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校長室
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部屋の中には二人の人間がいた。
どちらも神官服をまとい、威厳が感じられる。おそらく机についている立派なひげを蓄えた人物が校長、もう一人は高位の神官なのだろう。北の神官とは徽章が違うので、身分はわからないけれど。
俺は膝をついて深々と頭を下げる。これは、帝国でも北でも変わりない礼の仕方のはずだ。
「神官様。精霊に祝福を」
「頭を上げたまえ、ローレンス」
俺が立ち上がって顔を上げると、神官たちがこちらをじっと観察していた。
まさか、変なふるまいをしてしまったのではないだろうか。俺の心はドキドキする。
「事情は聴いているよ」おそらく校長であろう神官は手元の書類に目を落としながらいう。
「事故にあったそうだね。それで、記憶が混乱していると」
俺はうなずいた。
「学校に戻って、なにか思い出せることはあったかな」
俺は黙って首を振る。
「何も覚えていないと……人も物も?」
俺は再びうなずく。
校長はちらりともう一人の神官を見やった。もう一人は深くフードをかぶり、顔が隠れている。
「それでは、儀式のことも覚えていない、そうですね」
見た感じよりも若い声だった。儀式という言葉が微妙に強調されている。
帝国の守護獣を呼び出すということ以外、詳しい内容は何も知らされていないのだが。
「今、この学園では重要な儀式を行っています。帝国の守護獣の代替わりをする神聖かつ厳粛な儀式です。儀式に参加するものは帝国の貴族子弟、あるいはこの学校に在籍する者に限られます」
神官は俺の表情をみつめ、言葉を切った。
「ローレンス・デリン。貴方もその儀式に参加していました。その記憶は?」
俺はあいまいに首を振る。俺の反応に校長と神官は顔を見合わせた。
「まぁ、いいでしょう。儀式についての指示はその都度与えられます。困ったことがあれば、聞きに来てください。それから、これが一番肝心なことですが……」
神官が俺のほうへ近づいてきた。ちらりと見えた口元に笑みが浮かんでいるようで、俺は緊張する。
「儀式の内容を外に漏らすことは厳重に禁じられています。本来なら儀式が行われていることすら外部に漏れてはならないのです。意味が分かりますか」
俺は思わず身を引いた。フードの奥の笑顔がとても怖い。
「今年、関係者を集めてその話をしました。関係者というのは高位貴族とその眷属たちです。貴方もその中に含まれていましたが、すべてを忘れているようですのでもう一度その戒めを伝えましょう」
彼の口調はどこか詠唱のように響いた。
「一つ、これは神聖な儀式であること。これは大精霊を召喚するための一連の儀式であることを忘れてはならない。仲間を集めなさい。仲間とのきずなを深め、精霊の恵みに感謝をささげなさい。
一つ、儀式はひそかに行われるものであること。儀式に参加するもの以外に秘儀のことを話してはなりません。それは親兄弟といえどもです。参加するものは沈黙を誓い、それを破るのであれば精霊から見放されることを覚悟しなければなりません。
一つ、すべての儀式は愛の教えに基づくものであること。儀式は優劣を競ったり、利益を得たりするものではありません。純粋な気持ちで精霊と向き合わなければなりません」
流れるようによどみなく神官は一気に話す。
「わかりましたか? ローレンス、よこしまな思いで儀式に参加してはなりません。この儀式が義務であり、栄達に結びつくことはないことを忘れないでください」
その冷ややかな声が、胸の奥に重く響き、俺はただ押し黙ってうなずくことしかできない。
「説明は以上です。事故で頭を打ったそうですが、体のほうには異常はないですね。
もし、学生生活で困ったことがあれば、私共も力になります。いつでも相談に来てください。また、細かいことは同室の生徒や同学年の生徒に尋ねなさい。暮らしているうちに記憶が戻ってくるかもしれませんからね」
そう言って神官は軽く肩をたたいた。
その一瞬の接触で、自分が見透かされているかとおもった。
彼らは俺がローレンスだと信じているのか?替え玉だとばれたのだろうか?
