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露見
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頭が反応しなかった。
「あ、その……」
「君はラーク、ローレンスじゃないだろう」
動かしがたい事実のように、きっぱりと断定されて言葉に詰まる。
覚えていないとか、知りませんとかいっても彼はごまかされない。無理だ。
「えっと、その……どうしてわかった?」
イーサンの無機質な目を正面から見返す。もう観念して開き直るしかない。
俺は回らない頭を回す。逃げよう。今日のうちに。荷物をまとめるのなら早いほうがいいだろう。
「……ラークとあまりに違いすぎる。行動や仕草、嗜好もね……君は北部辺境の出身だろ」
そこまで特定されているとは。俺はおののく。
「だと思ったよ。君が食堂でちょっかいを出した相手にかけた技、あれ、北部で使われている護身術だろ。一度みたことがある」
何かを思い出したようにイーサンの表情が緩んだ。
「よくよく気を付けると、微妙に発音が違う。矯正はしたみたいだけれど、完全ではないな」
「あー、やっぱり」
何度も直すように言われていたけど、完ぺきにはいかなかったようだ。俺はがっくりと頭を抱える。
「なんで、ラークのふりをしてここにもぐりこんできたんだ?」
怖い先生に説教されているような気がしてきた。きちんと姿勢を正して答えなければいけないような。目の前にいるのは、同い年の生徒なのに。
「……一つには儀式に参加すること。公家の子弟が参加しなきゃダメとか何とか言われたから」
俺はイーサンの表情をうかがった。彼はなるほどねとうなずく。
「影武者ってわけか。それで、ラークは、本物のローレンスは、それでどこにいるんだ?」
「どこにいるって、それがわからないから俺がここにいるんだろ?」
淡々と質問していたイーサンの青い目が初めて動いた。
「……事故とか、病気とかそういう理由じゃないのか?」
「だから、わかんないんだよ。行方不明なんだ。……どこかへ失踪した」
「まさか、誘拐?」
イーサンの顔が険しさがます。
「いやいや、そんな大げさなことじゃないと思うぞ。……俺的には駆け落ちでもしたのじゃないかと思ってる」
「確かに、誘拐はあり得ないな」
俺の言葉を無視して、ぶつぶつとイーサンはつぶやく。
「あの、デリン家が子供の守りを固めてないはずはない。それなのに、失踪?」
俺がここにとどまることができるかどうかの瀬戸際だ。頭の片隅で、送り出されてたった一日で帰ってきたことへの言い訳を考える。身バレして任務に失敗しました、って戻ったら、デリン家の連中、怒るかな?親父の名誉に傷をつけることにはならないかな?
「だから、その失踪の手掛かりを見つけてほしいといわれてだね。俺がここに来たんだよ。二つ目の理由だね」
俺の感触ではこちらのほうが俺が送り込まれた主な理由だと思う。デリン夫人も執事も、本当にローレンスのことで心を痛めているようだったから。
俺はなにかを考えこんでいるイーサンの様子をうかがう。彼も単純にローレンスの失踪に驚いていた。ということは、同室だった彼は失踪そのものにはかかわっていない。
ただ、失踪につながる手掛かりを知っているかもしれない。失踪の原因となった人物とか。ここで撤退するにしてもなるべく情報が欲しい。でも、どうやったら聞き出せるかな。この状況で暴力を使うのは論外だし、頭を使うのは苦手だ。
「ラークが失踪したのはいつだ?休みの間か?」
しばらくして、イーサンが聞いてきた。
「うーん、学校から戻ってこなかったらしい」
戻ってこなかった? イーサンは口の中で繰り返した。イーサンの表情は険しいままだ。
「それで、学校で失踪したのではないかとデリン家はにらんで、だから俺を派遣したらしいね」
詳しいことはわからないけど、と俺は付け足す。
「神殿から、連絡はなかったのか?」
「? そんな話は聞いていない。神殿と何か関係があるのか?」
神殿? 女神官と関係があったとか? ありえないな。俺は故郷の怖いお姉さま方を思い出した。帝国ではどうなのかしらないけれど、北の女神官は男にも恐れられている。
