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だからだろうか。まさりがここにいるのが当たり前になってて、普通の治療の最中だって医師からの話の時だって、当然の様にここにいる。家の家族の誰一人として、何ら疑問もなくここにいる。
「薬……しないの?」
ここ、数日は少し気分がいい。いつもならキツい薬を使われるからその薬の影響も体調不良に繋がってて、数日はベッドから出る事もできなくなる。が、気が付いたらその薬の時間がやってこない。
「ん…そうね。」
少し、悲しげな母の顔が気になったが、強い薬を使わなくても良いのは正直助かる。少しだけ、睡眠も取れるし、食欲も戻ってくるから…
「何か食べたいものある?今、買ってこようか?」
暑い中、面会に来た母が言う。
「今来たばかりだろ?別に良いよ…」
「あ!じゃあ、私が言ってこようか?善君何が良い?」
「いや、お前足骨折してるじゃん…座っとけよ…」
ただでさえ、来いと言わなくても毎日歩いてくるのに…
「そうねぇ~じゃ、売店でアイスは?善、それだったら食べられる?」
「ん~いけそう、かな。」
「じゃあ!私!行ってきます!もう足、痛くないし!」
「そう?じゃぁ、お願いしちゃおうかな?」
「は~~い!」
高校生なんだけど、正直まさりの元気な返事は小学生みたいだ。なんて思いながらまさりに売店まで行ってもらう。その入れ替わりに父が来て、父と一緒に担当医が病室にやってきた…………
「あ~ちょっと、善君今、良いかな?」
いつも明るくて笑いを持ってくるまだ中堅位の担当医。今日は何だか歯切れが悪い……
「いつもお世話になってます!」
決まって母がする挨拶を笑顔で受けて先生は真面目な顔をした父と一緒に入ってきた。
「パパも一緒だったのね?どうしたの?」
母の疑問に父が少しだけ苦笑して小さく肯いた。ちょっと母は目を見開いて驚いた様な表情をしたけど、直ぐにいつもの柔らかい表情を貼り付けたみたいな顔になる………?
「………?」
「善君………少し、大事な話をしよう…」
そう切り出した先生の表情は笑顔を作っていたけど眉は苦しそうに寄っている。
こう言う時の話は、大抵良くない事だ…大抵…………
話が進むにつれて、母の表情が能面の様に消えていく。片手は父をもう片手は僕の手を握りしめて、その母の手がだんだん震えてくるのが、より僕を現実に引き止めた。先生が説明してくれた難しい内容は…ほぼ、頭に入ってこない…
分かった事は、薬はもう使えない事…これからはなんでも好きに、自由に過ごして良い事。会いたい人がいるなら、早目に会う様にしようと言う事、その為に医療スタッフは協力を惜しまないと言う事…僕の寿命が後、数ヶ月だと言う事………………
カン、コン…ガラン、カランカラン……
廊下から聞こえてきた金属音や、物を落とした音で、その場で止まってしまっていた時間がもう一度一斉に動き出した。
まさり………大きな目を更に大きくして病室の入り口でマネキンの様に固まっている。足元にはまさりの松葉杖と買ってきただろう数種類のアイスが転がっていた…
「まさりちゃん………」
父が、困った様な笑顔をまさりに向けてる。その笑顔が半泣きに見えるのは冗談じゃないと思う。
なんで、こんな話をまさりに聞かせるんだ…!まさりの顔から笑顔が消えた瞬間に僕の心の中によぎった感想…悲しいとか、苦しいとか恐怖とかの前に、何故か怒りが湧いてくる。
「な……に…?」
まさりからやっと出たであろう言葉が聞こえた。
「あらあら、どうしました?」
松葉杖やアイスやらを落とした音を聞きつけて看護師が病室前まで来てくれる。落ちた物を拾いつつ病室の中の状況を見た瞬間に何か察してくれた様で、そっとまさりを病室内に誘導して部屋のドアを閉めてくれた……
「薬……しないの?」
ここ、数日は少し気分がいい。いつもならキツい薬を使われるからその薬の影響も体調不良に繋がってて、数日はベッドから出る事もできなくなる。が、気が付いたらその薬の時間がやってこない。
「ん…そうね。」
少し、悲しげな母の顔が気になったが、強い薬を使わなくても良いのは正直助かる。少しだけ、睡眠も取れるし、食欲も戻ってくるから…
「何か食べたいものある?今、買ってこようか?」
暑い中、面会に来た母が言う。
「今来たばかりだろ?別に良いよ…」
「あ!じゃあ、私が言ってこようか?善君何が良い?」
「いや、お前足骨折してるじゃん…座っとけよ…」
ただでさえ、来いと言わなくても毎日歩いてくるのに…
「そうねぇ~じゃ、売店でアイスは?善、それだったら食べられる?」
「ん~いけそう、かな。」
「じゃあ!私!行ってきます!もう足、痛くないし!」
「そう?じゃぁ、お願いしちゃおうかな?」
「は~~い!」
高校生なんだけど、正直まさりの元気な返事は小学生みたいだ。なんて思いながらまさりに売店まで行ってもらう。その入れ替わりに父が来て、父と一緒に担当医が病室にやってきた…………
「あ~ちょっと、善君今、良いかな?」
いつも明るくて笑いを持ってくるまだ中堅位の担当医。今日は何だか歯切れが悪い……
「いつもお世話になってます!」
決まって母がする挨拶を笑顔で受けて先生は真面目な顔をした父と一緒に入ってきた。
「パパも一緒だったのね?どうしたの?」
母の疑問に父が少しだけ苦笑して小さく肯いた。ちょっと母は目を見開いて驚いた様な表情をしたけど、直ぐにいつもの柔らかい表情を貼り付けたみたいな顔になる………?
「………?」
「善君………少し、大事な話をしよう…」
そう切り出した先生の表情は笑顔を作っていたけど眉は苦しそうに寄っている。
こう言う時の話は、大抵良くない事だ…大抵…………
話が進むにつれて、母の表情が能面の様に消えていく。片手は父をもう片手は僕の手を握りしめて、その母の手がだんだん震えてくるのが、より僕を現実に引き止めた。先生が説明してくれた難しい内容は…ほぼ、頭に入ってこない…
分かった事は、薬はもう使えない事…これからはなんでも好きに、自由に過ごして良い事。会いたい人がいるなら、早目に会う様にしようと言う事、その為に医療スタッフは協力を惜しまないと言う事…僕の寿命が後、数ヶ月だと言う事………………
カン、コン…ガラン、カランカラン……
廊下から聞こえてきた金属音や、物を落とした音で、その場で止まってしまっていた時間がもう一度一斉に動き出した。
まさり………大きな目を更に大きくして病室の入り口でマネキンの様に固まっている。足元にはまさりの松葉杖と買ってきただろう数種類のアイスが転がっていた…
「まさりちゃん………」
父が、困った様な笑顔をまさりに向けてる。その笑顔が半泣きに見えるのは冗談じゃないと思う。
なんで、こんな話をまさりに聞かせるんだ…!まさりの顔から笑顔が消えた瞬間に僕の心の中によぎった感想…悲しいとか、苦しいとか恐怖とかの前に、何故か怒りが湧いてくる。
「な……に…?」
まさりからやっと出たであろう言葉が聞こえた。
「あらあら、どうしました?」
松葉杖やアイスやらを落とした音を聞きつけて看護師が病室前まで来てくれる。落ちた物を拾いつつ病室の中の状況を見た瞬間に何か察してくれた様で、そっとまさりを病室内に誘導して部屋のドアを閉めてくれた……
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