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第6章 大魔導士ウィスターナ
6ー2 恐れと決意
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私の肩に乗せているマルクの手が、不自然なほど震えていた。
この彼の異常な様子は、今まで見たことがないほどだ。
「マルク、大丈夫?」
彼を間近で見上げると、彼は泣きそうな顔をしていた。
「自分が情けないです。守ると言っておきながら、厄災には手も足も出ません。あなたの言ったとおり、上段の私が出撃してもあっさり殺されるでしょう」
彼の震えた声は、厄災への恐怖を物語っていた。
彼ですら、こんなに恐ろしいなら、他の人ならなおさらだろう。
気休めに「そんなことはない」とは言えなかった。
私が知るマルクの魔導の能力では、厄災には全然敵わないだろうと分かっていたから。
「厄災は私が対処するから、それが終わったあとのことはマルクに頼めるかしら?」
きっと大魔導士だと知られてしまう。そうなれば、あの男が私を狙ってくる。
「もちろんです。それは絶対に守ります。この命にかけても」
「マルク」
意図的にいつもよりも凄んだ声を発した。
目を吊り上げてマルクを睨みつける。
「私はあなたを死なせたくなくて表に出るの。簡単に命をかけるとか言わないで」
決断する直前、考えたの。私がこのまま正体を隠して過ごしたとき、マルクが死んでいなくなる未来を。
すごく悲しくて怖かった。
想像だけで、泣きそうになって、辛くて胸が潰れそうになるくらいだった。
それだけじゃない。魔導学校にいる同級生の家族も出撃したら死ぬだろうし、厄災が街までくれば私の家族だって危険だ。
都市が破壊されたら、生活だって成り立たなくなる。
自分のために、みんなの不幸を見て見ぬふりなんてできなかった。
すると、マルクの目がみるみる潤んで、彼は微かに震える唇を噛み締める。
次の瞬間、ぎゅっと彼に抱きしめられた。
「今の台詞でどれほど私が心動かされたのか、あなたには想像もつかないでしょうね」
彼の震えた涙声は、とても苦しく切なそうだった。
「同じように私もあなたを失いたくありません。万が一、あなたが死んだら今度こそ後を追いますから」
「マルク、そんな脅すようなこと言わないで。逆にすごく緊張しちゃうわ」
そんな風にマルクまで罪悪感を覚えて責任を取る必要はないのよ。
「……すみません。そんなつもりでは」
「じゃあ、厄災が近づいているだろうし、被害が増える前にさっさと行ってくるわね」
「え?」
悩んでいる暇はなかった。
戸惑うマルクに構わず、瞬時に転移の魔導を使い、聞いていた場所へ向かう。
ヘーリスト森林公園の北部にある村で魔物が出て、討伐中に厄災に襲われたのよね。
いくら私でも見知らぬ場所には転移できない。
この周辺は以前行ったことがあるから助かった。
厄災がいると思われる場所からかなり離れた地点に到着する。
街道沿いには兵士たちがいた。
見張りで待機していたようだ。
突然現れた私に驚いて、慌てて尋問してくる。
でも、静かなほうが作業に集中しやすいので、結界で彼らの介入を防いだ。
申し訳ないけど、今は説明している時間がもったいなかった。
すぐに音が聞こえなくなったので、さっそく周囲を探知で調べる。
魔力でマナを操り、マナを通して目的のものを探す。
私の魔力が及ぶ範囲は異常に広い。
その気になれば都市を一瞬で滅ぼせるくらいだから、私自身が人の形をした厄災になる可能性だってあった。
反社会組織アサークの主張内容もあながち間違いではない。
その冷酷な破壊行動をほとんどの魔導士は選択しないだけで。
前世の幼い子どものとき、唯一いた母親がろくに面倒をみてくれず、乞食のような生活をしていた。
通行人がたまに小銭を恵んでくれたおかげで、なんとか生き延びていた状態だった。
でも、そんな悲惨な生活は、偶然通りがかった老婆が私を拾ってくれたおかげで終わった。
私がマナを目で追っていたので、魔導の資質に気付かれたからだ。
その老婆のおかげで魔導学校に入学できた。
恩返しする前に老婆は老衰で死んでしまったけど。
私が知っていた人の優しさはそれだけだったけど、その人たちの施しがなければ生きていなかった。
魔導の基本は因果律。
だから私も自分ができる範囲で、他人に返すようにしていた。
稼ぎの一部は孤児院に寄附をし、出かけた先で老人に助けを請われたら対応する。
その二つを自分に課していた。
すぐに厄災を発見し、所在地を把握する。
厄災を結界の中に閉じ込めて、その周辺にあるマナを強制的に奪っていく。
マナを厄災から一つ残らず排除する。
本当に一瞬だった。厄災はあっけなく消えた。
今まで厄災を滅ぼそうと、多くの魔導士はマナを集めて厄災を攻撃した。
でも、そのせいで、逆に厄災に襲われる羽目になっていた。
敵はマナに惹かれる性質を持つ。
なぜなら、厄災自体はマナがないと存在できないから。
でも、厄災に探知される範囲に魔導士がいれば狙われてしまう。
マルクが殺されると思ったのは、この距離の問題だった。
問題が片付いたのでマルクの元に戻ると、彼は同じ場所に座っていた。
彼は私を見るなり立ち上がり、近づいて再び抱きしめてきた。
最近、彼に抱きしめられる回数が増えている気がする。
恥ずかしくてドキドキするけど、彼に触れられると心躍るみたいな幸福感も少なからず覚えていた。
「ミーナおかえりなさい。あなたから外の匂いがしますね」
「うん、ただいま。厄災は消えたから、もう大丈夫だよ」
