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しおりを挟む「善くんの…!あなたの、残りの時間全部下さい!」
余命宣告を受けた病室で、両親と僕を前にして、まさりは誰よりも必死な顔でそう言った。両目に涙を溜め込んで、いつもの様に我慢強く、精一杯何度も頭を下げていた………
まさりになんて答えようか、返答に迷って迷って、その時は是も非も言えなかったのを、あの時ほど後悔した事はないと思う………
その数日後、毎日の様にお見舞いに来ては頭を下げていたまさりがパッタリと病室に来なくなった………その理由を僕が知ったのはさらに数日経ってからだ。幸いな事?にここに彼女が運び込まれたから分かった事で……結果として、彼女、まさりは交通事故で、亡くなっていた…………
……………………………
まさり………彼女にあったのはこの病院でだ。たまたまお天気の日に、散歩と気分転換を兼ねて屋上へ日向ぼっこをしに出かけた時に、まさりがいた。
多分、一番最初に僕は目を逸らしたと思う。同じ年代の奴には会いたくも無い。市内の病院に入院中だし、もしかしたら知っているやつかもしれないし、お見舞いに来てる奴にも顔見知りなんかがいるかもしれないから……もう、何ヶ月も学校に行っていない身としては、顔を覚えられているかも怪しい所だが、それでも同級生だったなら名前は出て来なくても顔くらいは見たことあるだろうし……だから、目を、顔を逸らす……
「こんにちは~~?」
「…………」
めっちゃ明るい声が聞こえる……
「あれ?聞こえなかったかな?こ~んに~ちは~~?」
まさか、僕……?この屋上に出ているのは付き添いと一緒にいる杖ついてるお婆ちゃんと、向こうのほうで腕を回して体操している中年のおじさんと、僕だけで……
「そこのお兄~~さん?聞こえてますか~?」
やっぱり、僕だ………
そっと目線だけで確認しても、知っている顔じゃ無いから知り合いでは無い…誰?あれ……
「あ、こっち向きましたね?聞こえてるでしょう?お兄さ~ん?ちょっとお話ししましょうよ!」
正直、うぇって思った。なんで見知らぬ同年代の女の話に付き合わなきゃいけないんだって、心の中はトゲトゲしていたし…
「やっぱり!ちゃんと聞こえてるじゃ無いですか!ね?お兄さん、少しでいいからお話に付き合って?」
屈託なく笑う彼女の笑顔は太陽の日に照らされてキラキラして見えた……そして、やっぱり、僕とは縁のないものだってよく分かった…………
「お兄さん、こっちこっち!ここからだと景色が凄く綺麗だから、こっちきて?」
自分から声をかけた彼女は、自分の所まで僕を呼びつける気でいる。良く見たら、彼女の足にはギブスが見えた。
「歩けないの……?」
ついポソリ、と聞いてしまって、しまった、と思ったけど、もう遅かった…
彼女はそれは嬉しそうに満面の笑顔になってニコニコしながら自分の方へと勢いよく僕を手招きする。
「そう!ぽっきり折れちゃってるの!だからこっち!ね?一緒に景色でもみよ?」
一緒に?変哲もない病院からの街中の景色…何がそんなに楽しいのか、僕にはさっぱりとわからない。けれど彼女はニコニコとして笑顔を崩さない。
「…一人で来たの?」
ぽっきり折れちゃってる脚とやらを引きずって、付き添いもなくここまで?
「そうそう!相棒はこれ!」
僕からは見えない場所にちゃんと松葉杖がある。
「お兄さんは?一人で来たの?」
明らかに、病人です、と言う風体の僕…パジャマにガウンにサンダルに、痩せてきちゃってる顔に身体…どう見ても健康体ではない…
「……まぁね…」
ちょっと真剣な顔をした彼女。付き添いなしの僕を心配でもしたんだろうか?まだそんなに心配してもらうほどじゃあないのに…
「やっぱ…カッコイイ……」
呆けた様な物言いは、彼女の本音なんだろう。心配は?病人とか、そんなのすっ飛ばした彼女の最初の僕への感想がこれだった。
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