それよりも、関係がありそうなのは例の儀式だ。わざわざ、校長室で俺に釘を刺したくらいだ。なにかあったのかもしれない。あのすべてを見透かしたような神官なら、たくらみの一つや二つしてるだろ。
「それは……」
イーサンはまた腕組みをしてしばらく考え込む。青い目が俺ではなく宙をにらんでいた。
彼はどうやらすぐに俺が偽物であることを密告する気はないみたいだ。ひょっとしたら、協力してくれるだろうか。対価に何を出せばいいのかわからないけど、うまく交渉すれば……
「あのさ、」俺はおずおずと切り出した。
「このことを黙っておいてくれないかな。しばらくでいいんだ。本物のローレンスが見つかるまで。見つかったら、元に戻る予定なんだ。それまで、な」
「いいよ……」
拍子抜けするほどあっさりとイーサンは同意してくれた。
「本当か、ありがとう。恩にきるよ」
俺は心底ほっとした。彼が黙っていてくれれば、一日で逃げかえるという事態を避けられる。
「しかし、なぜ、わざわざ外から影武者を?君のところのもう一人のローレンスは?」
「もう一人の? ローレンス?」
初めて聞く名前に俺は首を振る。
「ローを知らない? 同じ学年にもう一人デリンがいるんだ。君の、ラークの従弟になるのかな、又従弟? 分家だと聞いていたが」
「そんな奴のこと聞いてないな。そもそもそんな親戚がいるなら俺を送り込む必要なんて、ないよね」
イーサンは何を思い至ったのか突然、渋い顔をした。
「……そのあたりのことは、デリン家内の事情があったんだろうな」
イーサンにわかっていて、俺には知らされていない事情があるのは不愉快だった。俺しか親戚がいないからお願いします、と頼んできたのに。嘘だったんだな。俺はデリン家の当主に殺意をいだいた。北の戦士をペテンにかけるとはいい度胸をしてるじゃないか。
今度会うことがあったら詰めてやろうと俺はひそかに誓う。
「とにかく、事情はなんとなく分かったから」
俺の殺気を感じたのか、イーサンが慌てて話題を変えた。
「つまり、君はラークをここで探したい。そうだね」
「そう、それで何か手掛かりがあるかと思って部屋を調べてたんだが」
出てきたのは、役に立たないがらくたばかりだった。
「彼は日記とかメモとかそういうものはとっていなかったのかな」
「そういうものはここにはないと思うよ」
イーサンが考え込む。
「ラークは第二王子殿下のサロンに入り浸っていたからね。ここには寝に帰るくらいかな」
「第二王子殿下って、帝国の王子様か?」
たしか、帝国の王子は俺と同じ世代だったはずだ。兄貴が同い年だといっていたような気がする。
「そう。ラークは彼のお気に入りだから、もっぱらあの部屋に詰めていたね。個室も与えられていたみたいだ」
「そんな話、聞いてないぞ」
俺はデリン家に対する怒りを募らせた。
「落ち着けよ。きっとラークは話せなかったんだろう。この学園であったことを外に漏らすのは禁止事項で、今は例の儀式があるから沈黙の誓約もしている」
「だからって、そういう基本的な情報は教えておいてもらわないと困る」
「僕だって、実家には儀式のことは話してないよ。呪われたくないからね。ただそういうものが行われていることはみんな知っている。知っているけれど、内情が分からないから君が送り込まれたんだろ」
「デリン家は知らなかったのかもな」しぶしぶ、俺は怒りを鎮めた。「特にローレンスは無口でおとなしい少年だったらしいから、」
「無口で、おとなしい?」
とんでもないことを聞いたというようにイーサンは目を見開いた。
「誰がそんなことを」
「え? デリン家の人たちはみんなそう言っていたよ。内気だけれど、優しいいい子だったって」
「………」
イーサンが苦い表情でうつむいた。
「違うのか?」
まさか社交的で、おしゃべりだったのだろうか。これから何も知りません、覚えていません、の一本で通そうと思っていたのに、それは困る。
「あー。困ったなぁ。なんでもいいんだよ。なにか、おまえ、知っていることはないか?こう、ローレンスの親しい人とか」
俺は淡い期待を込めてイーサンにきく。
「さっきもいったけど、彼は第二王子の取り巻きだったんだ」
イーサンは目をそらした。
「僕は、あまりラークとは仲が良くなかった。その、馬が合わないというかなんというか」
「おいおい、同室だろ。だったら……」
「同室でもだ」
強い口調でイーサンは俺を遮る。