「ありがとうございます。では、これから私と一緒に王宮へ行きましょうか」
「うん」
いよいよ私にとって恐ろしい戦いが始まる。
この彼の異常な様子は、今まで見たことがないほどだ。
「マルク、大丈夫?」
彼を間近で見上げると、彼は泣きそうな顔をしていた。
「自分が情けないです。守ると言っておきながら、厄災には手も足も出ません。あなたの言ったとおり、上段の私が出撃してもあっさり殺されるでしょう」
彼の震えた声は、厄災への恐怖を物語っていた。
彼ですら、こんなに恐ろしいなら、他の人ならなおさらだろう。
気休めに「そんなことはない」とは言えなかった。
私が知るマルクの魔導の能力では、厄災には全然敵わないだろうと分かっていたから。
「厄災は私が対処するから、それが終わったあとのことはマルクに頼めるかしら?」
きっと大魔導士だと知られてしまう。そうなれば、あの男が私を狙ってくる。
「もちろんです。それは絶対に守ります。この命にかけても」
「マルク」
意図的にいつもよりも凄んだ声を発した。
目を吊り上げてマルクを睨みつける。
「私はあなたを死なせたくなくて表に出るの。簡単に命をかけるとか言わないで」
決断する直前、考えたの。私がこのまま正体を隠して過ごしたとき、マルクが死んでいなくなる未来を。
すごく悲しくて怖かった。
想像だけで、泣きそうになって、辛くて胸が潰れそうになるくらいだった。
それだけじゃない。魔導学校にいる同級生の家族も出撃したら死ぬだろうし、厄災が街までくれば私の家族だって危険だ。
都市が破壊されたら、生活だって成り立たなくなる。
自分のために、みんなの不幸を見て見ぬふりなんてできなかった。
すると、マルクの目がみるみる潤んで、彼は微かに震える唇を噛み締める。
次の瞬間、ぎゅっと彼に抱きしめられた。
「今の台詞でどれほど私が心動かされたのか、あなたには想像もつかないでしょうね」
彼の震えた涙声は、とても苦しく切なそうだった。
「同じように私もあなたを失いたくありません。万が一、あなたが死んだら今度こそ後を追いますから」
「マルク、そんな脅すようなこと言わないで。逆にすごく緊張しちゃうわ」
そんな風にマルクまで罪悪感を覚えて責任を取る必要はないのよ。
「……すみません。そんなつもりでは」
「じゃあ、厄災が近づいているだろうし、被害が増える前にさっさと行ってくるわね」
「え?」
悩んでいる暇はなかった。
戸惑うマルクに構わず、瞬時に転移の魔導を使い、聞いていた場所へ向かう。
ヘーリスト森林公園の北部にある村で魔物が出て、討伐中に厄災に襲われたのよね。
いくら私でも見知らぬ場所には転移できない。
この周辺は以前行ったことがあるから助かった。
厄災がいると思われる場所からかなり離れた地点に到着する。
街道沿いには兵士たちがいた。
見張りで待機していたようだ。
突然現れた私に驚いて、慌てて尋問してくる。
でも、静かなほうが作業に集中しやすいので、結界で彼らの介入を防いだ。
申し訳ないけど、今は説明している時間がもったいなかった。
すぐに音が聞こえなくなったので、さっそく周囲を探知で調べる。
魔力でマナを操り、マナを通して目的のものを探す。
私の魔力が及ぶ範囲は異常に広い。
その気になれば都市を一瞬で滅ぼせるくらいだから、私自身が人の形をした厄災になる可能性だってあった。
反社会組織アサークの主張内容もあながち間違いではない。
その冷酷な破壊行動をほとんどの魔導士は選択しないだけで。
前世の幼い子どものとき、唯一いた母親がろくに面倒をみてくれず、乞食のような生活をしていた。
通行人がたまに小銭を恵んでくれたおかげで、なんとか生き延びていた状態だった。
でも、そんな悲惨な生活は、偶然通りがかった老婆が私を拾ってくれたおかげで終わった。
私がマナを目で追っていたので、魔導の資質に気付かれたからだ。
その老婆のおかげで魔導学校に入学できた。
恩返しする前に老婆は老衰で死んでしまったけど。
私が知っていた人の優しさはそれだけだったけど、その人たちの施しがなければ生きていなかった。
魔導の基本は因果律。
だから私も自分ができる範囲で、他人に返すようにしていた。
稼ぎの一部は孤児院に寄附をし、出かけた先で老人に助けを請われたら対応する。
その二つを自分に課していた。
すぐに厄災を発見し、所在地を把握する。
厄災を結界の中に閉じ込めて、その周辺にあるマナを強制的に奪っていく。
マナを厄災から一つ残らず排除する。
本当に一瞬だった。厄災はあっけなく消えた。
今まで厄災を滅ぼそうと、多くの魔導士はマナを集めて厄災を攻撃した。
でも、そのせいで、逆に厄災に襲われる羽目になっていた。
敵はマナに惹かれる性質を持つ。
なぜなら、厄災自体はマナがないと存在できないから。
でも、厄災に探知される範囲に魔導士がいれば狙われてしまう。
マルクが殺されると思ったのは、この距離の問題だった。
問題が片付いたのでマルクの元に戻ると、彼は同じ場所に座っていた。
彼は私を見るなり立ち上がり、近づいて再び抱きしめてきた。
最近、彼に抱きしめられる回数が増えている気がする。
恥ずかしくてドキドキするけど、彼に触れられると心躍るみたいな幸福感も少なからず覚えていた。
「ミーナおかえりなさい。あなたから外の匂いがしますね」
「うん、ただいま。厄災は消えたから、もう大丈夫だよ」
「ありがとうございます。では、これから私と一緒に王宮へ行きましょうか」
「うん」
いよいよ私にとって恐ろしい戦いが始まる。
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