[完]僕の前から、君が消えた

小葉石

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 自分の言葉に後悔先に立たず…まさりにいいよ、と言った後には本当に嬉しそうに微笑まれてしまって何も言えずに僕は目を閉じた。
 その後直ぐに担当看護師が入室してきてまさりがいる事に驚いてたけど、病院でリア充とは!と散々揶揄われてしまってはお開きになった。

 そう、その時は………





「へぇ?まさりちゃんって言うのね?あ、これ食べる?食べやすくて美味しいのよ?ビタミンもたっぷり!」

「わぁ!美味しそうです!ありがとうございます!ほら、善君、一緒に食べよ?」

 そう言ってが持ってきてくれたフルーツゼリーをまさりが僕に渡してくる。なぜ……?それ、食欲が全然出ないぼくのお見舞い用じゃ?

「まさか、善にこんなに可愛いお友達がいるとは思わなかったから。お母さんびっくりしちゃったわよ?」

 なんて、ニコニコニコニコ……顔面にニコニコ面でも付けているのかっていうくらいの笑顔でまさりと楽しそうに話しちゃって、まさりもすっかり馴染んでるし…

「えへへ、つい最近お友達になったんですよ~あ、これ美味しいですね?」

 まさり、楽しそうだね…?

「最近?」

「はい!私も入院中で…」

「あぁ、怪我をされたの?」

「はい…足の骨折なんですけど。」

「まぁ、痛かったでしょうね?」

「あ、もう全然痛くありませんよ?善君、食べないの?お母さんが持ってきてくれたやつ。」

 楽しそうに母と話していると思ってたら、ちゃっかり手付かずのぼくのゼリーにまさりは目をつける。正直、食欲ない…

「はい、かして?開けてあげるから!これ、ちょっと蓋取るのに力いるよね?」

 まさりはさっと僕からゼリーを奪うと、事もなげにカパッと蓋を取って僕にゼリーを渡してくる。

「はい、どうぞ?美味しいよ?食べやすかったよ?」

 まさりも僕がほぼ食事をしていないの分かっているみたいだ。ジッと僕を観察する様に見てる……

「……分かった…食べる…」

 僕の根負け…食べたくは無いけど、ゼリーを口に運ぶ。

「……美味し……」

「ね?ね?美味しいよね?善君のお母さん、凄い美味しいお店を知ってるね?」

 極、普通のゼリーだと思う…特別な有名店の物でもないと思う。きっとどこでも売っているようなゼリーだ。食べたく無いのに、自然に次々と喉を通っていったのには自分でも不思議だけど…

「良かった…善、食べれるね?」

 ほっとした様な、力の抜けた様な母の声が聞こえたから、そっちを見ようと目を向けたら、目の前に、ズイッともう一つ他の味のゼリーが突きつけられてた。

「はい!もう一個いこう!善君、もう一個!」

「………なんで?」

 今、やっと一つ食べ終わったばかりなんだけど?

「だって、朝食食べれてなかったでしょ?だから、もう一個!」

 なんでまさりが僕の朝食摂取量を知っているのか分からない…こわ……けど、期待のこもった母の視線がまさりの背後から僕に追い討ちをかけてくる。

「…………………」

 分かった……分かりましたよ……食べます……僕は二個目のゼリーに手を出した。








「今日は食欲もあった様で、ゼリーを二個も食べたんですよ。」

 廊下、からか嬉しそうな母の声が聞こえてきた。あの後まさりとのお喋りにも(一方的にまさりが喋っているのをただ聴いているだけだけど)疲れてしまって僕がウトウトし出したところで今日の面会は終了。

「また顔を見せにきてね?待ってるからね?」

 母が誰かにそう声をかけていた…しばらくして、僕は本当に寝入ってしまった。






「良かったね、善…あの子、凄く良い子で…また、来てくれるって…」

 僕が寝ていると分かっていてもこうして時々独り言の様に母は喋っている。もう、長く入院していると親子であっても何の話をすれば良いのか話題がない事だってある。体調や回復が思わしくなければ尚の事、お互いの口は重くなんるだ……








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