「僕は彼が何を考えていたのかわからない。彼はほとんどこの部屋に帰ってこなかった。授業も欠席しがちだったんだ。本当にわからないんだよ」
「誰か、親しい人は……」
聞きたいことが堂々巡りになってきた。
「ああああああ」
俺は頭を抱えて座り込んだ。
「どうしよう。手掛かりなしってこと?」
一週間もすれば、失踪の手掛かりをつかんでこの学園からサヨナラできるという俺の計画は甘かった。それも初手で見破られるという……大失態だ。
イーサンが俺の頭の上でため息をついた。
「そんなに、落ち込むなよ。事情は分かった。なんとか、君の補助はするよ」
俺は顔を上げた。イーサンの困った顔が目の前にあった。俺には精霊が目の前に現れたかのようにきらきらして見える。
「本当か」
「ああ。できる限りの援助は……」
「そうか。助けてくれるのか? それはありがとう」
俺はすばやく彼の手を取って振り回す。
「よろしく頼むよ。本当に困ってたんだよ。ありがとう。いや、良かった。おまえが味方になってくれて。こんなに早くローレンスじゃないと気が付かれるなんて思ってなかったからさ」
イーサンは黙って俺の顔を見てそれから俺の手を外した。
「……そういう行動でばれるんだよ」ぽつりと言われた。
「そうなのか? 本物はこんなことしなかったのか。じゃぁ、本物なら、なんといえばいいんだ?」
「……僕もラークと親しかったわけではないけれど、少なくともそんな風に誰構わず尻尾を振り回したりしなかったな」
むっつりと指摘された。そういえばデリン家でも、感情を出すなと散々ダメ出しされていたな。嫌なことを思い出した。
俺はぐっと感情をこらえた。
今は行動だ。彼に見破られたということはほかの人にも早々に気づかれるに違いない。それまでに手掛かりを見つけて、ラークを連れ戻して、入れ替わりだ。それしかない。
「あ、その……」
「君はラーク、ローレンスじゃないだろう」
動かしがたい事実のように、きっぱりと断定されて言葉に詰まる。
覚えていないとか、知りませんとかいっても彼はごまかされない。無理だ。
「えっと、その……どうしてわかった?」
イーサンの無機質な目を正面から見返す。もう観念して開き直るしかない。
俺は回らない頭を回す。逃げよう。今日のうちに。荷物をまとめるのなら早いほうがいいだろう。
「……ラークとあまりに違いすぎる。行動や仕草、嗜好もね……君は北部辺境の出身だろ」
そこまで特定されているとは。俺はおののく。
「だと思ったよ。君が食堂でちょっかいを出した相手にかけた技、あれ、北部で使われている護身術だろ。一度みたことがある」
何かを思い出したようにイーサンの表情が緩んだ。
「よくよく気を付けると、微妙に発音が違う。矯正はしたみたいだけれど、完全ではないな」
「あー、やっぱり」
何度も直すように言われていたけど、完ぺきにはいかなかったようだ。俺はがっくりと頭を抱える。
「なんで、ラークのふりをしてここにもぐりこんできたんだ?」
怖い先生に説教されているような気がしてきた。きちんと姿勢を正して答えなければいけないような。目の前にいるのは、同い年の生徒なのに。
「……一つには儀式に参加すること。公家の子弟が参加しなきゃダメとか何とか言われたから」
俺はイーサンの表情をうかがった。彼はなるほどねとうなずく。
「影武者ってわけか。それで、ラークは、本物のローレンスは、それでどこにいるんだ?」
「どこにいるって、それがわからないから俺がここにいるんだろ?」
淡々と質問していたイーサンの青い目が初めて動いた。
「……事故とか、病気とかそういう理由じゃないのか?」
「だから、わかんないんだよ。行方不明なんだ。……どこかへ失踪した」
「まさか、誘拐?」
イーサンの顔が険しさがます。
「いやいや、そんな大げさなことじゃないと思うぞ。……俺的には駆け落ちでもしたのじゃないかと思ってる」
「確かに、誘拐はあり得ないな」
俺の言葉を無視して、ぶつぶつとイーサンはつぶやく。
「あの、デリン家が子供の守りを固めてないはずはない。それなのに、失踪?」
俺がここにとどまることができるかどうかの瀬戸際だ。頭の片隅で、送り出されてたった一日で帰ってきたことへの言い訳を考える。身バレして任務に失敗しました、って戻ったら、デリン家の連中、怒るかな?親父の名誉に傷をつけることにはならないかな?