「イーサン」
ドネイ先生は扉を開けて、外で待っていた同室の少年を呼びいれる。
「彼の状態についての話は聞いているね。学園を案内してあげなさい」
少年の青い瞳が無感動に俺に向けられた。
「ああ、でもその前に部屋に案内して使い方を教えてやってくれ。新入生のように」
どちらも神官服をまとい、威厳が感じられる。おそらく机についている立派なひげを蓄えた人物が校長、もう一人は高位の神官なのだろう。北の神官とは徽章が違うので、身分はわからないけれど。
俺は膝をついて深々と頭を下げる。これは、帝国でも北でも変わりない礼の仕方のはずだ。
「神官様。精霊に祝福を」
「頭を上げたまえ、ローレンス」
俺が立ち上がって顔を上げると、神官たちがこちらをじっと観察していた。
まさか、変なふるまいをしてしまったのではないだろうか。俺の心はドキドキする。
「事情は聴いているよ」おそらく校長であろう神官は手元の書類に目を落としながらいう。
「事故にあったそうだね。それで、記憶が混乱していると」
俺はうなずいた。
「学校に戻って、なにか思い出せることはあったかな」
俺は黙って首を振る。
「何も覚えていないと……人も物も?」
俺は再びうなずく。
校長はちらりともう一人の神官を見やった。もう一人は深くフードをかぶり、顔が隠れている。
「それでは、儀式のことも覚えていない、そうですね」
見た感じよりも若い声だった。儀式という言葉が微妙に強調されている。
帝国の守護獣を呼び出すということ以外、詳しい内容は何も知らされていないのだが。
「今、この学園では重要な儀式を行っています。帝国の守護獣の代替わりをする神聖かつ厳粛な儀式です。儀式に参加するものは帝国の貴族子弟、あるいはこの学校に在籍する者に限られます」
神官は俺の表情をみつめ、言葉を切った。
「ローレンス・デリン。貴方もその儀式に参加していました。その記憶は?」
俺はあいまいに首を振る。俺の反応に校長と神官は顔を見合わせた。
「まぁ、いいでしょう。儀式についての指示はその都度与えられます。困ったことがあれば、聞きに来てください。それから、これが一番肝心なことですが……」
神官が俺のほうへ近づいてきた。ちらりと見えた口元に笑みが浮かんでいるようで、俺は緊張する。
「儀式の内容を外に漏らすことは厳重に禁じられています。本来なら儀式が行われていることすら外部に漏れてはならないのです。意味が分かりますか」
俺は思わず身を引いた。フードの奥の笑顔がとても怖い。
「今年、関係者を集めてその話をしました。関係者というのは高位貴族とその眷属たちです。貴方もその中に含まれていましたが、すべてを忘れているようですのでもう一度その戒めを伝えましょう」
彼の口調はどこか詠唱のように響いた。
「一つ、これは神聖な儀式であること。これは大精霊を召喚するための一連の儀式であることを忘れてはならない。仲間を集めなさい。仲間とのきずなを深め、精霊の恵みに感謝をささげなさい。
一つ、儀式はひそかに行われるものであること。儀式に参加するもの以外に秘儀のことを話してはなりません。それは親兄弟といえどもです。参加するものは沈黙を誓い、それを破るのであれば精霊から見放されることを覚悟しなければなりません。
一つ、すべての儀式は愛の教えに基づくものであること。儀式は優劣を競ったり、利益を得たりするものではありません。純粋な気持ちで精霊と向き合わなければなりません」
流れるようによどみなく神官は一気に話す。
「わかりましたか? ローレンス、よこしまな思いで儀式に参加してはなりません。この儀式が義務であり、栄達に結びつくことはないことを忘れないでください」
その冷ややかな声が、胸の奥に重く響き、俺はただ押し黙ってうなずくことしかできない。
「説明は以上です。事故で頭を打ったそうですが、体のほうには異常はないですね。
もし、学生生活で困ったことがあれば、私共も力になります。いつでも相談に来てください。また、細かいことは同室の生徒や同学年の生徒に尋ねなさい。暮らしているうちに記憶が戻ってくるかもしれませんからね」
そう言って神官は軽く肩をたたいた。
その一瞬の接触で、自分が見透かされているかとおもった。
彼らは俺がローレンスだと信じているのか?替え玉だとばれたのだろうか?
「イーサン」
ドネイ先生は扉を開けて、外で待っていた同室の少年を呼びいれる。
「彼の状態についての話は聞いているね。学園を案内してあげなさい」
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「ああ、でもその前に部屋に案内して使い方を教えてやってくれ。新入生のように」
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