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第6章 大魔導士ウィスターナ
6ー3 国王アーノルド
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リーカイド国の王アーノルドが、厄災出現の報告を聞いて、自室で酷く狼狽えていた。
「ああ、この国はお終いだ。厄災がすぐそばまで来ていると言うではないか! 早く逃げないと!」
アーノルドは厄災の恐ろしさを聞いて知っていた。
すでに上級の魔導士が亡くなっていることも。
「陛下、落ち着いてくださいませ。皆に不安が広まってしまいます」
王妃のベルダが苦言を呈する。
今は部屋に侍女と側仕えもいる。
主君としての威厳を気にしてのことだった。
「うるさい! これも大魔導士が死んだせいだ。彼女が生きていれば、こんなことにならなかった!」
「現在リスダム率いる魔導部隊と国軍が討伐に向かう予定です。どうかお気を確かに」
「はっ、どうせ厄災に殺されるに決まっている! 大魔導士のように優秀ではないからな。おい、そこのお前! 早く逃げる準備をしろ!」
「陛下、民たちに避難のご命令をなさらないのですか?」
「余の命あってのリーカイド国であろう。残った責務は全てラクシルに任せる」
「では陛下。すぐに委任状にご署名くださいませ。それなら陛下が王宮から移動しても問題なくなります」
王妃が冷静に対応して、侍女に書類作成の準備をするように指示する。
素早く用意されたので、王妃は机に向かい紙に流暢な文字で委任状を書いていく。
「陛下、これに署名を」
書類を渡された陛下は、しっかり目を通して納得した上でサインする。
魔導に執着する以外は、酷く能力的に劣っているわけではなかった。
「これで問題ないだろう?」
「はい」
アーノルドが書類を王妃に渡した直後、影の者が気配もなく急に現れた。
「陛下、失礼します。重大なお知らせです。厄災がいなくなったと連絡がありました」
突然の報告に部屋にいた者たちは、顔色を変えて唖然とした。
「それだけでは分からん。どういうことだ!?」
「はい、目撃した兵士によりますと、黒髪の少女が突然現れて巨大な魔導の結界を張ったと思ったら、厄災が消えていたそうです」
「黒髪の少女だと……!? その女を即刻余の前に連れて参れ!」
アーノルドの目の色が変わる。
狂気じみた笑みを浮かべ、先ほどの怯えは全くなかったように堂々と振舞う。
「ですが陛下、その少女は現れたときのように突然消えてしまったそうです。これから探し出しますが、すぐにお連れするのは難しいかと存じます」
影の報告にアーノルドは舌打ちする。
「仕方がない。だが、最優先の命令として行動しろ。大魔導士のような優秀な魔導士をようやく妃にできるのだから」
「妃でございますか? 愛妾ではなく?」
王妃が怪訝な顔で尋ねてくるので、アーノルドは煩わしそうに見返した。
「何か文句があるのか? まさか厄災から国を守った英雄を愛妾の一人にするわけにもいくまい。当然だろう」
「ですが、我が国の法では妃は一人だけです。私をどうなさるおつもりなんですか?」
「そのときはもちろん離縁してもらう。元々余は大魔導士と婚姻するはずだったが、彼女の死でそれが叶わなくなり、其方を大魔導士の代わりに娶ったに過ぎなかったのだ」
「さようでございましたか」
「これも優秀な後継ぎを残す為政者としての使命だ。其方も妃なら受け入れろ」
「はい、承知いたしました」
アーノルドは妃の従順な態度に満足そうにうなずく。
念願だった大魔導士に匹敵するほどの人材が現れたのだ。
ようやく手に入れられると浮かれていて、王妃には全く見向きもしなかった。
アーノルドは王子の頃から一つ下の腹違いの弟と常に比べられ、辛酸を舐めていた。
しかも、魔導の資質がいまいちで、それが一番彼の矜持を傷つけていた。
優しい母は血筋が一番大切だと慰めてくれたが、彼自身の何かが変わるわけではない。
逆に目障りな弟は、憧れだった大魔導士の弟子に選ばれ、さらに周囲に認められていた。
あの弟が称賛されるたびに、歯がゆい思いをしてきた。
だから、あの弟から大魔導士を奪い取ってやりたかった。
王である自分こそが彼女に相応しいと認めさせたかった。
ところが、彼女の急死でそれは叶わなくなった。
国王になってから愛妾を何人も囲ったが、誰一人大魔導士のような優秀な子を産まなかった。
辛うじて一人の愛妾が、そこそこ出来の良い男子を産んだくらいだった。
それでも王妃の子と比べて、特別抜きん出ているわけでもない。
それでは周囲に優秀だと認められない。全く満足できなかった。
しかも、無駄に年をとるにつれて、異母弟との資質の差はさらに歴然としてきた。
いつまでも若々しい弟に対して、アーノルドは老いていく一方だった。
皺が増えるたびに焦るばかり。
ついには厄災まで現れて、もう駄目かと諦めかけたが、思いかけず幸運が舞い込んだ。
求めていた少女が現れ、全ての問題が解決した。
彼女こそ運命の相手だと、アーノルドは強く思わずにはいられなかった。
「ああ、早く彼女を王宮に迎えたいものだ。大切にしてやろう」
もうすぐ叶う未来を想像して、アーノルドの口元には笑みが浮かぶ。
