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第4章 元下僕
4ー4 ヘブンス、王宮にて2
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「まだ分別の付かぬ庶民の新入生でございます」
「年が十六だと聞いているぞ。それなら余の傍に置いても問題あるまい。今度連れてくるが良い」
「恐れながら陛下。先ほども申し上げたとおり、弟子は礼儀も分からぬ庶民です。殿下のお側に仕えるにはふさわしくありません」
陛下のお側に仕える人間は、貴族のみと決まっている。
「そうか。なら、一年待ってやる。それまでに準備しろ」
貴族の家に養子に入れて、礼儀作法を習わせろと命じてくる。
大魔導士を王太子妃にと望み、それを議会で可決されたせいで、この男の欲望を止めるすべがなかった。
当時、この男の母の前王妃が、議員である貴族たちに根回ししたせいだ。
彼女は王太子として息子の力不足さを感じていたのだろう。
大魔導士を娶った点を政治的に利用したかったに違いない。
この議決があるせいで、魔導で優秀な女性を王族に嫁がせることは是だと、この国で認められてしまっていた。
「ですが、」
「口答えするとは、陛下に無礼ではないか!」
「庶民なら十六で結婚もしている。素直に頷けば良いではないか!」
私が何か反論しようとしたら、侍従や貴族が間に割り込み邪魔をしてくる。
「私の発言を遮るとは、礼儀作法も知らないのですか」
彼らは私の睨みに押し黙った。
貴族の身分は、運が良いことに私のほうが上だった。
王の庶子なので、一代限りだが爵位として伯爵を得ていた。
「陛下、成人は十八歳と数年前に議会で決まったばかりです。国の決定を国王が無視される訳にはいかないでしょう」
「ふん、確かに其方の言うとおり成人でしか結婚はできない。だが、愛妾なら問題あるまい。先ほど他の者が言ったとおり、十六なら庶民は平気で所帯を持っているのは余でも知っているぞ。其方の気にしすぎだ」
陛下はこれ以上私が反論できないと自信があるのだろう。
顔に勝利の笑みを滲ませていた。
「陛下のおっしゃるとおりではないか」
「早く従わないのか、見苦しいぞ」
陛下の取り巻きたちが、尻馬に乗るように加勢してくる
確かに陛下の言い分は間違ってはいない。
まだ庶民にまで成人年齢は広まっていなかった。
せっかく陛下の愛妾対策で成人年齢を制定したが、効果が現在では残念ながら全くなかった。
「陛下が愛妾とする条件は優秀な魔導士だと以前から仰っておりましたが、それに間違いはないでしょうか?」
「そうだが?」
いきなり何を言うのかと陛下は怪訝な顔をする。
「なら、その陛下の条件に私の弟子は当てはまりません。なにせまだ弟子は魔導士ですらないので」
「どういうことだ?」
陛下は不信感を露わに眉を顰める。
「はい、弟子はまだ初等部に入学したばかりです。まず初等部を卒業しなければ下級の魔導士としても名乗れません」
「なんだと!? 余を騙したのか!?」
弟子が十六と聞いていて、高等部の入学と勘違いしていたのだろう。
それなら優秀だと誰しもが考える。
「陛下を騙すなんてとんでもないことです。ところで、私が弟子をとることが、なぜ陛下を騙すことになるのでしょうか?」
「くっ……!」
とぼけた口調で尋ね返すと、陛下は見事に口籠った。
私の弟子というだけで、よく調べもせずに愛妾として求めたのは、陛下の過失。
軽率な行為だったのだから。
それなのに騙したなどと、八つ当たりみたいな反論をしたのだ。
自分でも幼稚な返しをしたと自覚があったのだろう。
矜持だけは身分並みに高い彼は、恥ずかしさと怒りで真っ赤になり、もう口論できる状態ではないようだ。
「陛下、以前から申し上げておりますが、すでに陛下には立派な王子が二人もいらっしゃります。これ以上お子を望まれる必要はないかと存じます。魔導士は魔導を学ぶために相応の時間をかけております。その貴重な人材を失ってしまいますと、魔導の発展の妨げになる恐れがあります」
