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第5章 兄弟子
5ー6 王子の成長
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「周囲の声に耳を傾けられれば、自ずと答えは見つかりましょう」
影の存在がある以上、王子にこの場で口出しはできない。
だが、魔導士たちの不遇を彼が真剣に知ろうとすれば、私が説明せずともよい。
自分で調べろ。そう遠回しに伝える。
「そうか、そうだな。さっきの彼女に対して私が謝罪していたと伝えてくれないだろうか。驚かせて申し訳なかったと」
来る前の浮かれたような軽い態度は一切消えて、沈痛な顔をしていた。
元弟子の王子は、私の意図をきちんと受け取ってくれたようだ。
及第点な答えに満足して笑みを浮かべる。
「はい。彼女も殿下の優しいお言葉に心癒されることでしょう」
予想外なことに王妃の悩みは全部解決したようだ。
この様子なら、王子の調子に乗った振る舞いはかなり減るだろう。
「ところで殿下、この学校は本来関係者以外立ち入り禁止です。殿下も例外ではないので、必ず私の許可を得てからお越しください」
「そうだったのか、すまない」
いつもなら、なぁなぁで済まそうとする彼だが、今日はやけに素直に話を聞いてくれた。
よほど自分の父親の身勝手な振る舞いが堪えたらしい。
王子のこの変化は好都合だった。
ミーナがパニックを起こしたときはどうなるかと思ったが、彼女のおかげで私が何も手を打たずとも王子は改心し、王妃に貸しを作れた。
さすがだ。彼女が逃げるだけでもこれほどの効果があるとは。
「それにしても、あんなに必死に弟子を追いかける師匠の姿を見るとは思わなかった。彼女をずいぶん大事にしているんだな」
「大事なよそのお子様を預かっているので、危険の可能性があれば丁寧に対処しているだけです。それより殿下の今日のご予定は、私の弟子以外に何かございましたか?」
都合の悪い話題を逸らすために急な訪問の要件を尋ねれば、王子は顔つきを改めて私を見た。
「ああ、実はヘーリスト森林公園に現れた魔物について報告があった」
「何か判明しましたか?」
その森林公園は初等部の校外授業で行く予定だった。
ところが、魔物の出現報告があり、雲行きが怪しくなっていた。
都市の住居部は魔物対策のために高い防壁で囲まれている。
その外にある森林公園は様々な植物が自生し、薬草も数多く発見され活用されている。
都市に近く、定期的に魔物狩りを行い管理されているため、比較的安全な場所だ。
国軍の兵士たちの護衛のもとで、初等部では植物採取の教育と生徒同士に交流を兼ねて校外授業を計画していた。
「地図を出してくれ」
頼まれたので、執務用の机に魔導で立体的な地形図を作り出した。
実際には存在しないが、人の目には実際にあるように見える幻視系の魔導だ。
「さすがサクスヘル卿」
緻密な細工を要する魔導は、前世の師匠からも賞賛されるほどの腕前だったので元々自信があった。
殿下の言葉に礼を素直に述べた。
「公園にたまたま現れた魔物は、小さいメガラットだったから、偶然入り込んだものかと思われた。ところが、別のところでも魔物の発生報告があったんだ」
王子は公園よりもさらに北部の村を指差す。
「ここで現れた魔物は五体。種類はバラバラだ。小さいのはメガラットから、大きいものはマダラリザードまで目撃したらしい。普段はいない種類だそうだ。突然現れた原因は分からないが、リザードまで現れたら危険すぎる。このまま放置はできないから一部隊に討伐を命じて現地に向かっている。だから、そちらを解決するまでは、校外授業は難しいだろうと考えている」
軍の主力も魔導の力に大いに頼っている。
下級でナイフや剣の殺傷能力と同じ程度、中級なら広域攻撃も可能になる。
上級なら大型魔物にも対応可能だ。
「たしかに、大型の魔物まで南下して森林公園まで到達してはまずいですね」
「元々、リザード系は山岳部が生息域なはずだ」
王子が地図上の村から、さらに北側のリーデン山脈を指差す。
「ここで何かあったのか調査も必要かもしれないが、魔物が多く生息しているから、正直そこまで手が回らないだろう」
「こんなところにも上級魔導士不足の影響が出ているみたいですね」
「段位所持者みたいに上級者も若さを保てれば良かったな」
上級者くらいまでは普通に歳を取って、いずれは引退する。
「段位者も数えるほどしかいないですし、あてにならないでしょう」
特に陛下がやらかしたせいで。
「校外授業の件は了解しました。今のところは延期で検討しております」
「早急に解決できるよう努める。では、私はお暇させてもらう」
「わざわざお越しくださり、ありがとうございました」
こうして王子は帰って行った。
出した地図を消そうと、ふと見下ろす。
大型の魔物が住処から逃げ出すほどの原因か。
何事も、結果には、元になる原因があるという。
山脈は人が立ち入らず、ただ単に国境になっているほど手付かずの地帯となっている。
人為的な可能性は低いと思われた。
自然災害でも起こったのか――?