それからすぐだった。待ち望んでいた少女が王宮に現れたと報告が来たのは。
彼は直ちに彼女を呼び出した。
「ああ、この国はお終いだ。厄災がすぐそばまで来ていると言うではないか! 早く逃げないと!」
アーノルドは厄災の恐ろしさを聞いて知っていた。
すでに上級の魔導士が亡くなっていることも。
「陛下、落ち着いてくださいませ。皆に不安が広まってしまいます」
王妃のベルダが苦言を呈する。
今は部屋に侍女と側仕えもいる。
主君としての威厳を気にしてのことだった。
「うるさい! これも大魔導士が死んだせいだ。彼女が生きていれば、こんなことにならなかった!」
「現在リスダム率いる魔導部隊と国軍が討伐に向かう予定です。どうかお気を確かに」
「はっ、どうせ厄災に殺されるに決まっている! 大魔導士のように優秀ではないからな。おい、そこのお前! 早く逃げる準備をしろ!」
「陛下、民たちに避難のご命令をなさらないのですか?」
「余の命あってのリーカイド国であろう。残った責務は全てラクシルに任せる」
「では陛下。すぐに委任状にご署名くださいませ。それなら陛下が王宮から移動しても問題なくなります」
王妃が冷静に対応して、侍女に書類作成の準備をするように指示する。
素早く用意されたので、王妃は机に向かい紙に流暢な文字で委任状を書いていく。
「陛下、これに署名を」
書類を渡された陛下は、しっかり目を通して納得した上でサインする。
魔導に執着する以外は、酷く能力的に劣っているわけではなかった。
「これで問題ないだろう?」
「はい」
アーノルドが書類を王妃に渡した直後、影の者が気配もなく急に現れた。
「陛下、失礼します。重大なお知らせです。厄災がいなくなったと連絡がありました」
突然の報告に部屋にいた者たちは、顔色を変えて唖然とした。
「それだけでは分からん。どういうことだ!?」
「はい、目撃した兵士によりますと、黒髪の少女が突然現れて巨大な魔導の結界を張ったと思ったら、厄災が消えていたそうです」
「黒髪の少女だと……!? その女を即刻余の前に連れて参れ!」
アーノルドの目の色が変わる。
狂気じみた笑みを浮かべ、先ほどの怯えは全くなかったように堂々と振舞う。
「ですが陛下、その少女は現れたときのように突然消えてしまったそうです。これから探し出しますが、すぐにお連れするのは難しいかと存じます」
影の報告にアーノルドは舌打ちする。
「仕方がない。だが、最優先の命令として行動しろ。大魔導士のような優秀な魔導士をようやく妃にできるのだから」
「妃でございますか? 愛妾ではなく?」
王妃が怪訝な顔で尋ねてくるので、アーノルドは煩わしそうに見返した。
「何か文句があるのか? まさか厄災から国を守った英雄を愛妾の一人にするわけにもいくまい。当然だろう」
「ですが、我が国の法では妃は一人だけです。私をどうなさるおつもりなんですか?」
「そのときはもちろん離縁してもらう。元々余は大魔導士と婚姻するはずだったが、彼女の死でそれが叶わなくなり、其方を大魔導士の代わりに娶ったに過ぎなかったのだ」
「さようでございましたか」
「これも優秀な後継ぎを残す為政者としての使命だ。其方も妃なら受け入れろ」
「はい、承知いたしました」
アーノルドは妃の従順な態度に満足そうにうなずく。
念願だった大魔導士に匹敵するほどの人材が現れたのだ。
ようやく手に入れられると浮かれていて、王妃には全く見向きもしなかった。
アーノルドは王子の頃から一つ下の腹違いの弟と常に比べられ、辛酸を舐めていた。
しかも、魔導の資質がいまいちで、それが一番彼の矜持を傷つけていた。
優しい母は血筋が一番大切だと慰めてくれたが、彼自身の何かが変わるわけではない。
逆に目障りな弟は、憧れだった大魔導士の弟子に選ばれ、さらに周囲に認められていた。
あの弟が称賛されるたびに、歯がゆい思いをしてきた。
だから、あの弟から大魔導士を奪い取ってやりたかった。
王である自分こそが彼女に相応しいと認めさせたかった。
ところが、彼女の急死でそれは叶わなくなった。
国王になってから愛妾を何人も囲ったが、誰一人大魔導士のような優秀な子を産まなかった。
辛うじて一人の愛妾が、そこそこ出来の良い男子を産んだくらいだった。
それでも王妃の子と比べて、特別抜きん出ているわけでもない。
それでは周囲に優秀だと認められない。全く満足できなかった。
しかも、無駄に年をとるにつれて、異母弟との資質の差はさらに歴然としてきた。
いつまでも若々しい弟に対して、アーノルドは老いていく一方だった。
皺が増えるたびに焦るばかり。
ついには厄災まで現れて、もう駄目かと諦めかけたが、思いかけず幸運が舞い込んだ。
求めていた少女が現れ、全ての問題が解決した。
彼女こそ運命の相手だと、アーノルドは強く思わずにはいられなかった。
「ああ、早く彼女を王宮に迎えたいものだ。大切にしてやろう」
もうすぐ叶う未来を想像して、アーノルドの口元には笑みが浮かぶ。
それからすぐだった。待ち望んでいた少女が王宮に現れたと報告が来たのは。
彼は直ちに彼女を呼び出した。
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