「だから、その失踪の手掛かりを見つけてほしいといわれてだね。俺がここに来たんだよ。二つ目の理由だね」
俺の感触ではこちらのほうが俺が送り込まれた主な理由だと思う。デリン夫人も執事も、本当にローレンスのことで心を痛めているようだったから。
俺はなにかを考えこんでいるイーサンの様子をうかがう。彼も単純にローレンスの失踪に驚いていた。ということは、同室だった彼は失踪そのものにはかかわっていない。
ただ、失踪につながる手掛かりを知っているかもしれない。失踪の原因となった人物とか。ここで撤退するにしてもなるべく情報が欲しい。でも、どうやったら聞き出せるかな。この状況で暴力を使うのは論外だし、頭を使うのは苦手だ。
「ラークが失踪したのはいつだ?休みの間か?」
しばらくして、イーサンが聞いてきた。
「うーん、学校から戻ってこなかったらしい」
戻ってこなかった? イーサンは口の中で繰り返した。イーサンの表情は険しいままだ。
「それで、学校で失踪したのではないかとデリン家はにらんで、だから俺を派遣したらしいね」
詳しいことはわからないけど、と俺は付け足す。
「神殿から、連絡はなかったのか?」
「? そんな話は聞いていない。神殿と何か関係があるのか?」
神殿? 女神官と関係があったとか? ありえないな。俺は故郷の怖いお姉さま方を思い出した。帝国ではどうなのかしらないけれど、北の女神官は男にも恐れられている。
それよりも、関係がありそうなのは例の儀式だ。わざわざ、校長室で俺に釘を刺したくらいだ。なにかあったのかもしれない。あのすべてを見透かしたような神官なら、たくらみの一つや二つしてるだろ。
「それは……」
イーサンはまた腕組みをしてしばらく考え込む。青い目が俺ではなく宙をにらんでいた。
彼はどうやらすぐに俺が偽物であることを密告する気はないみたいだ。ひょっとしたら、協力してくれるだろうか。対価に何を出せばいいのかわからないけど、うまく交渉すれば……
「あのさ、」俺はおずおずと切り出した。
「このことを黙っておいてくれないかな。しばらくでいいんだ。本物のローレンスが見つかるまで。見つかったら、元に戻る予定なんだ。それまで、な」
「いいよ……」
拍子抜けするほどあっさりとイーサンは同意してくれた。
「本当か、ありがとう。恩にきるよ」
俺は心底ほっとした。彼が黙っていてくれれば、一日で逃げかえるという事態を避けられる。
「しかし、なぜ、わざわざ外から影武者を?君のところのもう一人のローレンスは?」
「もう一人の? ローレンス?」
初めて聞く名前に俺は首を振る。
「ローを知らない? 同じ学年にもう一人デリンがいるんだ。君の、ラークの従弟になるのかな、又従弟? 分家だと聞いていたが」
「そんな奴のこと聞いてないな。そもそもそんな親戚がいるなら俺を送り込む必要なんて、ないよね」
イーサンは何を思い至ったのか突然、渋い顔をした。
「……そのあたりのことは、デリン家内の事情があったんだろうな」
イーサンにわかっていて、俺には知らされていない事情があるのは不愉快だった。俺しか親戚がいないからお願いします、と頼んできたのに。嘘だったんだな。俺はデリン家の当主に殺意をいだいた。北の戦士をペテンにかけるとはいい度胸をしてるじゃないか。
今度会うことがあったら詰めてやろうと俺はひそかに誓う。
「とにかく、事情はなんとなく分かったから」
俺の殺気を感じたのか、イーサンが慌てて話題を変えた。
「つまり、君はラークをここで探したい。そうだね」
「そう、それで何か手掛かりがあるかと思って部屋を調べてたんだが」
出てきたのは、役に立たないがらくたばかりだった。
「彼は日記とかメモとかそういうものはとっていなかったのかな」
「そういうものはここにはないと思うよ」
イーサンが考え込む。
「ラークは第二王子殿下のサロンに入り浸っていたからね。ここには寝に帰るくらいかな」