「ふん、余が声をかければ、女が喜んで愛人になりたがるだけだ」
まぁ、そういう女は、魔導の資質や身分を問わず確かにいた。
夫を若くして失くし財力的に不安がある女性や、陛下の寵愛を得て贅沢な暮らしを夢見るような野心を持つ者だ。
「上級の資格を得るためには宣誓が必要ですが、同時に国の命令に逆らえなくなるため、陛下が愛妾にと望まれれば拒否できません。愛妾の辞退を願った魔導士も過去にいたと記憶しておりますが、覚えておいででしょうか」
「うるさい! あの大魔導士さえ生きていれば、もっと素晴らしい子が生まれていたはずだったんだ! 余はそれを取り戻そうとしているだけだ!」
私の反論に陛下は顔を真っ赤にし、肩で息をするほど呼吸を荒くしていた。
その彼女を追い詰めて死なせたのは、お前だろう。
喉までその言葉が出かかった。
怒りで爆発しそうだったが、理性がそれをギリギリ押しとどめた。
私の鋭い視線に気づいたのか、わずかに陛下はたじろいだ。
「ふん、もうよい!」
陛下は感情を露わに不快そうに立ち去って行く。
しかし、これで諦めるような可愛らしい性格を奴はしていない。
私の弟子というだけで、ここまで食いついてきたのだから。
安堵とは心中はほど遠い。今後も用心は必要だと気を引き締める。
「王妃の犬が」
「何様のつもりだ」
陛下の後を追う他の貴族たちから、侮蔑の言葉を投げつけられる。
私より下位の身分の者が躊躇せず平然と侮ってくる。
陛下の愛妾の多くは、庶民出身の魔導士だ。
このとき愛妾の養親として散々お世話した貴族の家が陛下に気に入られ、このように笠に着るようになっていた。
それを愚かなことに陛下自身が咎めるどころか黙認している。
あの男に都合の良い甘言ばかり囁くからだ。
本来なら喧嘩を売ってきた相手の名前を確認して覚えておくと脅すくらいはするべきだが、今は揉め事を起こす気はなかった。
そのまま王宮の正門へ向かって歩みを進める。
そういえば、彼女の弟子となった直後にも、こんな風に絡まれたことがあった。あの国王陛下が、まだ王子のときだ。師匠が王宮に用があるからと、私まで連れて行ったのだ。
「年が十六だと聞いているぞ。それなら余の傍に置いても問題あるまい。今度連れてくるが良い」
「恐れながら陛下。先ほども申し上げたとおり、弟子は礼儀も分からぬ庶民です。殿下のお側に仕えるにはふさわしくありません」
陛下のお側に仕える人間は、貴族のみと決まっている。
「そうか。なら、一年待ってやる。それまでに準備しろ」
貴族の家に養子に入れて、礼儀作法を習わせろと命じてくる。
大魔導士を王太子妃にと望み、それを議会で可決されたせいで、この男の欲望を止めるすべがなかった。
当時、この男の母の前王妃が、議員である貴族たちに根回ししたせいだ。
彼女は王太子として息子の力不足さを感じていたのだろう。
大魔導士を娶った点を政治的に利用したかったに違いない。
この議決があるせいで、魔導で優秀な女性を王族に嫁がせることは是だと、この国で認められてしまっていた。
「ですが、」
「口答えするとは、陛下に無礼ではないか!」
「庶民なら十六で結婚もしている。素直に頷けば良いではないか!」
私が何か反論しようとしたら、侍従や貴族が間に割り込み邪魔をしてくる。
「私の発言を遮るとは、礼儀作法も知らないのですか」
彼らは私の睨みに押し黙った。
貴族の身分は、運が良いことに私のほうが上だった。
王の庶子なので、一代限りだが爵位として伯爵を得ていた。
「陛下、成人は十八歳と数年前に議会で決まったばかりです。国の決定を国王が無視される訳にはいかないでしょう」
「ふん、確かに其方の言うとおり成人でしか結婚はできない。だが、愛妾なら問題あるまい。先ほど他の者が言ったとおり、十六なら庶民は平気で所帯を持っているのは余でも知っているぞ。其方の気にしすぎだ」
陛下はこれ以上私が反論できないと自信があるのだろう。
顔に勝利の笑みを滲ませていた。
「陛下のおっしゃるとおりではないか」
「早く従わないのか、見苦しいぞ」
陛下の取り巻きたちが、尻馬に乗るように加勢してくる
確かに陛下の言い分は間違ってはいない。
まだ庶民にまで成人年齢は広まっていなかった。
せっかく陛下の愛妾対策で成人年齢を制定したが、効果が現在では残念ながら全くなかった。
「陛下が愛妾とする条件は優秀な魔導士だと以前から仰っておりましたが、それに間違いはないでしょうか?」
「そうだが?」
いきなり何を言うのかと陛下は怪訝な顔をする。
「なら、その陛下の条件に私の弟子は当てはまりません。なにせまだ弟子は魔導士ですらないので」
「どういうことだ?」
陛下は不信感を露わに眉を顰める。
「はい、弟子はまだ初等部に入学したばかりです。まず初等部を卒業しなければ下級の魔導士としても名乗れません」
「なんだと!? 余を騙したのか!?」
弟子が十六と聞いていて、高等部の入学と勘違いしていたのだろう。
それなら優秀だと誰しもが考える。
「陛下を騙すなんてとんでもないことです。ところで、私が弟子をとることが、なぜ陛下を騙すことになるのでしょうか?」
「くっ……!」
とぼけた口調で尋ね返すと、陛下は見事に口籠った。
私の弟子というだけで、よく調べもせずに愛妾として求めたのは、陛下の過失。
軽率な行為だったのだから。
それなのに騙したなどと、八つ当たりみたいな反論をしたのだ。
自分でも幼稚な返しをしたと自覚があったのだろう。
矜持だけは身分並みに高い彼は、恥ずかしさと怒りで真っ赤になり、もう口論できる状態ではないようだ。
「陛下、以前から申し上げておりますが、すでに陛下には立派な王子が二人もいらっしゃります。これ以上お子を望まれる必要はないかと存じます。魔導士は魔導を学ぶために相応の時間をかけております。その貴重な人材を失ってしまいますと、魔導の発展の妨げになる恐れがあります」
「ふん、余が声をかければ、女が喜んで愛人になりたがるだけだ」
まぁ、そういう女は、魔導の資質や身分を問わず確かにいた。
夫を若くして失くし財力的に不安がある女性や、陛下の寵愛を得て贅沢な暮らしを夢見るような野心を持つ者だ。
「上級の資格を得るためには宣誓が必要ですが、同時に国の命令に逆らえなくなるため、陛下が愛妾にと望まれれば拒否できません。愛妾の辞退を願った魔導士も過去にいたと記憶しておりますが、覚えておいででしょうか」
「うるさい! あの大魔導士さえ生きていれば、もっと素晴らしい子が生まれていたはずだったんだ! 余はそれを取り戻そうとしているだけだ!」
私の反論に陛下は顔を真っ赤にし、肩で息をするほど呼吸を荒くしていた。
その彼女を追い詰めて死なせたのは、お前だろう。
喉までその言葉が出かかった。
怒りで爆発しそうだったが、理性がそれをギリギリ押しとどめた。
私の鋭い視線に気づいたのか、わずかに陛下はたじろいだ。
「ふん、もうよい!」
陛下は感情を露わに不快そうに立ち去って行く。
しかし、これで諦めるような可愛らしい性格を奴はしていない。
私の弟子というだけで、ここまで食いついてきたのだから。
安堵とは心中はほど遠い。今後も用心は必要だと気を引き締める。
「王妃の犬が」
「何様のつもりだ」
陛下の後を追う他の貴族たちから、侮蔑の言葉を投げつけられる。
私より下位の身分の者が躊躇せず平然と侮ってくる。
陛下の愛妾の多くは、庶民出身の魔導士だ。
このとき愛妾の養親として散々お世話した貴族の家が陛下に気に入られ、このように笠に着るようになっていた。
それを愚かなことに陛下自身が咎めるどころか黙認している。
あの男に都合の良い甘言ばかり囁くからだ。
本来なら喧嘩を売ってきた相手の名前を確認して覚えておくと脅すくらいはするべきだが、今は揉め事を起こす気はなかった。
そのまま王宮の正門へ向かって歩みを進める。
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