ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要

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第4章 元下僕

4-5 ヘブンス、王宮にて3

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「どうしてお前が大魔導士の弟子なんだ! ずるいぞ! 王の正統な子である私を差し置いて!」

 あの男は庭で一人彼女を待っていた私を見つけた途端、責めていきなり暴力を振るってきた。
 私を押し倒したあと、馬乗りになり、顔を拳で何度も殴るという、乱暴な行いだった。
 だが、抵抗はできなかった。抵抗や反撃して王子を痛めつけたら、逆に自分が咎を受ける。
 あの男を指導する立場の大人の侍従たちも見ているだけで誰も止めもしない。

 過去に何度もこの男から王宮でこのような嫌がらせを受けてきたが、この男は誰からも咎められなかった。
 みんな見て見ぬ振りをする。私は王子や王妃に疎まれた王の庶子だから。
 それが当たり前の対応だった。

 この日も出会ったのが運の尽きと思ってひたすら耐えていた。
 ところが、予想外にも師匠が現れたのだ。

「何をしている」

 怒気を強く含んだ彼女の声が聞こえたと思ったら、体がふわりと軽くなった。
 乗っていた王子が急に浮いたと思ったら、床に投げ飛ばされたからだ。

「無礼者! 私に何をする! 私が王の正統な子であるアーノイド・フィン・リーカイドと知っての狼藉か!」

 王子は起き上がって彼女を抗議するが、彼女は腰に手を当てて、相手を鼻で笑うような余裕ぶりだった。

「へー、こんな弱い者いじめを堂々とする子どもが王子だなんて夢にも思わなかったわ。まぁ、殿下の暴力行為を止めない周囲の大人が一番馬鹿だけどね」

 師匠が侍従たちを睨むと、彼らは目に見えて怯えた。

「殿下。私の弟子になるには、まず多量のマナに耐性がないといけません。私が魔導を使うたびに倒れられては仕事ができませんので。だから、殿下が選ばれなかったのは、私の弟子は全く関係ありません。八つ当たりは、感情的な恥ずかしい行為ですよ」
「私にこんな無礼をして許されると思うなよ!」
「殿下、大人の教育的な指導に無礼など関係ありません。それに、私を許されなければ、どうなると言うのです? 仮に私から大魔導士の地位を奪ったとして、私の代わりがいるとでも? 分別がつかないと、自ら言っているようなものですよ」
「くっ……」
「では、殿下。みだりに暴力行為は以後慎んでください。王子が抵抗できない相手に暴力ってダサいんで。殿下は貴族の模範となるべき立場でしょう」

 ズケズケと正論を口にする彼女がこのときばかりは眩しく見えた。

「では殿下、失礼します。行くわよ」

 師匠は床に座り込んでいた私の手を取り、引っ張り上げて歩き始める。
 殴られた顔がじんじんと熱を持ったように痛かったが、今は移動中で治療できないから我慢するしかなかった。

 王宮の外に出て、やっと先ほどの話題を出せると思ったら、いきなり師匠に額を指で小突かれた。

「お前もしっかりしなさいよ。なぜ抵抗の声すら上げなかったの? 理不尽を受け入れるなんて、お前は一体誰の弟子なの?」

 師匠は私を憐れむどころか、こちらを残念そうな目で見下ろしていた。

「弟子のお前がダサいせいで、私が面倒なことに首を突っ込む羽目になったのよ。マルクは頭はいいんだから、自分でなんとかしなさいよ」

 自分は悪くないと思っていたから、このときの師匠の叱責の言葉に苛立ち、出かかっていたお礼の言葉は瞬時に消え失せた。

「ダサくてすみません」

 可愛げない口調で渋々謝ると、師匠に鼻で笑われた。

「そうそう、その憎まれ口を今度は忘れないでね。じゃあ、帰るわよ」

 馬車で自宅に戻るとき、私たちに間に会話はなかった。
 でも、不貞腐れて自分の部屋に戻ったあとだ。顔の怪我を治そうとしたとき、いつの間にか殴られた顔が痛くないことに気づいたのは。

 全部、治っていた。
 もしかして、額を小突かれたときだろうか。

 師匠の優しさは、いつだって分かりづらかった。
 彼女は理不尽な目に遭っていた私のために怒ってくれた。
 誰の弟子だと責めていたようで、実は暗に師匠である彼女の名前を使えと、一番の味方だと言ってくれた。
 頭が良い私なら、王子の問題行動をあしらえるだろうと、励ましてくれた。
 いつだって彼女の不器用な優しさに気づくのは、後になってからだった。
 

 
 §


 夜分、暗くて馬は使えないので、魔導車で周囲を明かりで照らしながら帰路を辿る。
 最近、まともにミーナと話していない気がした。
 私が帰宅する頃には、彼女はすでに就寝していた。
 自分の忙しさのせいとはいえ、せっかく再会したのだから、彼女の存在をもっと感じていたかった。
 いつも彼女の穏やかな寝顔を見て、柔らかい頬に触れ、黒い艶のある髪を撫でて癒されている。

 一抹の寂しさを抱えて帰宅すると、執事からミーナの手紙を渡された。

 彼女からのメッセージに思わず疲れた心が浮き足立つ。
 だが、読んだ直後、ここ最近で一番驚いた。

 早く会って相談したいとも書かれていたので、遅い時間とはいえ、彼女の部屋のドアをノックする。

「マルク、来てくれたのね」

 いつもは寝ているはずの時刻に彼女は起きていた。
 机の上には本が積み重なっている。どうやら読書していたようだ。

 彼女は寝間着で私を出迎えてくれる。
 私が用意した、ハイウエストタイプのワンピースだ。薄地の布地で、胸元が大きく開いている。
 フリル袖が可愛らしく、彼女にとても似合っていた。
 起きた状態で確認したのは初めてだった。
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