「第二王子殿下って、帝国の王子様か?」
たしか、帝国の王子は俺と同じ世代だったはずだ。兄貴が同い年だといっていたような気がする。
「そう。ラークは彼のお気に入りだから、もっぱらあの部屋に詰めていたね。個室も与えられていたみたいだ」
「そんな話、聞いてないぞ」
俺はデリン家に対する怒りを募らせた。
「落ち着けよ。きっとラークは話せなかったんだろう。この学園であったことを外に漏らすのは禁止事項で、今は例の儀式があるから沈黙の誓約もしている」
「だからって、そういう基本的な情報は教えておいてもらわないと困る」
「僕だって、実家には儀式のことは話してないよ。呪われたくないからね。ただそういうものが行われていることはみんな知っている。知っているけれど、内情が分からないから君が送り込まれたんだろ」
「デリン家は知らなかったのかもな」しぶしぶ、俺は怒りを鎮めた。「特にローレンスは無口でおとなしい少年だったらしいから、」
「無口で、おとなしい?」
とんでもないことを聞いたというようにイーサンは目を見開いた。
「誰がそんなことを」
「え? デリン家の人たちはみんなそう言っていたよ。内気だけれど、優しいいい子だったって」
「………」
イーサンが苦い表情でうつむいた。
「違うのか?」
まさか社交的で、おしゃべりだったのだろうか。これから何も知りません、覚えていません、の一本で通そうと思っていたのに、それは困る。
「あー。困ったなぁ。なんでもいいんだよ。なにか、おまえ、知っていることはないか?こう、ローレンスの親しい人とか」
俺は淡い期待を込めてイーサンにきく。
「さっきもいったけど、彼は第二王子の取り巻きだったんだ」
イーサンは目をそらした。
「僕は、あまりラークとは仲が良くなかった。その、馬が合わないというかなんというか」
「おいおい、同室だろ。だったら……」
「同室でもだ」
強い口調でイーサンは俺を遮る。
「僕は彼が何を考えていたのかわからない。彼はほとんどこの部屋に帰ってこなかった。授業も欠席しがちだったんだ。本当にわからないんだよ」
「誰か、親しい人は……」
聞きたいことが堂々巡りになってきた。
「ああああああ」
俺は頭を抱えて座り込んだ。
「どうしよう。手掛かりなしってこと?」
一週間もすれば、失踪の手掛かりをつかんでこの学園からサヨナラできるという俺の計画は甘かった。それも初手で見破られるという……大失態だ。
イーサンが俺の頭の上でため息をついた。
「そんなに、落ち込むなよ。事情は分かった。なんとか、君の補助はするよ」
俺は顔を上げた。イーサンの困った顔が目の前にあった。俺には精霊が目の前に現れたかのようにきらきらして見える。
「本当か」
「ああ。できる限りの援助は……」
「そうか。助けてくれるのか? それはありがとう」
俺はすばやく彼の手を取って振り回す。
「よろしく頼むよ。本当に困ってたんだよ。ありがとう。いや、良かった。おまえが味方になってくれて。こんなに早くローレンスじゃないと気が付かれるなんて思ってなかったからさ」
イーサンは黙って俺の顔を見てそれから俺の手を外した。
「……そういう行動でばれるんだよ」ぽつりと言われた。
「そうなのか? 本物はこんなことしなかったのか。じゃぁ、本物なら、なんといえばいいんだ?」
「……僕もラークと親しかったわけではないけれど、少なくともそんな風に誰構わず尻尾を振り回したりしなかったな」
むっつりと指摘された。そういえばデリン家でも、感情を出すなと散々ダメ出しされていたな。嫌なことを思い出した。
俺はぐっと感情をこらえた。
今は行動だ。彼に見破られたということはほかの人にも早々に気づかれるに違いない。それまでに手掛かりを見つけて、ラークを連れ戻して、入れ替わりだ。それしかない。
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