ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要

文字の大きさ
32 / 49
第4章 元下僕

4-10 恩返し

しおりを挟む
「ごめんね、色々と誤解して。むしろ会いに行ったら嫌がられるくらい思っていたのよ」
「あーそうだよな、そんな態度だったよな俺」

 カーズ先生がしょんぼりと首を垂れた。

 あのとき、絶対私を殺してやるって、凄まじい殺意だったのよ。まさか勝手に誤解が解けているなんて考えられなかった。

「無視もごめんね。あなたも気づいているとおり、大魔導士だってことは隠しているの」
「それもおかしいと思ったんだよ。なぜ校長の弟子になったんだ? 隠したいなら、余計目立つだろう? だから、校長に何か脅されて無理やり弟子にさせて、襲われているのかと心配していたんだぞ?」

 余計に目立っている。そう改めて指摘されて、自分の見込みが甘かったと思わずにいられなかった。

「校長の弟子については目立つんじゃないかと、私も懸念はしていたの」

 チラリとマルクを見ると、彼はいつの間にか部屋を完全に元通りにしていた。

「でも、彼女はうっかりなので、つい普通ではないことをしてしまうんですよ。中途の入学試験の結果もそうですし、図書館での出来事も。それをフォローしやすいように師弟関係を結んだんです。私の弟子なら、彼女の優秀さを誤魔化せると思ったのですが」

 マルクが説明を引き継いで話してくれた。

「彼女が大魔導士だと分かった決定打はなんだったんですか?」

「俺の気配に気づいたのと、エルフィン語を理解した点だ。あと、校長の手記に書いてあっただろう? 彼女が生まれ変わることを祈っていると。俺もずっと待っていた」

 二人が見つめ合う。しばらく言葉なく。でも、彼らの視線が、何かを訴えるようにお互いに視線を向ける。どちらも動じることはなかった。

 やがて、マルクが視線を逸らして、クローゼットらしき扉に向かう。

「私も着替えるので、二人は先に食堂に向かってください」

 そう言われたので、素直に部屋を出た。
 ところが、廊下に出て食堂に向かおうとした途端、カーズ先生がいきなり私の行き先を塞ぐように膝をつき、床に手をついて頭を下げていた。

「その、今まですまなかった! ずっと大魔導士様に謝罪とお礼を言いたかった! 助けてくれてありがとうございました!」
「あの、正直に言うと、あの組織に腹を立てて勝手にやったことだから、気にしなくていいのよ。そこまで重く受け止められると、私も困るわ」
「いいや! 恩知らずになりたくないから、是非ともあなたの元で働かせてくれ!」

 どうやら彼には何か信義があるらしい。
 決して私の言葉に流される様子はなかった。ずっと頭を下げている。

「そんなこと言われても。あっ、そういえば妹さんは元気なの?」

 都合が悪くなったので慌てて話題を逸らした。

「妹は、去年亡くなった」
「そんな……」
「いや、妹は俺とは違って魔導士の資質はなかったから一般人だったんだ。老衰だ。大勢の家族に囲まれて大往生だったらしい。俺も葬式に行ったけど、安らかな死に顔だった。この幸せも全部、大魔導士様のおかげなんだ!」

 あら、話題を変えたはずなのに戻ってしまったわ!

「それなら、あなたにさっそくやってもらいたいことがあります」

 マルクがドアを開けて出てきた。
 早い。もういつものスーツ姿に変わっている。髪型もすっかり決まっているわ。

「俺、校長先生には用はないんだけど」

 突然会話に入ってきたマルクをカーズ先生が顔を顰めて見ている。

「もちろん、彼女のためです」
「なら、なんだってやるぜ。とりあえず、しばらく俺もここで世話になるわ。大魔導士様が心配だしな」
「まぁ、打ち合わせも必要ですから構いませんが、用が済んだら早期のお引き取り願いします」
「意外にしょっぱいな、校長」
「正直、邪魔ですから。馬に蹴られますよ」
「俺には蹴られる要素はねぇよ。亡くなったカミさん一筋だしな」
「カーズ先生はとても好感の持てる人ですね。好きなだけご滞在ください」

 マルクは手のひらを返したようにカーズ先生に対して友好的になった。
 なるほど一途仲間ってことね!
 相性が悪かったのか二人の間にずっと火花が散っていたみたいだけど、すっかり意気投合したみたいで良かった。

 今朝の食事はマルクもいたし、カーズ先生もいたから、賑やかで楽しかった。
 やっぱり一人で食べるより、ずっといい。
 マルクは無理しなくいいって言っていたけど、少しは早起きを頑張ろうと思った。

 でも、平穏な雰囲気がカーズ先生から出たある話題で打ち消されてしまった。

「そういや、王宮から高等部に問い合わせがあったぞ。ヘブンス校長の弟子について。そんな生徒はいないって回答したけど、本当にこのまま師弟関係を続けて大丈夫なのか? あの国王、才能ある魔導士の女を愛妾にしまくっているだろう?」
「えっ、それってどういうことなの?」
「ほら、前に図書館で言っただろう? 俺の故郷では宣誓がないから、女子に人気だって。あれって国王の異常さを女の魔導士が嫌がっているからだよ。この国で高等部にいたら陛下に狙われるから女子だけ極端にいないんだぜ」

 突然こめかみを殴られたように、頭が真っ白になった。
 思わずマルクに視線を送ると、彼は沈痛な面持ちで首肯していた。

「不安はあると思いますが、あなたは私が守ります。絶対に」
「うん……」

 まだこの国は自分勝手な王のせいで、苦しんでいる者がいる。それを知って、暗澹とした気分が胸の中でとぐろを巻いた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...