このときは、まだ誰も恐ろしい存在の可能性に全く気づいていなかった。
魔物の討伐に向かった部隊から、予想外の連絡が届くまでは。
影の存在がある以上、王子にこの場で口出しはできない。
だが、魔導士たちの不遇を彼が真剣に知ろうとすれば、私が説明せずともよい。
自分で調べろ。そう遠回しに伝える。
「そうか、そうだな。さっきの彼女に対して私が謝罪していたと伝えてくれないだろうか。驚かせて申し訳なかったと」
来る前の浮かれたような軽い態度は一切消えて、沈痛な顔をしていた。
元弟子の王子は、私の意図をきちんと受け取ってくれたようだ。
及第点な答えに満足して笑みを浮かべる。
「はい。彼女も殿下の優しいお言葉に心癒されることでしょう」
予想外なことに王妃の悩みは全部解決したようだ。
この様子なら、王子の調子に乗った振る舞いはかなり減るだろう。
「ところで殿下、この学校は本来関係者以外立ち入り禁止です。殿下も例外ではないので、必ず私の許可を得てからお越しください」
「そうだったのか、すまない」
いつもなら、なぁなぁで済まそうとする彼だが、今日はやけに素直に話を聞いてくれた。
よほど自分の父親の身勝手な振る舞いが堪えたらしい。
王子のこの変化は好都合だった。
ミーナがパニックを起こしたときはどうなるかと思ったが、彼女のおかげで私が何も手を打たずとも王子は改心し、王妃に貸しを作れた。
さすがだ。彼女が逃げるだけでもこれほどの効果があるとは。
「それにしても、あんなに必死に弟子を追いかける師匠の姿を見るとは思わなかった。彼女をずいぶん大事にしているんだな」
「大事なよそのお子様を預かっているので、危険の可能性があれば丁寧に対処しているだけです。それより殿下の今日のご予定は、私の弟子以外に何かございましたか?」
都合の悪い話題を逸らすために急な訪問の要件を尋ねれば、王子は顔つきを改めて私を見た。
「ああ、実はヘーリスト森林公園に現れた魔物について報告があった」
「何か判明しましたか?」
その森林公園は初等部の校外授業で行く予定だった。
ところが、魔物の出現報告があり、雲行きが怪しくなっていた。
都市の住居部は魔物対策のために高い防壁で囲まれている。
その外にある森林公園は様々な植物が自生し、薬草も数多く発見され活用されている。
都市に近く、定期的に魔物狩りを行い管理されているため、比較的安全な場所だ。
国軍の兵士たちの護衛のもとで、初等部では植物採取の教育と生徒同士に交流を兼ねて校外授業を計画していた。
「地図を出してくれ」
頼まれたので、執務用の机に魔導で立体的な地形図を作り出した。
実際には存在しないが、人の目には実際にあるように見える幻視系の魔導だ。
「さすがサクスヘル卿」
緻密な細工を要する魔導は、前世の師匠からも賞賛されるほどの腕前だったので元々自信があった。
殿下の言葉に礼を素直に述べた。
「公園にたまたま現れた魔物は、小さいメガラットだったから、偶然入り込んだものかと思われた。ところが、別のところでも魔物の発生報告があったんだ」
王子は公園よりもさらに北部の村を指差す。
「ここで現れた魔物は五体。種類はバラバラだ。小さいのはメガラットから、大きいものはマダラリザードまで目撃したらしい。普段はいない種類だそうだ。突然現れた原因は分からないが、リザードまで現れたら危険すぎる。このまま放置はできないから一部隊に討伐を命じて現地に向かっている。だから、そちらを解決するまでは、校外授業は難しいだろうと考えている」
軍の主力も魔導の力に大いに頼っている。
下級でナイフや剣の殺傷能力と同じ程度、中級なら広域攻撃も可能になる。
上級なら大型魔物にも対応可能だ。
「たしかに、大型の魔物まで南下して森林公園まで到達してはまずいですね」
「元々、リザード系は山岳部が生息域なはずだ」
王子が地図上の村から、さらに北側のリーデン山脈を指差す。
「ここで何かあったのか調査も必要かもしれないが、魔物が多く生息しているから、正直そこまで手が回らないだろう」
「こんなところにも上級魔導士不足の影響が出ているみたいですね」
「段位所持者みたいに上級者も若さを保てれば良かったな」
上級者くらいまでは普通に歳を取って、いずれは引退する。
「段位者も数えるほどしかいないですし、あてにならないでしょう」
特に陛下がやらかしたせいで。
「校外授業の件は了解しました。今のところは延期で検討しております」
「早急に解決できるよう努める。では、私はお暇させてもらう」
「わざわざお越しくださり、ありがとうございました」
こうして王子は帰って行った。
出した地図を消そうと、ふと見下ろす。
大型の魔物が住処から逃げ出すほどの原因か。
何事も、結果には、元になる原因があるという。
山脈は人が立ち入らず、ただ単に国境になっているほど手付かずの地帯となっている。
人為的な可能性は低いと思われた。
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このときは、まだ誰も恐ろしい存在の可能性に全く気づいていなかった。
魔物の討伐に向かった部隊から、予想外の連絡が届くまでは。
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