの。全部自分でやったのよ。だから、人に頼らず自分で学べばいいじゃない。私の邪魔をして、私の研究の時間を奪わないでよ。そうでなくても余計なことで時間を食われるのに」
「いや、ですが」
あなたは私のことを何も知ろうとしないじゃないか。
拒絶ばかりだ。
何か反論しようとした私に彼女はため息をついた。
「もう、いいわ。修行に送ってあげる」
気づいたら、私はまた見知らぬ場所にいた。
今度は同じ都市ではなかった。
どこか山奥にある村だった。いきなり現れた子供の私に村人たちは驚いたので、私はまた大魔導士の弟子だと名乗った。
でも、今度は簡単に信じてくれなかった。
「証拠を見せてくださいよ。大魔導士様は、ご訪問してくださったとき、この村を助けて下さったんだ。その彼女のお弟子様なら、あの山奥にいる魔物を同じように簡単に倒せますよね?」
どうやら師匠は、この村に何度か訪れたことがあるらしい。
その度に村の住人の要望を聞いて貢献していたようだ。
信じられない。同じ人物とは思えなかった。
そんなわけで来たばっかりなのに魔物を倒すことになり、そのあと村人たちの治療をし、さらに壊れた井戸の器具や建物などを修理して、ようやく弟子として歓迎されることになった。
この経緯を経て、私はやっと気づいたことがあった。
私は彼女に自分を知ってもらう努力をしただろうかと。
思えば私は強引に来た立場だったにもかかわらず、彼女に要求してばかりだった。
弟子として遇しろと。
ひどく傲慢だった。この村のように尽くしてやっと受け入れられるようなものなのだ。
だから、彼女にとって利点があると、少しでもアピールしていれば、今のように嫌われていなかったかもしれない。
40
あなたにおすすめの小説
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる